まさかの8万ダウンロード、「だんじり」専用アプリって?
9月から10月にかけて、大阪でおこなわれる一大イベントといえば『だんじり祭』だろう。岸和田や堺など南大阪エリアでは、シーズンが近づくにつれ町がだんじり色へと染まっていく。そんな折、とある雑誌で「だんじりマニアに送る、だんじりマニアの為のだんじり総合情報アプリ」と書かれた広告ページを目にした。
キャッチフレーズが気になり広告を読んでみると、GPS機能を使うことで祭礼中の地車(だんじり)の位置が一目でわかるというアプリだという。便利そうだが利用する人はいるのだろうか? と疑問に思っていたが、なんとダウンロード数が8万6000件を超えているというから驚きだ。
実際のところどういったユーザーが、どのように使用しているのだろう? 祭礼総合情報アプリ『地車&太鼓』をリリースした「テクノアイ」(大阪市西区)の代表取締役・田中秀範さん、アプリの総合責任者・田中千貴さん、開発に携わった川端優瑠さんに話を訊いてみた。
■ アナログ中心のだんじり界に進化を
──「テクノアイ」では、元々こんなお祭り関係のサービスに取り組んでいたのでしょうか。
千貴さん:うちはもともとソフトウェア開発などを請け負うシステム会社で、一般層に向けてアプリをリリースするのは今回が初なんですよ。なので、社としても新しい試みとなります。アプリ開発は、新入社員の川端くんが担当しているんですが、だんじりやアプリ制作に関する知識がほとんどゼロの状態から、手探りで取り組んでくれました。
──そうだったんですね。そもそも、なぜだんじりに関するアプリをリリースすることになったんでしょう?
秀範さん:僕らが住んでいる堺にもだんじりがあり、僕が地域の年番(祭りの責任者)をつとめた経験がありまして。祭りの日に「今、どの町のだんじりがどこに来ているか」などを無線で聞きながら、その都度ホワイトボードにマグネットを貼って確認するというやり方がなかなかアナログで大変でした。今はテクノロジーも進んでいますし、位置情報を利用して何かできないか? と考え、5年ほど前からアプリの原型となるサービスを作り、自分たちの町だけで使っていました。
千貴さん:僕は2年前にこの会社に転職したんですが、「新たにできることがないか」と考えたとき、そのサービスが何かに応用できるのではないか、と気づきました。当時コロナ禍でだんじり文化が落ち込んでいたこともあり、地域活性化にもつながるんじゃないかな、と。
──そして今、ダウンロード数が8万6000件を超えているんですよね。すごい注目度です。
千貴さん:それだけお祭りマニアというか、こういったアプリを求めてた人が多いってことですよね。誰もが簡単に思いつくアイデアかもしれませんが、まだ実現していなくて。だからこそ僕たちが作ろう、と思い立ったんです。
──だんじり方面にフォーカスしたアプリですが、どういったユーザーが多いんでしょう?
千貴さん:食事や給水所を用意している家族や父兄会、子どもを参加させている両親、交通整理の人たちなどから好評でした。だんじり祭りをサポートする人たちにとっては、だんじりの位置を把握できるのってすごく便利なんです。
秀範さん:あと、お祭りの当日、だんじりを避けるために使うというレビューもありました(笑)。本来意図していた使い方とは違いますが、ありとあらゆる使い方ができるんだなと思いましたね。
■ 将来的には「だんじり版マッチングアプリ」も?
──そんな反響を経て、見えてきた改善点などあれば教えてください。
千貴さん:やっぱり1年目はいろいろとバグやトラブルがありました。まずはGPSの充電が7時間しか持たず、こまめに充電しなきゃいけないところが改善点でした。本番は充電する暇もないので、30時間持つようにグレードアップしています。
──なるほど。
千貴さん:機能面でいうと、初期は現地で写真撮って載せられる「だんじり版インスタグラム」みたいな機能もあったんですけど、やっぱり本家インスタグラムには勝てませんでしたね(笑)。もっと実用的な機能が必要とされていると気づいたので、だんじり小屋の位置や仮設トイレの場所が表記される「トイレマップ」を追加しました。
──この1年で大幅に進化しているんですね。なかでもイチオシの機能はありますか?
千貴さん:メイン機能はGPSですが、それだけだと1年間使ってもらえないんですよね。そこで、今年から力を入れている機能が各町専用のページです。町ごとの基本情報や当日のコース表などがチェックできるようになっていて、登録すればマップにその町の情報だけを表示できるようになっています。
──便利ですね。
千貴さん:専用ページにはデジタル掲示板もあり、青年団の募集やハッピの貸出などの情報を、町内だけでなくアプリユーザーに向けても発信できるようにしました。地域によっては、専用ページの掲示板を回覧板のように使ってるところもあるそうで。他県に住む娘さんが、高齢の両親にかわって情報をチェックをしているケースもあると聞いています。
秀範さん:まだまだ試行段階ですが、今後は町の盆踊り大会やスポーツイベントの告知にも使えそうです。
──なるほど! だんじりだけじゃなく、地域間のコミュニケーションツールとしても使えるんですね。
秀範さん:やっぱり今、どこの町もお金と人材の問題を抱えています。少子化もあって青年団に新しい子が入ってこず、興味があっても団費(活動に必要な費用)が支払えない、そして団が継続できないという悪循環に。今は実施日程が異なる町同士で、互いのメンバーを派遣しあうところもあるので、将来的には他町とコミュニケーションが取れるプラットフォームができたら夢がありますよね。
千貴さん:現状だと、元から接点がないと助っ人も頼めないんですよ。だからもしマッチングアプリのだんじりバージョンみたいなプラットフォームができれば、だんじりを新調する際に古いだんじりを他の町に売却したり、地域同士のコミュニティも広がりそうです。
──「だんじり版マッチングアプリ」は面白そうですね! 今後はもっとさまざまなシーンに応用できそうです。
千貴さん:アプリはまだ完成形ではないので、どんどん進化させていきたいです。例えば今回から、業者さんとつなげる形で祭り用品やオリジナルグッズを作れるようなページを作りました。最終的には、祭りのクラッカーなど細々したアイテムを発注でき、青年団の仕事量を軽減できるような機能をつけたいです。最終的にはだんじりに限らず、全国のお祭りやイベント全般を網羅することが目標ですね。
◇
2年目を迎えるにあたり、だんじりに加えて「布団太鼓」も仲間入りし『地車×太鼓台』へとパワーアップした祭礼総合情報アプリ。だんじりシーズンが始まるこの季節、ぜひとも注目していきたい。
取材・文・写真/つちだ四郎
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