長澤まさみ&前田哲監督「映画と社会的テーマは相反しない」

2023.4.13 06:30

映画『ロストケア』の前田哲監督(右)と女優・長澤まさみ

(写真6枚)

「まるで催眠術にかかるように・・・」(長澤)

──映画を通して理解していく、ということですね。

長澤:社会的テーマをもった映画ならば人の目に触れるだけで意味があるし、映画もドラマもエンタテインメントなんだけど、そうであることと社会的なメッセージをもつことは相反関係ではないんです。楽しんでいただきながら、さらに考えてもらう。そうできるものだと思っています。

「映画が社会的なメッセージをもつことは相反関係ではない」と語る長澤まさみ

──エンタテインメントだからこそ、難しいことをわかりやすく伝えられるし、問題提起できるといったこともありますよね。

監督:なにが問題なのかということを直接言うのではなく、感じてもらう。人間の尊厳とは・・・? なんて誰にも言えない、答えのない問いかけですが、ストーリーに落とし込むことによって、観た人それぞれが考える、感じることはできると思うんです。松山さんと長澤さんの言葉の応酬を楽しんでもらうだけでいい。映画を観た後には、きっと別の思いも芽生えるはずなんで。

──今回、長澤さんは松山さんと初共演となったわけですが、実際に一緒にお芝居されてみていかがでしたか?

長澤:こんなにも純粋な目をした人っているんだって。あの目で語られる斯波の「正論」に、大友は必死で抗うのですが、ともすれば、まるで催眠術にかかるように引き込まれていってしまう。その感覚は脚本を読んだときからありましたが、現場では本当に催眠術みたいで、松山さんのかなり強い吸引力を感じました。ひとつのシーンが瞳を見つめ合うだけ生まれるんです。

「松山さんと長澤さんの言葉の応酬を楽しんで」と前田哲監督(左)、女優・長澤まさみ(左)

──たしかに、松山さんの「目」はそれだけで語るものがあります。

長澤:でも、それはやはり松山さんの存在感や演技があってのことなので、その意味で学ぶべきことがいっぱいありました。あと思ったのは、今このタイミングで製作されて本当によかったな、と。俳優も年齢を重ねたからこそできるようになることがあって、松山さんも私もこのタイミングだからこそ、あの斯波と大友を演じることができたと思います。

監督:2人とも、役柄の関係性を考えて、現場ではセリフ以外、ひと言も言葉を交わさないんですよ。それは事前に示し合わせたわけでもなんでもなくて。つまり、2人とも自然に同じ考え、同じ姿勢で現場に臨んでいたってこと。すごいなと思いましたし、現場で2人の芝居を観て、これは人に伝わる作品ができるなって手応えがすでにありました。

──最後に、監督としてこの作品をどう観てもらいたいか、教えてください。

監督:まずは、松山さんと長澤さんの芝居を観てくださいというのがひとつ。あとは、観た人それぞれの感じ方をしてくだされば。介護の問題を描いた社会性の強い映画と構えずに観てもらえたらなって思います。僕はこの映画は親子の家族愛を描いた温かい作品だと思っているので。

映画『ロストケア』

2023年3月24日公開
監督:前田哲
出演:松山ケンイチ、長澤まさみ、鈴鹿央士、ほか
配給:東京テアトル、日活

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