せいや&ゆりやんを新探偵にしたナイトスクープ、番組の狙いは?
タレントが「探偵」となり、視聴者から寄せられた依頼を調査するバラエティ番組『探偵!ナイトスクープ』(ABCテレビ)。2023年3月で放送開始から35年を迎えた、関西の名物番組だ。
これまで探偵を務めていたたむらけんじ、澤部佑(ハライチ)、橋本直(銀シャリ)が3月で卒業。代わって、せいや(霜降り明星)、ゆりやんレトリィバァ、永見大吾(カベポスター)、桂二葉が新探偵に就任した。
ただ、2月にせいや・ゆりやんの新探偵就任が発表された際には、SNSの投稿や各ニュースサイトのコメント欄は好意的な反応だけではなく、否定的な意見も目立った。
そんななか、4月7日にせいやの初探偵回が放送。「逆立ちをしながら大便はできるのか」という依頼に挑み、せいや、番組の放送作家、依頼者らが総出で尻を丸出しにして踏ん張ってみせた。せいやにいたっては大便だけではなく嘔吐までし、現場はカオスに。そんな同回にSNSは予想通り大荒れとなり、「下品だけど笑える」「下品すぎて見るのをやめた」と感想も真っ二つとなった。
4月12日のゆりやんのデビュー戦は、「声が響く場所で、人目を気にせず大声で歌いたい」という依頼者の願いを叶える内容。依頼者の女性は3人の子どもを持つ母親という立場で、コロナ禍も重なり、大声を出すことを我慢し続けてきたという。ただそれが「自分らしさがなくなっているのではないか」という葛藤につながっていた。
そして場所が用意され、依頼者と一緒にゆりやんも大声で歌唱。歌い終えるとふたりは泣いて喜んだ。せいやの探偵回とはガラッと変わって心温まる回となった。
■ せいや&ゆりやんの探偵就任に、否定的な意見があった理由
それにしてもなぜ、せいや・ゆりやんの探偵就任は賛否があったのか。その理由として、「土着的」な番組のファンが多いことが挙げられる。
上岡龍太郎が局長をつとめていた番組初期の探偵は、嘉門達夫、越前屋俵太、北野誠、立原啓裕ら。吉本色が薄いその顔ぶれは、いかにも大阪臭さがあった。大阪のローカル番組、しかも深夜帯放送ということもあって、視聴者は安易なポップさを許さず、カルト的かつアングラ的なものを同番組に求める傾向があったように思う。
そんな初期からの視聴者が現在も多いこともあり、誤解を恐れずに言えば「『ナイトスクープ』とはこういうもの」という意見を持ち続ける「うるさ型の視聴者」が根強く存在している。そういった層にとって、せいや、ゆりやんは従来の番組のカラーとは不釣り合いに映ったのではないだろうか。
ただそれでも、せいや・ゆりやんという吉本所属の若手芸人路線に舵を切ったのは(もちろんそのなかにはカベポスターの永見も含まれる)、土着性の濃さを払拭するためではないか。せいや・ゆりやんの探偵就任のニュースに対する視聴者のコメントのなかに、「関西の番組なのに関西で活躍している人を起用しないのか」というものがあった。ただ、それこそが番組の「狙い」だと思われる。
■ 抜てきは『TVer』試聴を意識したローカル色の払拭か
『ナイトスクープ』は2016年より動画配信サービス『TVer』での配信がスタートした。それまで同番組は、関西と一部地域でテレビ放送されていただけだった。
視聴地域が限定され、しかも「テレビだけ」で観るのであれば、「関西の番組だから関西で活躍するタレントを」というのも納得できる。ただテレビでのリアルタイム視聴が減っているなか、『TVer』での視聴を念頭に置いた場合、番組初期のような「ローカル色」を出し過ぎてしまうと再生数では厳しい部分がある。
なおかつ若い世代やスマホ視聴をデフォルトとする層をターゲットとするなら、全国的人気を誇り、TikTok、YouTubeのショート動画などにもハマりやすい、せいや・ゆりやんが抜てきされるのは納得の人選に思える(澤部も全国タレントだが支持層はほんの少し上の世代だ)。
今後『TVer』などの配信コンテンツでの視聴がより強くなるはず。それを見越して視聴者層の「血の入れ替え」を試みる「賭け」に出たのではないか。
■ せいやの探偵回で感じた「大阪の番組やからこれでもええねん」
せいやがチャレンジした「逆立ちをしながら大便はできるのか」のような下品な内容は、『ナイトスクープ』では珍しい依頼ではない。
たとえば2020年には、探偵の間寛平が「おならが出る瞬間の肛門の動きが見たい」という依頼を調査。その調査過程でスタッフらが、肛門を舐める、予期せず大便が漏れるなどのハプニングを起こしていった。近年の『ナイトスクープ』では伝説的な下品回として知られている。
せいやの「逆立ちをしながら大便はできるのか」はそれに匹敵・・・いや、それ以上の強烈さがあった。番組的にもブーイングを食らうことは当然、想定していただろう。そういった賛否両論を前提に、とにかくギリギリのラインを攻めて笑いを取ろうとするところは、いかにも松本人志局長が軸となっている番組らしさがあった。そして今後、その色合いがより強まっていくことも予感させた。
特にせいや・ゆりやんは松本局長と多数共演経験があり、ある意味、松本イズムを肌で強く感じてきているはず。『ナイトスクープ』における松本のビジョンを遂行するにはもってこいの芸人だ。
いまや松本局長の笑いに現在のコンプライアンス問題をくっ付けて語るのは常套句・・・というより、ややイージーな推察である。それでもせいやの探偵回には、「依頼」「調査」という名目のもと、逆風が強く吹いているバラエティ表現に対する実験と挑戦が感じられた。
いや、視聴環境と探偵のキャスティングについては全国規模を意識していながら、内容に関しては「大阪の番組なんやからこれでもええねん」という良い意味での開き直りが見てとれた。
さまざまな時代の変化があるなかで、この長寿番組をどのようにアップデートしていくのか、そしてどの点を現状維持させていくのか。せいや・ゆりやんの探偵回から、番組自体がそういったことを自問自答しているのではないかと思えた。5月からのカベポスター永見、桂二葉の新探偵も期待したい。
文/田辺ユウキ
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