【連載vol.20】見取り図リリー、佐伯祐三を観る

2023.6.10 11:45

晩年の作品。すっかり弱っていたにも関わらず、郵便配達員に出会ってモチベーションアップ。そして描かれたのが有名な《郵便配達夫》

(写真10枚)

アート大好き芸人「見取り図リリー」が、色々なアート展へ実際に観に行き、美術の教員免許を持つ僕なりのおすすめポイントをお届けするという企画「リリー先生のアート展の見取り図」第20回でございます。今回は6月25日まで「大阪中之島美術館」(大阪市北区)で行われている『佐伯祐三 ― 自画像としての風景』です。

佐伯祐三さんはもちろん知っていましたが、ここまで向かい合ったのは初めてで、とても面白く感動する展覧会でした! まず入ると自画像が並んでいます。年代がバラバラなので、いかに作品のスタイルが変わっていったのかもわかります。レンブラントやルノワールの影響を受けているような真面目な自画像もありますが、注目は《立てる自画像》。

ヴラマンクに「アカデミック!」と言われた後、1924年に描かれた《立てる自画像》。よくキャンバスを有効活用したらしく、裏にはノートルダム協会の作品が描かれていました(反対側で観てみて)
ヴラマンクに「アカデミック!」と言われた後、1924年に描かれた《立てる自画像》。よくキャンバスを有効活用したらしく、裏にはノートルダム教会の作品が描かれていました(反対側で観てみて)

フォーヴィスム(注1)の巨匠ヴラマンク(注2)に初めて佐伯祐三さんが作品を見てもらったとき、「アカデミックすぎる作品!!」と怒られ、画家としての人生を変えられたのだとか。アカデミックというのは、漫才で言うところの「ネタがベタすぎんねん自分!」みたいな事なんでしょうね。それを言われた後に描いた自画像が《立てる自画像》。自分と向かい合いオリジナリティを追求したんでしょうね。今まで並んでいる自画像とはまったく違うので、それを踏まえて観てほしい!

次に大阪と東京の風景画が並んでいるのですが、絵がとりあえず上手いんです。例えば美術学校在籍中に描いた《勝浦風景》なんてすごい画力と緻密さで圧倒されました。あとこれまでイメージがなかったのですが、静物画がめちゃくちゃよくて、僕のタイプの絵。味がありつつ存在感があり、こんな絵を描きたいってなりました!《絵の具箱》とか《蟹》とか特に好きでした。

佐伯さんは1924年に1度目の渡仏でパリへ。次の章では、約2年滞在したなかで描いた風景画が並んでいます。約半年経ってヴラマンクに言われたのが先ほどの言葉。そこで時間と共にどんどん作風が変わっていき、《パリ遠望》などはセザンヌ(注3)の影響を強く感じますが、それ以降は佐伯さんのオリジナル要素が強くなっていきます!

パリの街の風景を多く描き、はじめは遠めから観た街の風景なのですが、どんどん建物にクローズアップしていきます。酒場を描いた《レ・ジュ・ド・ノエル》という作品は画面いっぱいにパリの建物を正面から描き、立体感は感じないのですが、目に入ってくるエネルギー量がすごい! 色んな絵を観てきましたが、これは佐伯さんにしか出せないオリジナルだなぁと素人おじさんながら思いました。目の前にある物を描いているのに、今までにない構図とその物をどう自分の中で表現するか、反芻した結果が作品に表現されていて、改めてすごい画家だなぁと。

同じ場所を繰り返し、いろんなタッチで描いたのも特長。こちらがおもちゃ屋を描いた《レ・ジュ・ド・ノエル》、同じ場所でも描き方も印象も全然違います
同じ場所を繰り返し、いろんなタッチで描いたのも特長。こちらが酒場を描いた《レ・ジュ・ド・ノエル》、同じ場所でも描き方も印象も全然違います

一度は一族の説得で帰国して、1927年に2度目の渡仏。その時の作品は線がすごく特徴的でした。例えば木を描くときは筆の勢いそのままに、水墨画のようにも見えました。そのときそのときで常に自分の美を追求している過程を感じて感動しました! どれも充分に素晴らしい作品だと思うのですが、佐伯祐三さんは、満足する絵が描けないというプレッシャーが常にあったそうです。

そのストイックさが生じてでしょうか、佐伯祐三さんは精神を病んでしまいます。そして同時期に結核も患いました。それまでは晴れている日は必ずに出て1日中風景画を描き、雨の日は静物画を描いていたのですが、今まで通りのようには動けず・・・。そして、寝込んで家にいるときに、闘病中に郵便を届けてくれる郵便配達夫にインスピレーションを受けて、モデルを依頼して描き切りました。それが、教科書にも掲載されて有名な《郵便配達夫》です。

大阪中之島美術館でおこなわれている『佐伯祐三 ― 自画像としての風景』。入り口にはフォトスポットもありました
大阪中之島美術館でおこなわれている『佐伯祐三 ― 自画像としての風景』。入り口にはフォトスポットもありました

彼にとっては珍しい人物像を描いた約5カ月後、30歳の若さで亡くなります。50歳、60歳、70歳のとき、佐伯祐三さんはどんな絵を描いたんでしょうか。常に高みを目指し続ける画家の未来をもっと見たかったなー。

取材中に、教えてくれながら一緒に観ていた学芸員の先生に、こんな事を聞いてしまいました。「もちろん絵に興味がある人はみんな佐伯祐三さんを知っていますが、なんでもっともっと一般的に有名にならないんですか? こんな絵もうまくてオリジナリティもあるのに」。

すると先生は「こっちが聞きたいです! 有名にしてください」と、笑いながら答えてくれました。先生すいません。僕のような小童にはそんな影響力ございません! これを読んだ皆さまだけでも佐伯祐三さんのすごさをぜひ観に行ってください!

(注釈1)フォーヴィスム…20世紀初頭に広まった絵画運動。訳すと野獣派。リアルを追求する写実主義とは異なり、自分が感じるままの色彩で、明るく強烈で、のびのびしているようなスタイル。

(注釈2)ヴラマンク…モーリス・ド・ヴラマンク…画家&文筆家。独学で絵を学び、風景画、静物画を描き、荒々しい筆致や暗い陰鬱とした色合いの作品が特長。アンリ・マティス、アンドレ・ドランらとともに「フォーヴィスム」の作家として有名に。

(注釈3)セザンヌ…ポール・セザンヌ。フランスで、モネやルノワールらともに印象派として活躍し、独自のスタイルを追求し、ポスト印象派に。キュビスムや20世紀の美術にも影響を与えたと言われる画家。

【見取り図リリーの近況】

見取り図のオフィシャルファンクラブ「見取り図ポッセ」が今年できました。最新情報の発信や会員限定の生配信、限定グッズ販売やイベントも予定。ポッドキャスト番組だった『スタンド・バイ・見取り図』は、4月からTBSラジオでスタートし、毎週日曜放送・23時〜23時半に放送され、引き続きポッドキャストなどでも聴けます。YouTube『見取り図ディスカバリーチャンネル』では、東京にYouTube部屋を構えたので、今までできなかった企画もどんどん挑戦していくのでぜひ。

『佐伯祐三 ― 自画像としての風景』

1898年に大阪で生まれ、1928年に30歳という若さで逝去した佐伯祐三の15年ぶりの回顧展。大阪中之島美術館は65点(寄託を含む)を所蔵し、佐伯作品が美術館設立のきっかけのひとつになったことから、開館1周年記念展として実現。いわゆる”絵画映え”しない風景に焦点を当て、一つひとつの対象にこだわって描き続けた佐伯。本格的な画業生活はたった4年あまりという短いなか、自己を表現するために描いた風景画は、佐伯本人の眼差しを追体験できるような作品に・・・そんな理由から今回のテーマは”自画像の風景”となっている。期間は2023年6月25日まで。料金は一般1800円、高大生1500円、小中生500円。

『佐伯祐三 ― 自画像としての風景』

期間:2023年4月15日(土)〜6月25日(日)・月曜休館
時間:10:00〜17:00(入場は〜16:30)
会場:大阪中之島美術館 5階展示室(大阪市北区中之島4-3-1)
料金:一般1800円、高大生1500円、小中生500円
電話:06‐4301‐7285(大阪市総合コールセンター/8:00〜21:00)

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