なぜ奈良公園には「ゴミ箱」がない? 鹿と共存する市民らの葛藤

2023.9.6 07:00

鹿が誤食する可能性が高いにもかかわらず、鹿のそばに捨てられたペットボトルと菓子袋のゴミ

(写真4枚)

■ かつてはあったゴミ箱、必要か?不要か?

「奈良公園ゴミゼロプロジェクト実⾏委員会」の児童書作家の中村文人さん。奈良公園の鹿を守るための啓発本や絵本を出版し、売り上げの一部を「奈良の鹿愛護会」へ寄附している

かつて、公園内にゴミ箱が設置された時期もあったのだが、鹿がゴミを漁ったり、家庭ゴミを捨てたりする問題などがあったため撤去された経緯がある。

長年、「奈良公園」の⿅の⽣息環境保全活動などに携わる「奈良の鹿愛護会」の石川周さんは、「決して奈良県がサボってる訳ではなく、試行錯誤の結果、今はゴミ箱を設置しない判断をしたと認識しています。ゴミ箱があった時代を覚えていますが、袋に入れた家庭ゴミをゴミ箱の横に置いて立ち去る人が多かったです。鹿のためにもゴミ箱は不要だと思います」と語る。

「東大寺」「興福寺」「春日大社」など複数の管理者が存在する「奈良公園」にゴミ箱を設置した場合、誰がそのゴミを回収するのかという問題も起こり、一部の管理者が設置するとそこにゴミが集中する懸念もある。

ゴミ問題は、最近になって急に出てきた問題ではなく、昔から問題視されてきたという。「近年、SNSで鹿を愛するさまざまな個人や団体が活発に注意喚起したことによって可視化され、『ポイ捨てはダメ』『鹿に鹿せんべい以外の人間の食べ物を与えてはいけない』といった意識が多くの人に浸透してきたのは、ありがたいことです」と石川さん。

また、「ゴミゼロプロジェクト」の安達研さんは、「人件費の問題もありますが、祇園祭のようにイベント期間中だけゴミ箱を置いて、そこに人を配置したりすべきでしょう。また、ゴミをお金やポイントに換えるデポジット式ゴミ箱を導入したりするなど、ただ設置するのではなく工夫が必要だと思います」と語る。

■ 「鹿を守るため」にゴミを拾う

たった1時間半の活動で集まった8.44㎏のゴミ。夏場なので、ペットボトルゴミや空き缶が多い

「ゴミゼロプロジェクト」メンバーは、ゴミ拾いの際に腕章を付けている。「単なるゴミ拾いボランティアと勘違いされないよう、大事なのは『鹿のためにゴミを拾っている』と認識してもらうことです」と中村さん。

続けて、「鹿が観光産業に寄与しているのは明らかなのにもかかわらず、県や市が鹿を守ることへの関心が低いと感じます」と語る。実際、奈良商工会議所のアンケート調査報告(2020年)によると、外国人観光客が奈良を訪れる動機の第1位は「鹿を見るため」であり、約70%にも及んでいる。やはり奈良の観光は、鹿を抜いては語れない。

今回同行した奈良公園ゴミゼロウォークでは、36名の参加者によって、8.44kgのゴミが回収された。メンバーは「奈良公園にはゴミ箱が無いことを意識した上で、計画的に飲食などのお買い物をしていただけたら」と呼びかける。

取材・文・写真/いずみゆか

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