【どうする家康】戦なき世はまやかし?三成が突きつけた課題
松本潤主演で、徳川家康の人生を描く大河ドラマ『どうする家康』(NHK)。11月12日放送の第43回『関ヶ原の戦い』では、勝者と敗者に分かれてしまった、家康と三成の最後の対話が実現。気迫と緊張感にあふれた2人のやり取りに、視聴者は釘付けとなり「本作きっての名シーン」という声も上がった(以下、ネタバレあり)。
■ どうする家康、三成から怒りむき出しの叱責
関ヶ原の戦いで敗北し、敗走の末に捕縛された石田三成(中村七之助)は、家康と対面。家康は「戦なき世に出会いたかった。さすれば無二の友となれたはず」と今の状況を惜しむのに続けて、8000人もの死者を出した、この無益な戦を起こした理由を問う。しかし三成は怒りをむき出しにしながら「思い上がりもはなはだしい!」と、逆に家康を叱責した。
三成は、戦乱を求める心は誰にでもあるもので、この戦を起こしたのは自分であり、そして家康でもあると反論。そのうえで、「あなたこそ戦乱を求むる者。戦なき世などなせぬ。まやかしの夢を語るな」と罵倒する。しかし、それに対し「それでもわしはやらねばならぬ」と静かに応じた家康。最期まで豊臣に忠義を尽くした三成は、六条河原で斬首された。
■ 重い呪いをかけて去る、三成と家康の残酷な別離
互いを敵視するどころか、星を見てキャッキャと語り合える友人として出会った、本作での家康と三成。演じる松本と七之助が実生活でも親友同士ということもあり、「今回は関ヶ原なんか起こさず、平和に幕府を開くのでは?」という夢さえ見るようなラブラブぶりだったのだが・・・。秀吉の死をきっかけにあれよあれよと関係は悪化し、この43回では、三成が家康にとてつもなく重い呪いをかけて去っていくという、残酷な別離を迎えてしまった。
最初に家康が「無二の友となれたはず」と無念を語った際は、SNSでも「お星さまを見上げた2人はもういない」「石田三成、お前と幕府を作りたかった」「戦なき泰平の世で出会ったなら、きっと良き友で居続けられたはずなのにね」「生まれ変わって天文部で会おう。今世は無理よ」と、家康の夢が破れたことに対してともに心を痛める声が続出。
しかしそこから一転、関ヶ原だけで8千人もの死者を出したこの戦の責任を家康が問い、三成が「お前がその口で言うかあああ!」とばかりに反論するシーンには、「戦なき世を成すため、王道ではなく覇道を進むほかない家康最大の矛盾を、ここで三成に突かせるのか」「『この悲惨な戦を起こしたのは私であり、あなただ』これ、作中きっての名言」「最後に三成突きつけたなー。お前こそ戦乱を求めているんだろって」と、考え込む言葉が並んだ。
■ 視聴者にも突きつける、戦争と平和の表裏一体
「戦なき世を作る」という、非常にシンプルな理想を掲げて突き進んできた家康だが、ここに来て「戦なき世を作るために戦をする」という、とてつもない矛盾をはらんだ状況にあることが問われた。今回の関ヶ原に「家康勝った! これで天下人よー」などとカタルシスを感じられないのは、現在リアルタイムで起こっている紛争にも通じる、戦争と平和のどうしようもない表裏一体具合を、家康と一緒に突きつけられたような気になるからだろう。
実際SNSでも「正義が暴走すると、暴力や争いにつながっていく。三成は今の時代の私たちに伝えているような気がする」「古沢さんも松本さんも言ってるんだよね。世界で争い事が続いてる今、この作品を通して届けられるメッセージがある。戦のない世を作り上げた徳川家康を主役にした作品を今やる理由、意味がそこにある、と。それをすごく感じた関ヶ原だった」と推察する声が上がっていた。
悲しいかな三成の予言通り、家康は「戦なき世」を作るために、ここからあと10数年間、さらに非情な判断を次々と下すことになる。しかしそれを乗り越えた先に、世界的にも類を見ないほど長期間の泰平の世を作り上げることに成功したのは事実だ。それを成し遂げた家康の、本当の勝利の理由とは何だったのか? あと残り1カ月で、それがどのように提示されるのか、その期待値が上がる天下分け目の大戦だった。
そして石田三成を演じた中村七之助にも、「美しき敗者、七之助さん素晴らしかったです」「七之助さんは女方ですので、今までこんなに勇壮な戦国武者らしい鎧兜姿を見たことがなく新鮮でした」「この大河のMVPでしょ」などの称賛の声が寄せられた。ちなみに七之助は12月に「歌舞伎座」(東京都中央区)で『天守物語』の富姫を演じる予定。三成とは違う妖艶な美女ぶりに頭がバグるのは確実なので、ぜひ観に行ってほしい。
『どうする家康』はNHK総合で日曜・夜8時から、BSプレミアムは夕方6時から、BS4Kは昼12時15分から放送。11月19日放送の第44回『徳川幕府誕生』では、ついに家康が征夷大将軍となって江戸に幕府を開くと同時に、成長した秀頼(作間龍斗)を擁する豊臣家が、逆襲の機会をうかがう様子も描かれていく。
文/吉永美和子
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