まさかの「あづき」つながり、女版メロスは歴史動かす庶民の象徴【どうする家康】

2023.4.18 06:30

侍女・阿月(伊東蒼)(C)NHK

(写真3枚)

松本潤が徳川家康を演じ、その厳しい選択だらけの人生を描きだす大河ドラマ『どうする家康』(NHK)。第14回『金ヶ崎でどうする!』では、家康が浅井長政の裏切りを確信する、そのきっかけを作ったひとりの少女の存在が、視聴者の涙を誘った(以下、ネタバレあり)。

■どうする家康、阿月の命を無駄にするな

織田信長(岡田准一)の天下取りの野望を察し、恐れを抱いた義弟・浅井長政(大貫勇輔)は、信長を討つことを決意。越前の大名・朝倉義景と戦うために、金ヶ崎に陣を張っている信長に援軍を送るふりをして、義景とはさみ撃ちにする計略を立て、越前に進軍する。

それを知った長政の正室で、信長の妹・市(北川景子)は、そのことを兄や、兄に帯同している家康に伝えようとするが、軟禁状態で身動きが取れない。金ヶ崎の出身で、実は男に負けないほど健脚だった侍女・阿月(伊東蒼)は、市にも内緒で城を抜け出し、10里(約40キロ)以上の山道を走り抜ける。

長政が総攻撃を仕掛ける日の早朝、家康の陣にたどり着いた阿月は「おひき・・・そうらえ」のひと言を残して絶命。家康は、自陣に駆けつけた信長にこのことを伝え「阿月の命を無駄になさるな。逃げんか、あほたわけ!」と一喝。阿月の遺体を前に、信長は金ヶ崎から全軍を引き上げることを決意するのだった・・・。

■まさかの擬人化&走れメロス的な展開

娘・茶々を抱きながら、侍女たちと笑い合うお市(北川景子)(C)NHK
娘・茶々を抱きながら、侍女たちと笑い合うお市(北川景子)(C)NHK

織田信長の歴代の戦いのなかでも、もっともピンチだった戦のひとつ「金ヶ崎の戦い」が描かれた第14回。長政の謀反を知ってからの撤退の早さが、生き延びることができた大きな要因だが、これは市が「はさみ撃ちにあう」ことを暗に伝える、両口を閉じた小豆袋を信長に差し入れたことでその謀略を知ることができたから、というのが通説となっている。

そして今回、夫からキッパリと裏切りを伝えられた市は、やっぱり小豆袋で兄に知らせる・・・と思いきや、それは長政の兵に見つかってしまうという大誤算。どうする市? と思ったら、なんと小豆ではなく阿月(あづき)という侍女がみずから口頭で伝えに走るという、まさかの擬人化&『走れメロス』的な展開となった。

この奇抜なアイディアには、SNSでも「小豆袋を擬人化すると健気な阿月ちゃんになるのか」「小豆袋を外してどうするかと思えば、阿月って女中が猛ダッシュして伝えにくるシナリオにするのすごい」「小豆袋のエピソードを阿月に変えて膨らませ、おまけに泣かせて来る古沢脚本の妙」と、感嘆の声が並んだ。

■阿月の境遇も描写し、抜かりない説得力

また阿月を単なる伝令役としてだけではなく、男子に負けないほど早い足を封印された過去や、父に人買いに売られたものの市に拾われ、恩を返す機会を探っていたという、阿月の境遇も描写。それによって、ほぼフルマラソンな距離を走れる脚力があることや「なぜ市のためにそこまでする?」ということにも、抜かりなく説得力を持たせることができた。

放送中、SNSは「すげえ完全に主人公じゃん阿月」「この娘っ子が走らなきゃ歴史が変わってしまう」「観てるこっちがつらいよ!」「誰か、阿月ちゃんに草履、いや、マラソン用地下足袋を持ってきてあげて」など、阿月への応援やハラハラしながら見守るコメント一色に。

そして「マラソン」の名の由来となったギリシアの伝令のように、家康に市の言葉を伝えて事切れるという最後に「今回は阿月に泣かされて、もう最後は号泣」「待って待って待ってたった今幸せを願ったのに阿月ちゃんそんなのってないぜ」「阿月ちゃんにコンフェイトお供えするにはどこへ行ったらいいですか」などの哀悼の言葉が並んだ。

■ワンオブゼムな存在が歴史の歯車を回す

侍女・阿月(伊東蒼)とお市(北川景子)(C)NHK
侍女・阿月(伊東蒼)とお市(北川景子)(C)NHK

ちなみにSNSでは「阿月のエピソードに、そんなに尺を取る必要がある?」という疑問の声もあった。しかしもともと『どう家』は、たとえば三河一向一揆の人々や、服部半蔵(山田孝之)を助けて死んだ伊賀の忍びたちなど、ほぼフィクションな無名の人々の存在が克明に描かれ、彼らが主人公たちの成功や成長のきっかけになるというのが、特徴的な大河となっている。

これは、「今も名前が残る人々だけではなく、こういう記録に残らなかった人たちが、歴史を動かす大きな鍵となったケースが実際にあったかもしれないし、むしろそっちの方がドラマとして面白いよね」という、古沢と制作陣の強い想いもあるのだろう。実際、阿月が間に合わなかったら(このドラマ上では)三英傑はまとめて金ヶ崎で死んでいたかもしれないわけだ。

個人的には、手の届かないような存在の人間よりも、私たちに近いワンオブゼムな存在が・・・、しかも戦国の世では「引っ込んどれ」と言われがちな女性が、歴史の歯車を回すというのは悲しいながらも非常に痛快な気分であった。阿月というキャラクターを生んだ古沢良太にも、その役をはかなくも力強く演じた伊東蒼にも、大きな賛辞を送りたいと思う。

『どうする家康』は、NHK総合で日曜・夜8時(23日は8時15分)から、BSプレミアム・BS4Kでは夕方6時からスタート。第15回『姉川でどうする!』では、浅井・朝倉の軍と激突する「姉川の戦い」と、のちの徳川四天王の一人・井伊直政(板垣李光人)との衝撃の出会いが描かれる。

文/吉永美和子

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