涙の「父ちゃんブギ」絶唱…出生の秘密を語る父娘の会話の裏側

2024.3.7 08:15

病床の父・梅吉(柳葉敏郎)と話すスズ子(趣里)(C)NHK

(写真3枚)

今週放送の『ブギウギ』(NHK朝ドラ)では、がんに侵された梅吉(柳葉敏郎)が危篤であるとの報せが入り、スズ子(趣里)は愛子(小野美音)を連れて香川に赴いた。本日3月7日の110話では、スズ子(趣里)と父・梅吉(柳葉敏郎)の壮絶な「別れ」が描かれた。

■ 史実からアレンジして伝えたかった「親子の物語」

第5週「ほんまの家族や」でスズ子は香川で自らの出生の秘密を知るも、両親には打ち明けずに自分の胸にしまうと決めた。また、第8週「ワテのお母ちゃん」で最愛の母・ツヤ(水川あさみ)を亡くしたときも言葉にすることはなかった。

しかし今週・第23週「マミーのマミーや」で、余命いくばくもない梅吉の前で出自について話し、父娘の最後の語らいとして、互いに「本当の親子」であると思わせてくれたことに初めて感謝を伝え合うのだった。

ちなみに、スズ子のモデルである笠置シヅ子さんは自らの出自を知ったうえで、最後まで育ての両親を本当の両親であると通したまま死別したという。この史実からアレンジした、梅吉、ツヤ、スズ子の「親子の物語」について、また、梅吉最期のシーンの撮影秘話について、制作統括の福岡利武さんに聞いた。

■「歌を介して、『本当の親子の絆』が見える」

スズ子の出自問題の、親子間での取り扱いについて『ブギウギ』では史実からアレンジした理由を福岡さんはこう述べる。「最後の最後まで育ての両親を本当の両親であると貫いた笠置さんの思い。これを大事に汲みたいと思いつつ、脚本の足立紳さんとしてはやはり、最後に事実を述べたうえで、『スズ子にとってのお父ちゃんは梅吉である』としっかり言いたかったのだと思います」。

「そうした2つの思いから、最後の瞬間に初めて梅吉とスズ子がそのことについて語り合う、という台本にさせていただきました。『本当は言うつもりはなかったけれど、スズ子の独り言で始まってしまった』という流れで描くことができれば、と考えました」。

横になっている父・梅吉(柳葉敏郎)に話しかけるスズ子(趣里)(C)NHK

また、最後に梅吉がリクエストして2人で歌った『東京ブギウギ』の替え歌について、福岡さんは「『父ちゃんブギ』は足立さんのアイデア。そのワンフレーズで、ラジオから流れるスズ子の『東京ブギウギ』が梅吉にはそう聴こえていたこと、そしていつも替え歌にして口ずさんでいたのがわかります。号泣しながら『父ちゃんブギ』を一緒に歌う梅吉とスズ子の、(さっきまで話していた出自に関することに対して)『そんなことはさておき、本当の親子なんだ』という思いが伝わってきます。歌を介して『本当の親子の絆』が見えるのが、とてもいいですよね」と語った。

■ スズ子が秘密を知っていることを、梅吉は把握していたのか?

ところで110話に、第10週「大空の弟」のワンシーンが「スズ子の回想」として登場する。48話で、六郎(黒崎煌代)の戦死公報を受けて、「香川に帰って一からやり直す」と言い出した梅吉に、スズ子が「ほんまの娘やないからか?」と小さな声でつぶやき、梅吉が「何て?」と返した。

あのとき、スズ子の言葉が梅吉には聞こえていたのだろうか。また、スズ子が出生の秘密を知っていることを、梅吉は把握していたのだろうか。

これについて福岡さんに質問してみると、「そこは、見ていただく方に委ねたいと思っています。柳葉さんの『何て?』が(聞こえたうえでの、なのか、本当に聞こえずに聞きかえしたのか)どちらにも解釈できて、絶妙だったと思います。僕個人としては、あのときのスズ子の言葉が梅吉には聞こえていたと思っているのですが。もちろんどちらの解釈もありで、『スズ子が出生の秘密を知っていたこと』を梅吉が把握していたか否かも、見ていただく方の好きなようにとっていただければ、と思っています」と説明した。

孫娘の愛子(小野美音)の写真を撮ろうとする梅吉(柳葉敏郎)(C)NHK

■ 撮影は15分以上にも及んだ、梅吉役の柳葉敏郎最後のシーン

さらに110話、病床での「梅吉とスズ子の別れ」のシーンが柳葉敏郎にとってのオールアップだったといい、この撮影について福岡さんは振りかえる。

「重要なシーンであり、梅吉最後のシーンだったので、柳葉さんはとても集中していらっしゃいました。リハーサルをおこなわず、そのまま本番ワンテイクで撮るので撮影部も気合が入っていました。撮影したところ15分以上あったのですが、編集して、それでもおよそ10分と、とても長いシーン。カットがかかったあと、柳葉さんはそこでオールアップでしたので、とても晴々とした表情をされていましたね。趣里さんは感極まって泣いていらっしゃいました」。

映画人になりたいと故郷・香川を飛び出て、最愛の妻・ツヤと駆け落ちし、流れ流れて大阪は福島の銭湯に。スズ子と六郎を愛情たっぷりに育て、戦争で六郎を失い、香川に帰京し、最後は地元の人々に愛される写真館を営んだ梅吉。その長い旅路が終わった。これからは、天国からスズ子と愛子を見守ってくれることだろう。

取材・文/佐野華英

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