仏の名匠デプレシャン監督「映画は奇跡を呼ぶことができる」

2023.9.27 21:30

6年ぶりに来日した、フランスの名匠アルノー・デプレシャン監督

(写真6枚)

◆「できる限り世界へと開いていこうと」

姉弟の父は、妻が亡くなった後に自ら死を選ぶわけです。そのとき、メルヴィル演じるルイは外でお酒を飲んでて警察に尋問されていて、その後に家に戻ってきたときに妻のフォニア(ゴルシフテ・ファラハニ)からの電話で父が亡くなったことを知る。そのとき、2人はそれぞれ涙を流すんですが、それを現場で撮っているときに私はすごく感動したんです。

どうして自分がそんなに感動しているのかすぐには分からなかったんですが、編集をしながらようやくなぜだか理解できたんですね。ルイは息子を亡くして10年して、ようやく父の死によって息子の死を泣くことができたっていうシーンだったと後になって分かり、本当にあのときのメルヴィルの演技は素晴らしかったなぁと思いました。

ジム・ジャームッシュ監督の『パターソン』(2017年)でも知られるゴルシフテ・ファラハニ ©︎ 2022 Why Not Productions – Arte France Cinéma

──今、ゴルシフテ・ファラハニのお話が出てきましたが、僕、イラン映画が大好きなんですね。それで、彼女がまだイランにいた時代(現在はパリ在住)の映画も、映画祭での上映も含めて結構観ているんですが、出番は決して多くないながらもその璃々とした美しさ、存在感が際立っていますよね。

なんか、反逆の美しさというかね。

──そうそう。その通り。

葬式の後、入棺のセレモニーのときにルイは、姉・アリスの自分への憎しみの前に近寄れない。でもフォニアは近づいていく。義姉のアリスはカトリック信者として墓穴に花びらを落とすんですけれど、フォニアはユダヤ教徒として、まるで挑んでいるかのように土を投げ入れる。自分の愛する男に私はついていく、という仕草を義姉の前で見せるんですよね。

──宗教の話が出ましたが、監督はカトリックなんですか?

カトリック教徒の家に生まれました。だから洗礼を受けるとか、すべてのカトリック教徒としての行事は全部やりましたよ。あと、懺悔もね。でも宗教的に偏った考えは持っていません。ユダヤ教徒の友だちもたくさんいるし、特に小説家の友だちがとても多いんですよ。

笑顔でインタビューに応えた、フランスの名匠アルノー・デプレシャン監督

──日本は汎神論的なんで、そのあたりもじつに興味深い。

できる限りさまざまなものが存在してる世界へと開いていこうと思って、私は映画を作っているんです。例えば、『あの頃エッフェル塔の下で』(2015年)で、主人公のポールはタジキスタンという世界の果てのような場所に旅立つんですね。今回の映画ではアリスはベナンという、私たちにとっては世界の果てのような場所へ赴きます。

──僕もあの映画のラストを思い浮かべました。ところで、長く一緒に組まれているグレゴワール・エッツェルの音楽。決して表だっては来ないんだけれども、本当に映画に寄り添うようにして弦楽器を中心とした音楽が続いていくのが美しいなぁと。

先ほど、アリスは暗い感情に囚われてしまっているとお話ししましたけれども、感情に囚われ、暗闇のなかに閉じ込められた小さな少女のようなアリスに寄り添って、光の方に導いていったのはマリオン・コティヤールという女優であり、そしてグレゴワールの音楽であると思います。

映画『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』は、大阪「シネ・リーブル梅田」(大阪市北区)ほかにて公開中。

映画『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』

2023年9月15日公開
監督:アルノー・デプレシャン
出演:マリオン・コティヤール、メルヴィル・プポー、ほか
配給:ムヴィオラ

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