アイナ・ジ・エンド「歌ではまだ『求められている』実感ない」

2023.10.12 19:00

映画『キリエのうた』主演のアイナ・ジ・エンド

(写真9枚)

◆「空間によって表現はかなり変わる」

──この映画の登場人物は、みんななにかを失っていきますよね。アイナさんは、かつては持っていたけど現在は失ってしまったものはありますか。

自分で「こうしよう」と決めることです。私は昔、シルバニアファミリーが大好きだったんです。「どんな家具を配置しよう」、「どのうさぎ、リスで遊ぼう?」とか全部自分で決めて、そうやって世界観を作り込めるところが楽しかったんですね。

つまり、自分で舵を切ることができたんです。でも今はソロ活動をするようになって、自分で決断する機会が増えたのですが、「自分は、舵を切ることが得意じゃなかったんだ」と気がついたんです。だから失ったことといえば、根拠のない自信からくる舵を切る勇気ですね。大人になるにつれてそういう勇気はどんどん失われている気がします。

「その場でしかできない表現ばかり」だったという映画『キリエのうた』

──『キリエのうた』への出演はご自身の決断ですよね?

この作品に関しては、お声がけいただいたときは具体的に内容が決まっていなかったんですが、でも岩井俊二監督の映画がすごく好きだったので「ぜひ、やらせてください」とお伝えしました。そこから広瀬すずさん、松村北斗さんの出演が決まって。「想像しているよりも大きな映画になった」と緊張しました。というのも、岩井俊二監督も「サイズ感の小さな映画をイメージしている」とおっしゃっていたので。

──以前から岩井監督の作品がお好きだったのですね。

『undo』(1994年)、『PiCNiC』(1996年)など、ダークサイド寄りの映像表現に共鳴するところがあり、自分の1stアルバム『THE END』(2021年)もそういう世界観を目指して作りました。

実際にお会いしても岩井監督とはフィーリングが合うところがあり、すべてが噛み合っている気がしました。ただ「作品が好きだと」いう想いは、すべては伝えていません。全部伝えるともったいないというか。なにより岩井監督とは、言葉をあまり交わさなくて溶け合っていける気がしたんです。

──波長がかなり合っていたんですね。

私は普段「好きだ」と思ったらガンガン伝えるタイプなんですが、岩井さんとは映画を作るという点でもあまり無駄に言葉を交わさないようにしていたというか。すべてを伝えない方が作品にも没入できる気がしました。

路上で歌っていたキリエ(右/アイナ・ジ・エンド)は、謎の女性・イッコ(広瀬すず)と出会う ©2023 Kyrie Film Band

──この物語には、主人公・キリエをはじめ、路上でパフォーマンスをする人たちが何人か出てきます。アイナさんは路上とステージ上でのパフォーマンスにどんな違いがあると思いましたか。

ステージ上でのパフォーマンスは照明、映像などの演出がたくさんありますが、路上はまさに裸一貫、生身で突き進む感じがしました。あと私の場合は、空間・場所・環境によって自分のパフォーマンスが大きく変わるんです。

たとえば、この取材場所で「踊ってください」と言われたら、絨毯だからターンができないのでその振りをやめるでしょうし、湿気が多いところで歌うことになったら「頭から抜けるような高音の出し方ができるな」と考えたり。私は、空間によって表現はかなり変わると考えています。同じ歌詞なのに、すごく悲しくなったり、うれしくなったり、感情も変化します。もちろんそれによって伝え方も異なるはず。

映画『キリエのうた』

2023年10月13日(金)公開
監督:岩井俊二
出演:アイナ・ジ・エンド、松村北斗(SixTONES)、黒木華/広瀬すず
配給:東映

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