ブラマヨ、殺伐とした20年前経て思う「賞レースの大切さ」

2024.1.26 07:00

漫才師・ブラックマヨネーズ(左から小杉竜一、吉田敬)

(写真3枚)

数々のお笑い賞レースを席巻してきた漫才師・ブラックマヨネーズ(小杉竜一、吉田敬)。そんな2人が今年、『ytv漫才新人賞決定戦』『漫才Lovers』(ともに読売テレビ)と、関西制作の2つのお笑い番組で新MCを務めることが発表された。

2005年、M−1王者となったのをきっかけに全国ブレイクを果たした2人は、今回の抜擢に何を思うのか──。賞レースに捧げてきた当時のエピソードなども合わせて、小杉と吉田に話を訊いた。

取材・文/田辺ユウキ

■ あの頃は、何も知らんから出来ていた(吉田)

──東野幸治さん、千鳥さんからバトンを引き継ぎ、『ytv漫才新人賞決定戦』では3代目総合司会をつとめますが、進行するにあたって心構えなどはありますか。

小杉:若手芸人が人生を賭けてやるんで、いらん一言とかで邪魔にならないようにしたいなっていうのがありますね。僕らが賞レースに出ていたときも、「そんなこと言わんとってくれや!」ってことが結構あったんです(笑)。主役はあくまで若手なんで。

吉田:「今のは司会のあんたがおもろいって思われただけやんけ!」みたいな、そういうことがないようにしたいですね。目先の笑いを欲しがらんように気ぃつけんと。

──ブラックマヨネーズが賞レースに挑んでいたのは、約20年前。当時のメンタルはどんな感じでしたか。

吉田:賞レース当日は、寝不足は確定でしたね。徹夜明けのモヤっとした状態で会場へ行くんです。そしてまず思うのが「ほかのやつらはちゃんと来てんのかい」って。何かトラブルとか起きてへんか、と。できれば不戦勝が一番良いですから。

小杉:ワハハハハ!(笑) たしかに賞レースの日は普段とはあまりにも空気が違うし、それに飲み込まれへんように心に折り合いをつけなあかんかったよな。そんななか普通にネタをして、ヒリついてましたね。あのときは生活のほとんどを賞レースに捧げていましたし、『M-1』を獲ったときは「やり切った!」という気持ちになりましたね。

吉田:そんだけ頑張ってやってきたのに、コンクール当日に限って変なことが起きるんですよ。会場に向かう途中の電車内でデカい声のおっさんに「何や、お前!」って絡まれたり。会場に着いたら着いたで、相方の状態も気になるし。今まで「ヤバいな」って思ったことはないですけど。

小杉:僕らはほぼ毎日会ってたんで、日々相手の感じは分かるんです。それでも当日ばかりはどうなるか分からへんし・・・。あとは、そういう賞レースが決まったら周りの人に「あれはこうした方がいい!」とか無責任なアドバイスを大量にもらうから、聞き流すのに必死でしたね(笑)。

NSC大阪校13期出身、『M-1グランプ2005』では3378組のなか頂点に

──そこまでがっちり2人で組み合って芸に取り組んでいらっしゃったんですね。逆に今は小杉さんが東京、吉田さんは大阪が拠点ということで、コンビの距離感的にほど良い感じなんじゃないですか。

小杉:そうかもしれないですね。あのときはめちゃくちゃ話し合ったりして、最近もこれからのコンビについて話し合いましたし。お互いそういう軸になる部分はちゃんと話してきたから、会わない時間が多くても普通にやりとりできますね。

吉田:でも、「同じことをまたやれ」と言われてももうできないし、やらないですね。それだけやってもコンクールに勝たんと評価してもらえない世界ですし、あのときは何も知らんからできていました。

■ 心のなかには絶対にライバルはいる(小杉)

──特にお2人が『M-1』や賞レースなどで活躍されていた2000年代初期は、漫才バトルの土台がグッとできあがってきた時期。今と少し違うなと感じたりしますか。

小杉:今みたいに短いネタでポンッと若手がメディアに出ることはなくて、当時は本当に賞をきっかけにするしかなかったんです。ネットの動画とかもなかったし、ショートネタで取り上げられたりもしなかった。みんな賞に賭けていた。そういう時代だったので殺伐とした雰囲気もあって、全員が根を詰めてやっていました。

吉田:だからあの当時は、とにかくフットボールアワーにはほんまにイライラして!

──そんな、名指しですか?(笑)

吉田:コンクールの決勝とかで、1ボケ目、2ボケ目が「あいつら、いつもほどウケてない」ってなっても、そのあとちゃんと爆笑を取りよるんです。絶対にスベらへん。フットボールアワーの間違いのなさにはイライラさせられましたよ。確実に来よるから。

小杉:賞レースではみんな「ライバルはいません」とか言うじゃないですか。でも心のなかでは絶対に誰か意識してるはずですよ。僕らはフットボールアワー、チュートリアルでしたね。しかもフットボールアワーが賞を総ナメみたいにしてたから。ホンマに嫌でした!

吉田:何があっても絶対に1分あったら取りかえしてきよるからな。

──現在のお笑いシーンは、大型の賞レースが増えてそれを中心に1年が動いているところがありますよね。

吉田:その分、ストレスはすごいでしょうね。ただ、それがないと整理されへんところもあるから。僕らもしんどかったけど、今思ったら「あって良かった」って。『M-1』や『ytv漫才新人賞決定戦』みたいなコンクールって「厳しすぎる先生」なんです。終わってみたら「できることが増えてました、ありがとうございます」って。その経験が今、子育てにも生かされてますから。

小杉:ちょっと待って、新人賞の経験が子育てに生かされてんの?(笑) 初めて聞いたんやけど。

吉田:子どもに自転車の練習させたりするやん? 嫁は「もうええやん」と言うけど、俺は「まだや。もうちょっとやらなあかん」と粘るんです。そのとき「あぁ、新人コンクールってこんなんやったな」ってなりますよ。

小杉:おかしいやろ、その主催側の目線の感想(笑)。子どもの自転車に集中せぇ!でも賞レースみたいな厳しい経験って、その先の平場とかにも生きるんですよね。賞レースを通してコンビの方向性や向き合い方にも気付けるものがある。逆に仲が悪くなるかもしれない。何にしても自分らだけでは見えてなかったことが、見えてくるもんなんです。

鮮やかな特注のスーツに身をまとう2人。就任会見時に小杉は「サイズ、バッチリ!」と笑顔を見せた

──よく「『M-1』のグランドチャンピオン大会とかあったら」みたいなお笑いファンの妄想があったりしますよね。もしそういう大会があったらどうですか。

吉田:いやあ、もうそれは・・・。スイッチが変わってもうてるんで。僕らはおもろい漫才を作ることしか考えてないですね。

小杉:ファンのみなさんがそうやっていろいろ妄想するのは楽しいと思うんですけど、さすがに賞レースに出てたのが20年くらい前なんで、その幅でやるのはきついですね。

吉田:もしグランドチャンピオン大会があったとして「4分ネタをやれ」と言われても、今の僕らは「そこで見せる強い4分ネタよりも、劇場で爆笑がとれる10分ネタの方がもっとほしい」って考えちゃいます。欲しいものがあのときとは違うんですよね。

──なるほど。

吉田:たとえ賞金1億円とか用意されても・・・優勝したらコンビで5000万ずつで、いろいろ差し引かれて・・・。あかんわ、5000万円もあったら人生が変わりすぎる。この話はやめましょ。ありもせえへんことでちょっと悩んでしまいました(笑)。

小杉:その分、『ytv漫才新人賞決定戦』で若手ががんばるところを見守りたいですね。

ブラックマヨネーズが新MCを務める『漫才Lovers』は2月4日・夕方4時〜、『ytv漫才新人賞決定戦』は3月(放送日未定)に放送される。

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