南キャン20周年、しずちゃんが考える芸人像「向いてなくてもいい」
お笑いコンビ・南海キャンディーズのしずちゃんこと、山崎静代による絵画個展『しずちゃんの、創造と破壊展』が、「阪神梅田本店」(大阪市北区)で4月9日まで開催中。ダイナミックな色使いの約50点が揃い、なかには先日20周年を迎えた南海キャンディーズをモチーフとした新作も。
振りかえれば彼女は、コンビで『M-1グランプリ2004』準優勝を果たしただけではなく、女優として『第30回日本アカデミー賞』新人俳優賞受賞、ボクシングでは『全日本アマチュアボクシング』認定ヘビー級チャンピオン(初代)などの実績を残してきた。そんな多才な彼女はなぜ、20年も「南海キャンディーズ」の活動を続けているのか。しずちゃんの考える「芸人像」とは?
取材・文/田辺ユウキ
■ 「自分の身体を使って伝えたい」という思い
──(筆者持参の過去のインタビューが掲載された雑誌を読みながら・・・)
このときはほんまにコンビ仲が悪かったから、取材現場もすごい空気が悪かったやろうなぁ(笑)。今はちょっとずつ良くなってきたから「仲が悪かった」と言えるけど、当時は「不仲です」と口にするのも無理やった。私がテレビなどで「山ちゃん嫌い」「気持ち悪い」とか言って、それでも山ちゃんがしつこく絡んでくる役割でしたが、あれは本心でもあり、キャラでもありという感じで。
──個展の展示作品のなかで、しずちゃんにとってはポジティブな絵でも、山里さんは「闇を感じる」とおっしゃっていたなど、感性の違いが出ていますね。
でも確かに絵やお芝居って、その人の人間性が出るものだとは思うんです。私は描きたいように描いているけど、山ちゃんが言ってくれたように無意識にそれが出ているのかもしれません。南海キャンディーズとして活動しているときは、普段の自分とはほとんど差がないです。多少、演じている自分はいるかもしれませんが。
──絵はどんなときに「描きたい」となるんですか?
たとえば動物園へ行ったとき、キリンの顔を見て「あ、こんなんなんや」「かわいいな」となったら描きたくなります。そうやって動物と接したときは特に描きたくなりますね。
──自著『5000グラムで生まれた女のちょっと気ままなお話』(2023年)では、いつか魚拓ならぬ人拓(じんたく)をやりたいと書いていらっしゃいましたね。
筆を使わずに自分の身体を使って伝えたい意識があって。だから今回の展示にも唇や指で描いた絵もあるんです。いつか自分の髪の毛を筆代わりにしたり・・・(実際に髪の毛をたくし上げ実践)、もうちょっと伸びないと無理か(笑)。頭を丸ごとガバッと絵の具につけたりして描いたりもしたいです。
■ ボクシングを通して気付いた「将来の不安が大きく」
──かつては身体の大きさがコンプレックスで、お笑いとして楽しんでもらえるようになってからそれが解消されたとおっしゃっていますね。しずちゃんの表現は「身体性」がポイントなのかも?
自然や野生動物に憧れるんです。ネタで「火を怖がるサイ」を演じたりもしていますが、モノに頼らず自分の身体を頼りに生きる姿に憧れがあるんです。あと私自身、地球に接していたいという願望もあって。
──どういうことですか。
仕事で船に乗ったりすると、海のうえにいることで「普段よりも地球に触れているな」ってなるんです。あと、身体のなかでも足の小指とかって全然使わないじゃないですか。人間の小指はきっと「ほんまはこんなはずじゃなかったのにな」と考えてるんちゃうかなと思って、足の小指の使い道を考えています。そうやって身体でいろいろ表現したいんです。本能でなんでも動くタイプなんで。
──自著でも「飽きっぽい」とおっしゃっていましたが、ボクシングが長く続いた理由も「身体を使う」というところからなんじゃないかと。
好奇心が強いからいろんなことに手を出して、でもどれもすぐやめてきたので、ボクシングが長く続いたのは自分でも驚きました。南海キャンディーズの前でいうと、最初のコンビはちょっと続いたけど、次のコンビはすぐに無理かなと、そんなときに山ちゃんが現れて。でも「絶対にこの世界で生きていく」という気持ちは最初が一番強かったし、南海キャンディーズとして活動するようになってからも、自分が芸人である必要性は感じていませんでした。でもボクシングをやり始めてしばらく経って、『南海キャンディーズであり続けること』の大事さに気付きましたね。
──それはなぜですか。
デビューしてから早い時期から幸運にもお仕事をたくさんいただけたので、仕事がない時期を知らなかったんです。でもボクシングに専念するようになり、劇場に立ってはいたけどその割合も減って。目標だったロンドンオリンピック(2012年)出場も叶わず、次に向けてやっていたけど将来の不安が大きくなって。お仕事もどんどん減っていったとき「お仕事をもらえることって普通じゃないんや」とようやく気づいたんです。
──不安な時期があったんですね。
そのときに、「山ちゃんが横にいてくれるのって大きいことなんやな」って。私がボクシングに専念していたときも山ちゃんが南海キャンディーズを守っていてくれたし、なにより周りのみなさんが私を芸人でいさせてくれたから。
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