【光る君へ】天皇を出家させた早業、高難度ミッションの中身

2024.3.16 13:45

道兼に裏切られたと知り暴れる花山天皇(本郷奏多) (C)NHK

(写真9枚)

吉高由里子主演で、日本最古の女流長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。3月10日放送の第10回「月夜の陰謀」では、藤原兼家がたくらんだ花山天皇出家計画が実行され、そのあざやかな段取りに感心の声が集まるだけでなく、息子たちの今後の明暗を予感させる回にもなった(以下、ネタバレあり)。

■ 第10回「月夜の陰謀」あらすじ

安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)の占いで、花山天皇(本郷奏多)退位の計画を6月23日の丑の刻と定めた藤原兼家(段田安則)。道兼(玉置玲央)が天皇を内裏から連れ出し、道隆(井浦新)と道綱(上地雄輔)が東宮の即位に動く一方、道長(柄本佑)は関白・藤原頼忠(橋爪淳)への伝令役に。兼家は道長に、この計略が失敗したら何も知らなかったふりをして家を守るようにと、ひそかに命じた。

『光る君へ』第10回より、花山天皇退位の計画を説明する兼家(段田安則) (C)NHK
『光る君へ』第10回より、花山天皇退位の計画を説明する兼家(段田安則) (C)NHK

その当日、道兼は「一緒に出家する」と言って天皇を寺に連れていき、出家したのを見届けると、約束を破って平然と立ち去った。道隆と道綱も問題なく神器を持ち出し、計画通り花山天皇の退位と、東宮の即位が実現。その翌日、まひろの父・藤原為時(岸谷五朗)の務める蔵人所に、摂政となった兼家が現れ、今ここにいる蔵人たちの任を解き、道兼を蔵人頭にすることを告げるのだった。

■ 難易度高めのミッションクリアに感心

「平安時代最大のクーデター」として、日本史の教科書にも必ず掲載されている、花山天皇の突然の出家騒動、通称「寛和の変」。SNSに「出社したら経営者変わってるとか相当イヤだな」という声があった通り、ワンマン社長が突然辞任して、重役の一族が即座に筆頭株主となってトップに立ち、役員を全員解任した・・・というようなことが、国政レベルで起こったわけだから、為時や藤原実資(秋山竜次)ならずとも「何があった?」と目をむくだろう。

『光る君へ』第10回より、花山天皇(本郷奏多)を内裏より連れ出す道兼(玉置玲央)(C)NHK
『光る君へ』第10回より、花山天皇(本郷奏多)を内裏より連れ出す道兼(玉置玲央)(C)NHK

その大騒動を、いざこうしてドラマにしてみると「丑の刻(午前2時)」から「寅の刻(午前4時)」のわずか2時間の間に、帝の内裏脱出&出家+即位に必要な神器ゲットという難易度高めのミッションをパーフェクトにクリアしたことに、悪だくみとはわかっていても感心するしかない。そして間違いなく最大の功労者は、言葉巧みに帝に近づいて親族以上の信頼を勝ち得て、見事に出家ルートを開いた藤原道兼だ。

歴史書では「父に出家を伝えてなかった」と告げて出ていき、そのまま戻ってこなかったというフェイドアウトパターンだったが、『光る君へ』の道兼は殺人すら厭わない残虐性を秘めた人物らしく「お仕えできて楽しゅうございました」という煽り文句付きで、帝にいらん怒りと絶望感を植え付けた。まさに藤原家の汚れ役らしく、天皇の右大臣家への憎悪を、すべて一身に受ける立場になってしまったが、これが意識的だったのか無意識的だったのか。後者だとしたら、やっぱり愚かで悲しい男である。

■ 優れた戦略家は逃げ道もしっかり確保

そしてこの「寛和の変」のちょっとした不可解要素のひとつが、道長の仕事が関白への伝令という、ほかの兄弟と比べたら非常に軽いものだったこと。彼ぐらい父親に目をかけられているのなら、道綱が担当した役割ぐらい重要な任務を命じられそうだが・・・と思っていたら、実はことが露見したときは「私は知らなかった」とひとりで逃げることで、一族の生き残りをはかるという、重大な密命を負っていたという解釈に。

『光る君へ』第10回より、兼家(段田安則)から、この計略が失敗したら何も知らなかったふりをして家を守るように言われる道長(柄本佑) (C)NHK
『光る君へ』第10回より、兼家(段田安則)から、この計略が失敗したら何も知らなかったふりをして家を守るように言われる道長(柄本佑) (C)NHK

昨年の大河『どうする家康』の真田昌幸もそうだったけど、優れた戦略家は逃げ道もしっかり確保して、少しでも生き残る可能性を高める・・・という、リスクヘッジのお手本を学ばせてもらったような心地だ。さらにこれによって、道長が好む好まないに関わらず、父親から強い信頼を得ていることがより印象付けられたし、ほかの兄弟(特に道兼)のコンプレックスを刺激し、のちの一族分裂の萌芽になることも推察できる。

『光る君へ』第10回より、道兼(玉置玲央)を蔵人頭にすることを告げる摂政・兼家(段田安則)(C)NHK
『光る君へ』第10回より、道兼(玉置玲央)を蔵人頭にすることを告げる摂政・兼家(段田安則)(C)NHK

晴明の占い通り、なにもかも上手く行って有頂天の兼家だけど、この息子たちの容赦ない線引きが、新たな悲劇の序章となってしまうのか。一応今回は悪巧みに参加させてもらえた道綱だけど、なんだか「君はこのまま蚊帳の外にいる方が幸せだよ」と、助言したくなるような気分となってしまった。ちなみに花山天皇、出家後も兼家一族とはまだまだ因縁が生まれるので、大好評な本郷奏多の活躍に、引き続き期待できそうだ。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。3月17日放送の第11回「月夜の陰謀」では、花山天皇の退位によって苦境に陥ったまひろの一家と、それに対して栄華を極めようとする兼家たちの姿が描かれる。

文/吉永美和子

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