奈良の子鹿70頭、今年も一般公開へ「独特の生態に理解を」

2023.6.4 07:30

鹿苑の赤ちゃん鹿と母鹿の様子(2023年6月3日撮影)

(写真10枚)

6月の「奈良公園」は、鹿の出産シーズン真っ只中。今年で12回目となる子鹿の特別公開が6月1日より、「春日大社」境内地にある「鹿苑(ろくえん)」(奈良市春日野町)でスタートした。

人々と身近に暮らしている奈良の鹿。人と鹿、両方のトラブルを防ぎ安全に出産するために、毎年4月ごろから「奈良の鹿愛護会」によって妊婦の鹿が「鹿苑」に保護され、6月の1カ月限定で生まれた赤ちゃん鹿が一般公開される。現在は165頭の母鹿と70頭の子鹿が収容されている。

観覧者は母鹿に、この時期だけの「農耕飼料」を与えることができ、運が良ければ苑内での出産シーンに立ち会えることも。例年1万人以上もの来場者が訪れる奈良の人気イベントだが、ただ単に可愛い赤ちゃん鹿を見せるために開催されている訳ではない。なぜ保護している母子鹿を一般公開しているのか? 同会の石川周さんに話を訊いた。

■ 人と接触することで「育児放棄」?

出産したばかりの赤ちゃん鹿を舐める母鹿の様子(2021年撮影)

「パッと見では、観光イベントのように思えるかもしれませんが、元々の主旨は違います。奈良公園の母子鹿の保護と啓蒙活動のためにおこなっています」と石川さん。子鹿公開がおこなわれるより以前から、母鹿を集めて収容し保護する活動はおこなわれてきた。

出産したばかりの母鹿は、外敵から子どもを守るために気性が荒くなっており、人が近づくと攻撃することがある。さらに母鹿は、自身の子どもを「におい」で識別しているため、人が子鹿に触ってしまうことで別のにおいが付き、育児放棄してしまう恐れがあるそうだ。この時期独特の鹿の生態を深く理解してもらおうと、子鹿公開がおこなわれるようになったという。

■ あくまでも「野生の鹿」として

市街地と密接な関係で共生している野生の鹿は、世界的に見てもめずらしい。石川さんは、「生まれた時から鹿せんべいを与えられる環境にある野生の鹿というのは、めずらしいと言えます。大事にして保護もするけれど、あくまで野生としてお付き合いを」と語る。

「鹿苑」は産婦人科のような施設ではなく、難産でない限りは愛護会の獣医が出産を手伝うことはない。7月中旬頃ごろには母子鹿ともども元の奈良公園へ戻されるので、「我々の基本スタンスは見守ることです」と石川さん。

「鹿苑に収容されず、奈良公園内で出産する母鹿もいます。人と関わりが深い環境下にいる母子鹿は、出産後でも保護することがありますが、人と関わりが無ければ、そのままの自然環境で。本来は、奈良公園で出産させてあげたいと思っています」と力を込める。

怪我や病気にかかった鹿が収容され、治療などのフォローを受けることができる「鹿苑」だが、目指すは奈良公園に戻すこと。6月2日、奈良市に大雨洪水警報が出され、子鹿公開は中止になったが、その場合でも母子鹿に対して特別なケアをすることは無く、奈良公園で暮らす環境と同じように見守っているという。

生まれた子鹿は、生後2~3週間は草むら付近で隠れて過ごす習性があるため、子鹿は鹿苑内のサイコロのようなブロックのなかで休む

そのほか、公園内で生まれた赤ちゃん鹿のトラブルを伺ったところ、石川さんは「生後間もない子鹿は草むらにじっと潜んでいることが多いです。それを弱っていると勘違いし、保護を求めて愛護会まで抱きかかえて連れてくる人が毎年います。子鹿のためにしたことが、逆になってしまう。奈良公園で子鹿をみかけたら過剰にならず、静かに見守っていただけたら」と呼びかける。

会場内では、公園内で暮らす母子鹿へ接する際の注意点が放送され、愛護会の活動や子鹿の生態を紹介するコーナーも設けられている。公開時間は、昼11時~2時(入場は1時半まで)。料金は一般300円、高校生以下無料。6月30日(月曜休)まで公開される。詳しくは公式サイトにて。

取材・文・写真/いずみゆか

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