藤井隆のジャンルレスな活躍、糧は「良いよ」という肯定的な言葉
ノゾエ征爾が脚本・演出をつとめる舞台『ガラパコスパコス〜進化してんのかしてないのか〜』が、東京で開幕したのち「京都劇場(京都市下京区)にて上演される。
2010年の初演以降、再演を重ねられてきた同作。今回は、竜星涼が派遣のピエロの仕事をしながらギリギリの生活をおくる青年、高橋惠子が彼と偶然出会った老婆に扮し、ふたりの奇妙な共同生活を描いていく。
そのなかで、青年を心配する兄を演じたのが藤井隆。今回は藤井に『ガラパコスパコス』の見どころや、作品のテーマにちなんだエピソードを明かしてもらった。
取材・文/田辺ユウキ 写真/木村正史
● 「ハッとする瞬間が散りばめられています」
──今回出演される舞台『ガラパコスパコス』について、藤井さんはどういった気持ちで役に臨まれますか。
ノゾエさんにとってすごく大事で、思い入れも強いはずの舞台だと思います。しかも青年の兄というキャラクターはこれまでノゾエさんがつとめてこられたお役です。ノゾエさんに「一番良かった」と思っていただけるよう、稽古、本番を通して作品のメッセージをしっかり掴んでいきたいです。
──ファンタジックな要素もまじえながら、今の社会のなかで私たちはどのように暮らし、そしてどのように老いていくのかという現実的な問題も捉えた作品ですよね。
ピエロと老婆が出会い、一緒に暮らすというすごく不思議なお話です。ただそれだけではなく、夫婦、上司と部下などいろんな2人組の想いが描かれます。生きること、生活、家族、仕事、お金、それらはいったいなんなのか。それを問いかけながら、最終的にサブタイトルにある「進化」とはどういうことなのか? を興味深く観ていただけるのでは? と思います。
ご覧になる方はきっと共感できたり、心になにか引っかかる場面があると思っていますし、ハッとする瞬間がたくさん散りばめられています。あと作品の中心には「老い」というテーマがあるのですが、「それってどういうことなのか?」というノゾエさんの見解が描かれているところが個人的にすごくおもしろいと感じています。
──というと?
詳しくは言えないのですが、「人間の老いとは、進化とはどういうことなのか」をひとつの仮説を立てて物語が進みます。
あと舞台上に用意されたアイテムや美術も見どころです、黒板とチョークしかなく、なにかを書く、または書かないという形で話が進んでいきます。黒板に自分で描きながらお芝居をするのはこれまで経験したことのないのでみんなで一致団結して頑張ります。
それにしても、「京都劇場」「世田谷パブリックシアター」という大きな舞台上で、チョークでいろんなものを書いてどこまで伝わるんだろうって今はまだ不安ですが、ノゾエさんに着いて稽古を重ねていこうと思っています。
● 「実は不安に襲われることがなかった」
──ちなみに藤井さんは近年、『ミュージカル「おとこたち」』(2023年)であったり、WEBメディアのインタビュー記事など、「老い」「年齢」に関するお仕事が続いていますよね。
たしかに増えた印象ですね。10年前はそれほど多くあがらなかった話題ですし、確実に歳を重ねているんだなって感じてます。ですが僕はあまり年齢を気にすることがないです。というのも早生まれ(3月10日生まれ)で、子どものときに散々、自分の年齢と向き合うことが多かったからです。
──なるほど。
小学生のときは、同級生たちと同じことをさせられるしんどさを感じたり、高校生時代も周りが教習所へ通い始めても僕はそれができなかったり。早生まれの人って年齢の話題になったら「早生まれで」となぜか一言付け加えますよね。あれって「できない物事が多かったこと」への防御みたいなものがあったからなのかも。僕もそうやって年齢に縛られてきたからこそ、大人になってからはまったく気にしなくなりました。
──サブタイトルの「進化してんのかしてないのか」も、誰もが抱く不安をあらわしている気がします。
こういうお話をするとつくづく自分は「強気だな」と思うんですけど、実は漠然と不安に襲われることってなかったんです。この仕事を始めた頃はできないことばかりだったけど、「これからどうなるんだろう」とはならなくて。それは近くに「良いよ」と言ってくれる方々がいたからなんです。
──肯定してくれる人がいるのは大きいですよね。
最初のテレビのお仕事って「毎日放送」の深夜番組でリポーターをやっていたんですけど、僕はなかなか上手くできなかった。というか、そのやり方が分からなかったんです。言われたことだけやっていて、欠点があっても、応用を効かせたり自分なりにカバーしたりができなかった。だからよく「下手だ」と言われていました。
● 「なにかを作るとき「自分の意見をちゃんと言う」
──藤井さんはミュージシャンとしての代表曲『ナンダカンダ』はじめ、どんな時代にもフィットする作品をたくさん生み出されています。それってつまり、作品が常に「進化」していることなんだと思います。藤井さんご自身はなにかを作る際、そういうことを意識されているのでしょうか。
東京での仕事が始まった時に事務所のスタッフから「番組のスタッフさんと沢山話しなさい」と言われました。「スタッフさんの考えをよく聞いて教えてもらって、それから自分もいっぱい考えて意見を聞いていただきなさい」と言われたのでつたない意見もあったと思いますが出来るだけいつも考えて「藤井クンはどう?」と聞かれたら自分なりの意見をお伝えしてました。
──確かに藤井さんの出演番組やキャラクターって実験的かつ先鋭的なものが多い気がします。
ある番組が結果が出せず終わったときに「少し早かったね」と声をかけてくださった方がいて、一瞬でうれしい気持ちになりました。
自分自身も観たことがないものをやりたかったので、「早かったね」と言われたことはすごく前向きに捉えることができて。もしかするとそれが、ご指摘されたような「作品のタイムレス性」の話につながっているのかもしれません。
──なにより藤井さん自身、タレントとして、役者として、ミュージシャンなどいろんな形態になりながらずっと進化されていますよね。
でもそれは関わってくださる方々に恵まれているからです。音楽も、ご一緒させていただくクリエイターのみなさんがいろんなことを教えてくださったから、今があります。ドラマでは、日々作品と向き合うことについて徹底的に学ばせてもらいました。吉本新喜劇では「コメディは真剣にやるもの」と教えてもらいました。そうやっていろいろ教えていただけたからありがたいです。
だからこれからも、みなさんから教えていただいたことを生かして作品づくりに励んでいきたいです。
◇
舞台『ガラパコスパコス〜進化してんのかしてないのか〜』は藤井のほか、竜星涼、青柳翔、瀬戸さおり、芋生悠、山田真歩、菅原永二、高橋惠子などが出演。9月の東京公演を経て、関西は9月30日・10月1日に「京都劇場」(京都市下京区)で上演。チケットは1万1000円で、現在発売中。
『ガラパコスパコス ~進化してんのかしてないのか~』
期間:2023年9月30日(土)〜10月1日(日)
会場:京都劇場(京都府京都市下京区東塩小路町901 京都駅ビル)
料金:1万1000円
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