23年間続く神戸の「世界一の朝食」、人気が衰えないのはなぜ
オーベルジュ「神戸北野ホテル」(神戸市中央区)で、2000年より宿泊客のモーニングとして販売されてきた「世界一の朝食」は、23年が経った今も人気が衰えることがない。そもそもなぜ「世界一の朝食」なのか、またなぜ支持され続けるのか取材した。
■ 実は、23年前とは「ほぼすべてが違う」
取材に訪れたのは、同ホテルからも近い「諏訪山公園」に12月2日にオープンした「神戸北野テラス」の1階レストラン「ラ・テラス」。同レストランでは、ホテルに宿泊せずとも港町神戸の景色を望みながら同ホテルと同じ「世界一の朝食」がいただける。
テーブルにならぶ朝食は、まず見た目が美しい。栗の花のはちみつやいちごのコンフィチュール、バターなどさまざまな香りが楽しめ、とろとろサクサク、カリカリと食感もバリエーション豊かで五感を刺激する。フレッシュさが感じられるメニューを味わっていくと、ゆっくりと体が目覚めていく贅沢な時間も魅力だ。
「2000年からお出ししている朝食ですが、少しずつ変わっていて、ほぼすべてが23年前と違うと言っても過言ではないです」と語るのは、ホテル総支配人・総料理長の山口浩氏。変わっていないのは「僕がフランスで感動した朝食を伝えたい」という思いだという。
■ 「昔からのお客さまは『変わらないね』と言ってくださる」(山口氏)
本来「世界一の朝食」とは、山口氏の恩師であるフランス料理の重鎮ベルナール・ロワゾー氏によるもの。約60カ国600施設が加盟する協会「ルレ・エ・シャトー」から認められた「世界一の朝食」だが、「神戸北野ホテル」のオープンにあたり、山口氏がその再現をロワゾー氏から公式に認められたことにはじまる。
ホテルオープン当時はフランスそのままの味が求められていたため、今よりもフランスの食材が多く使われていたが、現在はサステナビリティやSDGsの流れに合わせて丹波地鶏の卵、丹波黒豆、二郎いちごなどの地元の食材が積極的に使われている。
なかでも二郎いちごは、コロナ禍で売れなくなり廃棄するという新聞記事を見た山口氏が、農家のお母さんからすべて買い取りコンフィチュールに。そのときの縁で、今も取引しているという。100%二郎いちごのコンフィチュールは、甘さをおさえたフレッシュな味が特徴で、大きな果肉がゴロゴロ入っている。マナーを気にせず、クロワッサンに乗せてパクパク食べて欲しいと山口氏は笑う。
「フランス小麦やフランスバターは日本にはなくて、独特の風味を持っているから使いますが、日本のものが良ければ全部それに変えていっています。昔からのお客さまが『変わらないね』と言ってくださるのは、その進化があるからこそ。古くならずに23年前と同じおいしさをご提供できているからだと思います」(山口氏)
■ ずばり「世界一の朝食」が愛される理由は?
また、低速回転のミキサーで野菜や果物をジュースにした「飲むサラダ」は、フランスの「世界一の朝食」にはない。フランス人は、生のサラダにフレンチドレッシングがかかったものをカフェオレと一緒に食べるということは考えられない。そのため、サラダが食べたいという日本人に合わせて、生野菜のサラダではなく、コンチネンタルスタイルを崩さないようにジュースを出したところ、朝食の顔とも言える存在になった。ロワゾー氏も「自分たちの朝食でも出したい」と絶賛したそうだ。
本家にはない「飲むサラダ」があったり、地元の食材を使ったりするから「世界一の朝食」ではない、ということではないと語る山口氏。「僕のなかでは、ホテルをオープンしたときから、みなさんに伝えたい朝食だという想いは変わっていない」という。
伝えたい朝食だから、ホテル宿泊者だけでなく、もっと多くの人が味わえる場所を作った。ちなみに「神戸北野テラス」の建物は、山口氏が愛犬の散歩中に見つけたんだとか。万博も見据え「神戸の街をいろいろな人に見てもらう、そこで僕のこだわりのある朝食を召し上がっていただくのも自分の役割のひとつだと思う」と力強く語った。
同じに見えて、実はブラッシュアップされていた「世界一の朝食」。それでも芯にあるものはまったく変わらず、今おいしいものを受け取ることができる安心感と満足感が、長く支持される秘密だと感じた。
「神戸北野テラス」の世界一の朝食の営業時間は、朝8時〜10時(年中無休)。料金8600円(税サ込、お土産付き)。
取材・文・写真/太田浩子
北野テラス
住所:神戸市中央区神戸港地方口一里山
営業:朝食8:00~ 10:00/ランチ12:00 ~ 13:30/カフェ13:30 ~ 16:00/ディナー18:00 ~ 19:30
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