仏の名匠デプレシャン監督「映画は奇跡を呼ぶことができる」
『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』でオスカーを獲ったマリオン・コティヤールと、『それでも私は生きていく』などで知られるメルヴィル・プポーが姉弟を演じ、家族だからこそ憎み合う関係をシリアスかつコミカルに描いた映画『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』。
誰しもが陥ってしまう現実を、映画ならではのマジックで幸せの結末に導いたのは、世界の映画ファンを魅了し続けてきたフランスの名匠アルノー・デプレシャン監督。6年ぶりに来日した監督に、すべての作品のファンであるという評論家・ミルクマン斉藤が話を訊いた。
取材・文/ミルクマン斉藤
◆「憎しみは愛によって救われるべき」
──監督の映画って、いろいろと葛藤がありながらもラストはどこか爽やかな感じが残りますよね。決して登場人物を宙ぶらりんにしたままにしないのが素敵だなと思ってまして。
シニカルな人は、ハッピーエンドを悪く言ったり、馬鹿にする人がいますが、でも、私はやはりどんなに馬鹿馬鹿しく響くかもしれないけど、死は生によって償われるというか、そこに光は与えるべきだと思うし、憎しみは愛によって救われるべきだという風に信じているんです。
──海外プレスのインタビューを読ませていただいたんですが、ビリー・ワイルダー監督の『お熱いのがお好き』(1959年)ラストの、滋味深くも爆笑の名セリフ「完璧な人なんていないさ」が大好きだとおっしゃってますね。監督の映画って、まさにその通りだと。
これはフランソワ・トリュフォー(フランスの映画監督、俳優/ヌーヴェルヴァーグを代表する監督のひとり)が述べたことなんですけど、「主人公が不幸になって自殺して終わって、光が点灯すると客席から拍手が起こって、それが賞を獲っちゃうなんてまったく不道徳だと思う」と。それは、曖昧なままに映画を終えるということでもあります。
例えば、今回の作品においては、最後にアリス(マリオン・コティアール)は夫も子どもも演劇も捨て、犠牲を払って違う場所へと赴いていき、でもそこで自分はようやく生きていると確信する。そうした病んだ部分が残ったとしても、窓が開いていることが大事だと思うんです。
──まさに船は進んでいくという前向きな終わり方をするんで、観てる側も救われた感じがするんですよね。監督の映画は全部好きなんですが、群像劇であった『クリスマス・ストーリー』(2010年)などとは趣が違い、もっと凝縮された「家族劇」になっています。
『クリスマス・ストーリー』も弟と姉の確執なんですが、今おっしゃられたように複数の登場人物が出てきて、それぞれの物語を枝分かれするように描いていきました。しかし今回は、ひとつのあるテーマだけに執着して撮りたい、かつて撮った『ルーベ、嘆きの光』(DVD題名『ダブル・サスペクツ』)のように、「なぜ」ではなくて、どのようにそれが解決していくのかっていう風に進んでいきたいと思ったんですね。
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