島唄から30年、宮沢和史「大阪にも沖縄を愛す人はたくさん」
■「なかなか聴けない歌を聴ける場を作りたかった」(宮沢)
──昨年からスタートさせた『大阪・大正 沖縄フェスティバル』も、やはりもっと沖縄のことを広く知ってもらいたいという取り組みのひとつとして始められたものだと思います。
そうですね。フェスに関して言うと『沖縄フェスティバル』って今どき日本全国にたくさんありますけれど、どうしても沖縄(ウチナー)ポップスが中心となるものが多くなります。
でも、「沖縄の歌はポップスが生まれる前にも星の数ほど名曲があるよ」ということも知ってほしいので、ぼくらのフェスティバルではポップスの人は極端に少なく、民謡や古典音楽の実力者を多く集めています。
だから、普通のフェスではなかなか聴けない、長い歴史のなかで生まれた歌を聴くことができますし、そういう場を作りたいというのがありましたね。
■「大阪にも沖縄を愛している人たちはたくさんいる」(宮沢)
──大正区は沖縄からの移住者が多く、沖縄のカルチャーが根付いている街ですし、会場の「平尾公園」も先祖供養の行事『エイサー祭り』がおこなわれてきた場所です。そんなロケーションで、今回のフェスを立ち上げた理由やいきさつを改めて聞かせてもらえませんか?
沖縄は貧しい時代が長く続いたために、出稼ぎや移民を輩出する割合がほかの多くの県よりも大きかったんですよね。それで関西だと大正区や尼崎、関東だと鶴見や横浜あたりに先人が流れていって、そこで後から来た人たちを助けてコミュニティが出来上がって、特に大正区は大きなコミュニティになっていったんです。
ただ、当時は差別もありましたし、言葉も文化も違うというなかで、でもココで頑張っていくしかないという歴史的な背景があって、そこを乗り越えられた方々の子どもや孫が今の大正区に多く暮らしているわけですよね。
また、旧正月とかエイサーとか、沖縄でおこなわれている年中行事も大正区では絶えないように守られていて、「ココにも沖縄があるよ!」ということを発信したいと考えたときに「お祭り」をやろうと。
沖縄から実力者を呼んで、大正区の人たち、大阪府の人たち、関西の人たちに沖縄の一流のホンモノたちを観てもらえる機会を作ることと同時に、逆に沖縄の人たちには、大阪にも沖縄を愛している人たちはたくさんいるんだよ、ということを目撃して島に帰ってもらう。そうするとお互いのことをもっと知ることができるし、そこがぼくの一番のテーマですね
──なるほど。
だから、「バーッと盛り上がってハイ終わり!」というフェスはぼくがやる必要がないので、いろんな島のホンモノの歌をじっくりと聴いてもらって。普通のみなさんが思い描く「フェス」というよりは、もっと「お祭り」な感じですね。出店もいっぱい出て、手作りの進行で、舞台も手作りな感じで。
ホントに沖縄のいろんな市とか村でやっているお祭りを大正区で再現したようなノリに近いです。なので、入場料もなるべく誰でも来れるような赤字覚悟の値段設定(3900円)にして、いろいろと工夫をしています
■ さまざまなエリアから新旧の唄い手が一同に
──出演者も、沖縄本島、八重山諸島、奄美大島とさまざまなエリアから実力の確かな新旧の唄い手が一同に会するのに加え、民謡だけでなくなかなかライブで聴ける機会の少ない琉球古典音楽の新たな担い手も交えた貴重な顔ぶれとなっています。宮沢さんから、それぞれの出演者の魅力について聞かせてください。
まず大城クラウディアさんは、アルゼンチン出身で両親が沖縄生まれの2世で、向こうでエイサーや、ポップスと民謡を融合したグループを立ち上げて活動してきた人ですが、日本に来てもう20年くらいのキャリアになります。
親川遥さんは、琉球古典音楽の音楽家で、彼女は歌と三線ですが、彼女のチームとして舞踊と演奏家も一緒に来ます。
城(きずき)南海さんは沖縄ではなくて奄美大島ですけども、奄美大島も昔は琉球王国の文化圏にあった所なので、沖縄の文化と日本の文化がちょうど混ざっている。今回は2回目のフェスということで、奄美の歌も大正区の人たちに親しんでもらおうと、声をかけたらぜひにということで来てくれます。
鳩間可奈子さんは八重山諸島の鳩間島出身で、10代の頃に若き天才という感じで出てきて、知名定男さんのプロデュースでCDも出していますね。
宮良(みやら)康正さんは八重山民謡の第一人者で、NHKのど自慢大会民謡の部の優勝者です。国から叙勲旭日双光章授与された大御所中の大御所で、ホントはこんなフェスに来てくださるような立場の方じゃないんですけど、お声をかけたら心良く引き受けてくださいました。
そして、ゆいゆいシスターズは沖縄本島のグループで、こういうお祭りの場を楽しく作ることができることで引っ張りダコな人たちです。出演者のみなさんは個性はバラバラですけど、ぼくらの主旨をわかって来てくれるので、きっと素晴らしい歌を聴かせてくれると思います。
■ 「今回の共演は沖縄でもほとんどないこと」(宮沢)
──なかでも、琉球古典音楽を奏でる親川さんは昨年に引き続いての出演ですが、いわゆる民謡とは違い、その原型を伝えるようでもある独特の響きで、とりわけ強いインパクトがあります。
民謡というのは民の歌という意味で、英語にしたらフォーク・ソングだから、庶民から生まれてきた歌ですよね。ときには遊郭から生まれた歌もあるし、村のお祭りから生まれた歌もある。
古典音楽はそうじゃなくて、琉球国が正式に認めた外交のための音楽で、中国から来た使節団に毎晩聴かせるためだったり、途中からは薩摩が来るようになったので、その役人を接待するための音楽だったわけです。
でも、その後に日本が勝手に土足で乗り込んできて琉球国が滅びた後は、琉球国で音楽を担当していた人たちは職を失って野に下って、民謡と混ざっていった。そこで古典の曲を庶民も歌うようになったり、逆に庶民の踊りを古典の人たちが取り入れてより洗練されていったりという「交流」が始まるんですよね。
今では、古典を格式高いものとして認識して大学でも教えるようになっていますし、民謡は民謡で先生に弟子入りして腕を磨いていくものになっています。ですから、古典音楽と民謡が、今回のようなベニヤ板の仮設のステージで共演するというのは沖縄でもほとんどないことなんですよ。
──両方が同時に楽しめるという意味でも、貴重な顔合わせなんですね。
去年も親川さんのときは、祭りだっていうのにシーンと水を打ったように静かになって、誰もが踊りと古典音楽に酔いしれて鳥肌が立つくらい良いステージになりました。今年もそういう忘れられない場面がいっぱい作れるとぼくは思っています
──9月13日に配信リリースされた宮沢和史with親川遥『島唄~琉奏~』も、そんな琉球古典音楽のアレンジを施した新たなセルフ・リメイクとなっています。
これまでに何度かセルフ・カバーしてきましたけれど、今回は歌&三線、箏、笛、琉球の胡弓、太鼓という古典音楽の編成で演奏しようということになりました。『島唄』もいろいろな旅をしてきましたけど、一番沖縄らしいアレンジで原点に戻ってきたような感じですね。
──最後にフェスのことに話を戻すと、イベントには地元のエイサーのグループや沖縄空手、獅子舞、アマチュアの民謡の歌い手やポップスのシンガーも出演し、地元と密着したものとなっています。
イベントは2部構成になっていて、1部には地元のエイサー、空手の演舞、ポップスの子たちも出演して、2部がプロのステージになります。フェスというよりは半日かけてお祭りをやっていますから、来たいときに観に来てねという感じです。
開場も早めにして、出店を楽しんでもらう時間を作っていますし、1部に出演する人たちのことを沖縄の人たちにも観てほしいし、地元の大阪の人たちにも来てほしい。意外とみなさん知らないと思いますし、足を運んで観てもらって大正って面白いねー、こんなところがあるんだ!と思ってくれれば一番うれしいです。
取材・文/吉本秀純
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