【どうする家康】ついにトップに君臨、その複雑な心境とは?
古沢良太脚本・松本潤主演で、江戸幕府初代将軍・徳川家康の、厳しい選択だらけの人生を描きだす大河ドラマ『どうする家康』(NHK)。10月22日放送の第40回『天下人家康』では、秀吉逝去後もすぐには動かず、慎重に状況を読んできた家康が、ついにトップの座に。SNSでは感慨の声と同時に、そこに至る家康の心境について、さまざまな意見が上がった(以下、ネタバレあり)。
■ どうする家康、とうとう実質的な天下人へ
豊臣秀吉(ムロツヨシ)が没し、息子・秀頼が成人するまで、家康ら有力大名による五大老と、石田三成(中村七之助)ら五奉行が政をおこなう新体制が始まった。しかし三成は、周囲の悪意の声もあって、家康が次の天下を狙っていると警戒するように。そこに加藤清正(淵上泰史)ら豊臣家家臣たちと三成の対立が深まり、ついに戦が危ぶまれる事態にまで陥った。
混乱中の政の矢面に立たぬよう、裏で動くことに徹していた家康だったが、本多正信(松山ケンイチ)の「ここらが潮時かもしれませんな」という言葉を聞き、事態の収束に奔走。本多忠勝(山田裕貴)に「修羅の道をゆくことになろうぞ」とつぶやいた通り、三成の隠居後は自らを中心とした政の体制を整え、実質的な「天下人」となったのだった・・・。
■ 突出した存在、すでに天下人だった家康
戦国の情勢を俯瞰して描くのではなく、家康自身とその周囲の人間ドラマに、ことさら物語のポイントを絞っていた『どうする家康』。それが新鮮であるのと同時に、「戦国時代のスケールを感じにくい」という諸刃の剣でもあった。
しかしこの40回では、著名な大名たちが一挙に登場したことで、家康の所領・戦闘力がほかの人たちより抜きん出ていることが相対化され、いつの間にか「ほぼ天下人」の地位にいたことに驚かされる回となった。
その象徴と言えるのが、前田利家(宅麻伸)が家康を「オロチ」に例えたこと。私たちは半年以上に渡って、家康がオタオタしながら危機を乗り越える人間臭い姿を見てきたが、その実態を知らない人たちにとっては、単純に「あの武田信玄と渡り合い、あの織田信長とも仲良し(?)だったなんて、化け物だ!」となるのは確か。そりゃあポッと出の文官の三成より天下を預けたくなるだろうし、それを恐れる人たちは悪口を言ってでも引きずり降ろそうとするだろう。
SNSでも、「兎から狸になったのかと思ったら、いつの間にかオロチになってたの?」「若い衆には家康はもうおっそろしい大物になってもうたんだな」「あんなに弱虫泣き虫鼻水タレだったのに」という驚きとともに、「ある意味、利家からも『天下を取れ』と懇願された形」「お前の強さで何もしないのは却って怠慢だよ、と年上の実力者や部下やらあっちこっちから家康を狸に仕上げていく。天下人への道が舗装されていく」と腹をくくる声もあった。
■ 家康の心境は「狸」と「白兎」の両性質?
そんなこんなで、結局は天下を牛耳るポジションに付いた家康だが、それを最初から狙って動いていたのか? いやいや本気で三成を支えるつもりだったけど、なんだかんだで「わしがやらねば」という心境にいたったのか・・・、なかなかに不透明である。
SNSの投稿でも、「治部を支えると言いつつ自分が表に出る野心、野望が、家康から言葉とは裏腹に滲みでているよね」「この状況招いたのヤッスくんのせいもだいぶあるのでは?」という「狙った派」と、「三成の未熟さ、不手際を助けようと思う行動がことごとく裏目に出た」「良かれとおもうてやっていることが積み重なって『老獪な狸親父』と周囲から認定される描き方はたいへんうまかった」という「思いがけず派」、で分かれていた印象だ。
個人的な感想は、逃げのような答えだが「その両方の思いが混じっていた」ではないかと思う。というのもこれまでも古沢良太の脚本は、諸説からひとつを採用するというより、複数の説をミックスして「こういう見方もありえなくない?」という、斬新な人物像や背景を作り出すのが通例となっているからだ。なので現在の家康像も、伝聞として残る「狸」サイドと「白兎」サイドの両性質を、マーブル模様のようにミックスしたのではないだろうか。
その両方の顔を行きつ戻りつしながら、ついに「天下=修羅の道」を歩む決意をした家康。前回の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、主人公・北条義時(小栗旬)が「ここからは修羅の道」と口にして以降は、まさに血も涙もない独裁者へと変貌してしまった。しかしマックロクロスケな義時と違い、白兎な部分がまだまだ残り、しかも未だに手を焼くような家臣たち(笑)が健在な家康であれば、あんな悲惨な修羅道にはならないはずだ。
『どうする家康』はNHK総合で日曜・夜8時から、BSプレミアムは夕方6時から、BS4Kは昼12時15分から放送。10月29日放送の第41回『逆襲の三成』では、隠居した三成がひそかに打倒家康に向けて動いていく様子と、家康とウィリアム・アダムス(村雨辰剛)の出会いが描かれる。
文/吉永美和子
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