【光る君へ】むしろ恐怖感倍増に、黒木華が見せた謎の微笑み
平安時代の長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を、吉高由里子主演で描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。4月21日放送の第16回「華の影」では、コロナ禍のように疫病がまん延する世界が迫真の映像で描かれた一方、思わぬ恋愛イベントや波乱の予感に、視聴者は翻弄された(以下、ネタバレあり)。
■ 第16回「華の影」あらすじ
「石山寺」で仲違いしたまま別れたさわ(野村麻純)に、手紙を送りつづける日々を過ごしていたまひろ。その元に、かつて字を教えた農家の娘・たね(竹澤咲子)が助けを求めに来る。戻ってこない父母を探しに福祉施設の「悲田院」を訪れたまひろとたねは、すでに病で亡くなった2人の遺体を発見。ほどなくしてたねも発病し、まひろの看病のかいもなく、かつて教えた「あめつち詞」を唱えながら息絶えた。
まひろは「悲田院」で病人の世話を続けるが、ちょうど藤原道長(柄本佑)が訪れたときに発病し、そのまま意識不明に。道長はまひろを家に送り届け、必死に看病する。ひと晩経って病状が落ち着いたのを見届けた道長は、まひろが目を覚まさぬうちに、源倫子(黒木華)の待つ邸に戻るが、その様子を見た倫子は、道長にもうひとりの女性の存在を感じ取るのだった。
■ 疫病の描写を恋愛イベントにつなげた力技
「疫病まん延」というと、私たちはおのずとここ数年の新型コロナウイルスについて思いを馳せずにはいられないだろう。平安時代は新型コロナ級の感染病の流行が、数年に一度のペースで起こっていたが、ワクチンも有効な治療薬も、当然存在するわけがないこの時代。人々はただ感染の嵐が去っていくのを、祈祷をしながら待つしかなかった。この第16回の舞台となる994年は、ちょうど「疱瘡(天然痘)」が大流行したと記録に残っている。
流行病の怖さが身に沁みた今、脚本も演出も、そして俳優たちの演技もいっそう力が入ったはず。それによって「平安時代の疫病の恐ろしさをここまで見せるのか・・・」と呆然とするほど、克明かつシビアなシーンを描き出すことに成功した。関係者には「よくぞここまでやってくれた」と、心から労をねぎらいたくなるが、まさかそれをまひろと道長の再会イベントにつなげるとは、まさに「そこまでやれとは言ってない」という気持ちだ。
気を失ったヒロインを、本命がお姫様抱っこで運んでくれる。高熱で意識朦朧としたヒロインを、本命がひと晩看病してくれる。下手すると命がかかっているとハラハラし、相手がこんなに愛情深く支えていることを、肝心のヒロインが気づかないなんて! というもどかしさにドキドキする・・・。こんなときめくシチュエーションを多くの恋愛ドラマや少女漫画で見たような気がするし、SNSも「久々の少女漫画きたー!」と大いに盛り上がっていた。
■ 波乱の予感? 黒木華演じる倫子の微笑み
そんなこんなで、ひと晩まひろの看病をして、倫子と子どもたちのいる邸へと戻った道長だったが、ここで倫子様に恐怖のどん底に突き落とされることになるとは、これまた想像もしなかった。もうひとりの妻・明子(瀧内公美)のところから戻ってきたのとは、どうも様子が違うと感づき「殿のお心には、もうひとりの誰かがいる」と看破。どこを見てそう思ったのかはさっぱりわからないが、そこは人間観察の達人・倫子様だからこそ気づけた何かがあったのだろう。
北の方という盤石の地位にあり、一見どっしり構えているように見えるけど、道長の文をこっそり探してしまうなど、実はちょっと嫉妬深い一面があるのかな? と思える倫子様。そんな彼女が、もうひとりの女性の存在に感づいて怒りを見せるのではなく、逆に微笑みをたたえるというのが、むしろ恐怖感倍増。見えない相手への「負けないわよ!」の宣戦布告なのか、それとも不安が過ぎて逆に笑ってしまうみたいな、複雑な感情の末に出た表情なのか。
せっかく、久々に猫の小麻呂を抱いている姿にほっこりさせてくれたのに、不穏の種を豪快にばら撒いて行った倫子様。このあとまひろとは、娘の彰子絡みで交流が復活するはずだが、その「もうひとり」がまひろだと気づく日は来るのか? このまま何も知らずに最終回まで行ってもらうのが一番平和なのだが、そんなことは脚本の大石静が一番望んでいないに違いない・・・。
『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。4月28日放送の第17回「うつろい」では、道隆の体調がますます悪化し、その後継をめぐる争いが水面下で進んでいくところが描かれていく。なおNHK総合は「衆院補選・開票速報」のため、午後8時10分からスタート。
文/吉永美和子
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