何でもドラムを叩いてくれる…千日前のスナックでボーカル気分

2023.8.9 20:30

プロが横で生ドラムを叩いてくれる、大阪・千日前のスナック「カラオケ stick」

(写真7枚)

先日「面白いお店があるので行きましょう」と知人に連れられて行ったのが、大阪・千日前にある「カラオケ stick(スティック)」というお店だった。

エレベーターでビルの4階まで上がり、扉を開けてみると、一見普通のカラオケスナック・・・いや、よく見ると店の奥のステージ横にドラムセットが設置されている。

そう、ここはお客さんの選曲に合わせて「横でドラムを叩いてくれる」というコンセプトのカラオケスペースなのである。しかもドラムを演奏してくれるのは、長らく音楽業界でプロとして活躍している専属ドラマーだという。

「面白いお店」ぐらいの情報しか聞いてなかった私は面食らってしまい、ステージで歌う勇気を得るために生ビールをかなりのペースで飲んだ。そのため、そのときの記憶はぼんやりしてしまっている。その後も「あれはなんだったんだろう」と不思議な気持ちを引きずっていたので、今回、改めてお店を取材させてもらうことにした。

お酒を飲んだあとに引き寄せられる「stick」の看板

■ プロドラマー2人が日替わりで常駐

正面にステージがあり、その左にドラムセット。それを広く囲むようにテーブルとソファが設置されている。店内はちょっと暗めの照明で照らされていて、お酒を飲みながら歌ったり、居合わせたお客さん同士で盛り上がったりするような、カラオケスナック的な雰囲気になっている。

ドラムセットを前に座っているのは、嶋村泰宏さん。「金沢一彰&レガートオーケストラ」というバンドのドラマーを務める現役ミュージシャンである。高校の頃に観た映画『ウッドストック』に衝撃を受け、音楽に興味を持つようになったという。

このお店には、嶋村さんのほかにもうおひとり、大樋稔さんというプロドラマーが所属していて、営業日ごとにどちらかがお店に入っているそう。

シラフでは少し緊張するので、ひとまず生ビールを…

店長の藤本安秀さんによると、もともとこのお店は18年ほど前に「夢想花」という店名でスタート。藤本さんもお店に関わってはいたが、当時の店主は別の方で、歌が好きだった当時の店主が「ドラマーのいるカラオケ店をやりたい」と思いついて始まったものだとか。

2022年になって店主を藤本さんが務めることになり、そこで心機一転、お店の名前も「stick」に。お客さんのほとんどは常連さんで、みなさん、歌うことが大好きな人ばかりだという(音楽好きの芸人さんもよく来られるそう)。

■ なるほど、これはカラオケ以上に気持ち良い

さて、生ビールを2杯飲んで少し気持ちを落ち着かせたところで、サザンオールスターズの『希望の轍』を予約してみる。オケが流れると、それに合わせ、嶋村さんがドラムが叩き出す。そもそものオケにもドラム音は入っているわけだから、「そこに生のドラムが重なって、何か違うもんなの?」と思う人もいるかもしれない。が、実際に歌ってみると、これがかなり違うのである。

ドラマーの嶋村さんと目を合わせながら歌うお客さん

生のドラムが入ると、自然と「嶋村さんのドラムと息を合わせよう」という感覚になる。サビの前で少しタメを作って、サビからドーン!みたいな、1曲のなかの緩急をいつもより意識するようになるのだ。

ときおり、横にいる嶋村さんと目が合ったりして、一緒にステージを作っているような気持ちに(もちろんそんな気がするだけだが)すらなってくる。なるほど、これはきっと歌うのが好きな人なら普通のカラオケ以上に気持ちいいだろうなと思う。

■ ほとんど「初めて聴く曲」を叩くという嶋村さん

前回、この店に来たとき、ほかのお客さんがYOASOBIの『アイドル』という最新の流行曲を歌っていて、そのときも嶋村さんがドラムを叩いていたのだが、終わったあとで「この曲、知ってたんですか?」と聞いたら、「いや、今初めて聴いた!」と笑いながらおっしゃっていた。

もちろんみんなが知っているカラオケの定番曲みたいなものはあるにせよ、ほとんどの場合、嶋村さんは初めて聞く曲に伴奏しているんだとか。「叩くのが難しい曲もあるんですか?」と聞くと、「昔の歌謡曲はプロの編曲家がやっていたから、わりと型が決まっていてある程度予測できるけど、今の曲は難しいわ」という。

「では私も…」と自らステージに立つ藤本店長

ちなみに、この店の前身である「夢想花」のオープン当初からこの店で叩いている嶋村さん。「ここでは切れ目をうまく見つけんと休憩できないんよ(笑)。グループのお客さんが来たら一通り歌い終わるまでは待たないとあかんかったりね」と、こういうスタイルのお店だからこその苦労もあるようだった。

■ ほかのお客さんの歌も、ライブのような感覚に

ここで筆者とともに取材に同行してくれた編集Mさんが、三代目J SOUL BROTHERSの『R.Y.U.S.E.I.』を選曲。この曲も初めて聴いたらしかった嶋村さんのドラムは、終始ファンキーで素敵だった。

「なんとなくドラム映えしそうな曲」を考えながら選曲するのも、普通のカラオケと違う点だ。とはいえ、店長の藤本さんいわく、「演歌、童謡、歌謡曲、なんでもござれです! 好きな歌を歌ってください」とのこと。その後も筆者とMさんは『WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント』や『夢見る少女じゃいられない』など、世代バレバレな曲を、嶋村さんのドラムとともに歌って楽しんだ。

お客さん同士一体となって、ステージを盛り上げる

夜が更け、徐々にお客さんが増えてきた。なかには「味園ビル」でアニソンバーをやっているという方も。以前この店に来て、生ドラムと一緒に歌う楽しさに目覚めたのだとか。この店にいると、ほかのお客さんの歌を聴くのも、ちょっとしたライブを見ているような気分になる。

曲の最初から最後まで、嶋村さんのドラムがどんな風に曲を締めくくるかも含め、全体を大事に聴くような姿勢になるから面白い。気が付けば好きなアーティストの演奏を聴いているかのように盛り上がっている自分がいる。

「常連さんが多いけど、もちろん一見さんも歓迎ですよ。この間も看板を見て女の子2人、ふらっと入ってきたくれて。あの子たち、めっちゃくちゃ歌うまかったわー!」と藤本さん。「stick」は、いつものカラオケより少しドキドキして、かなり気持ちよく歌えるお店なので、歌を歌うのが好きだという方はぜひ行ってみてほしい。

場所は大阪メトロ「日本橋駅」から徒歩約5分。営業時間は夕方6時から夜11時まで(月・火曜休)。料金は歌い放題3000円(ソフトドリンク2杯、もしくはアルコール1杯付/プラス1500円で2時間飲み放題)。

取材・文・写真(一部)/スズキナオ

「カラオケ stick」

住所:大阪市中央区千日前1-8-20 高橋ビル4F
電話:090-5242-4422
営業:18:00~23:00(昼の営業も受付中、要相談)
月・火曜休

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