【光る君へ】隆家(竜星涼)の軽率行動、歴史に残るやらかし

2024.5.17 18:30

『光る君へ』第19回より、軽率にも花山院に矢を射ってしまう隆家(竜星涼) (C)NHK

(写真11枚)

吉高由里子主演で、日本最古の女流長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。5月12日放送の第19回「放たれた矢」では、道長があえて関白にならなかった理由に感心が集まると同時に、藤原隆家の思いつきの行動が、大事件の引き金になるところが描かれた(以下、ネタバレあり)。

■ 第19回「放たれた矢」あらすじ

関白に近い地位を得た藤原道長(柄本佑)は、民のことを考えた政を進めていく。しかし、道長に位を抜かれたことが納得できない藤原伊周(これちか/三浦翔平)は、弟・隆家(竜星涼)ともども、内裏に上がらないようになってしまった。道長は自分の評判が落ちることを恐れ、義兄にあたる源俊賢(としかた/本田大輔)をひそかに派遣。俊賢は伊周と隆家を言いくるめることに成功し、2人は再び参内するようになった。

『光る君へ』第19回より、俊賢(本田大輔)に言いくるめられる隆家(竜星涼) (C)NHK
『光る君へ』第19回より、俊賢(本田大輔)に言いくるめられる隆家(竜星涼) (C)NHK

政では思うようにいかない伊周は、藤原斉信(ただのぶ/金田哲)の妹・光子(竹内夢)のもとに通い、慰めを求めるようになるが、ある晩、立派な牛車が斉信邸の前に停まっているのを目撃。光子が心変わりをしたと消沈する伊周だったが、隆家はそんな兄を励まして一緒に斉信邸に向かい、門から出てきた男に矢を射かける。それに驚いて尻もちをついたのは、斉信のもう一人の妹・儼子(たけこ)の元に通っていた花山院(本郷奏多)だった・・・。

■ 「摂関」に執着しない道長の歴史ミステリー

自分の孫を天皇にして、幼いときは「摂政」、成長してからは「関白」として政治の実権を握る「摂関政治」。それによって権力を握った典型的な人物と思われる藤原道長だが、意外にも関白になったことはなく、この数年後に就いた摂政もわずか1年で辞任。実は「摂関」の地位に、さほど執着していなかった人物なのだ。その理由は一種のミステリーとなっていたのだが、この19回でひとつの説が提示された。

今回道長の口からも語られたが、摂政・関白は陣定(今でいうと国会か)には直接タッチせず、その内容を天皇に報告・相談するという、天皇直属の独立機関のようなものとなっていた。しかし『光る君へ』の道長は、ほかの公卿たちと肩を並べて話し合い、よりその思いを感じ取るために関白を辞退した、という解釈になっていた。父の兼家(段田安則)や兄の道隆(井浦新)のような、独裁政治体制を敷くルートもあったのに、あえて合議制の道を選んだというわけだ。

『光る君へ』第19回より、関白を辞退し、自らが正しいと思う政への考えを語る道長(柄本佑) (C)NHK
『光る君へ』第19回より、関白を辞退し、自らが正しいと思う政への考えを語る道長(柄本佑) (C)NHK

当時としては非常に進歩的な考え方だが、この道長の選択に対してSNSでの批判はほぼ見られなかった。昨年の大河ドラマ『どうする家康』で、家康の妻・瀬名が、革新的過ぎる国造りを提案したときに、「ありえない」という声が結構上がったのとは対照的だ。これは道長が、実際に摂関の地位に固執してなかった史実があったことがひとつ。さらに今回の道長が、幼い頃から庶民のリアルな姿を見ていたことと、なによりもまひろとの「良い政をする」という決して裏切れない約束をしていたことが、説得力を持たせたのだろう。

■ 藤原隆家(竜星涼)の歴史に残るやらかし

そんな道長とは違い、関白の地位に固執しすぎて、完全に制御不能となったのが道隆の息子・伊周だ。下々の苦境など考える気もなく、天皇に会えば子作りばかりを口にする。一条天皇ははっきり口には出してないが、己の位よりも正しき政のあり方を優先する道長の姿勢に感心したあとに、伊周のこの態度に接したら、おそらく「母(詮子/吉田羊)の言うことを聞いて、道長をトップにしてよかったー」と思っているのは間違いないだろう。

『光る君へ』第19回より、天皇と中宮に子作りを勧める伊周(左/三浦翔平)と隆家(竜星涼) (C)NHK
『光る君へ』第19回より、天皇と中宮に子作りを勧める伊周(左/三浦翔平)と隆家(竜星涼) (C)NHK

この伊周の余裕のなさが、目をつけた女性の家に牛車が停まってる → 新しい男ができた! という早合点を引き起こし、それが「長徳の変」の引き金になったのは皮肉というか、因果応報というか・・・。伊周が、「人間的にも地位的にも、俺より上の男などいない」と考えられる心境にあれば、光子を問いただすことなく引き下がるなんてことはなかっただろうし、もしかしたら「妹の方に通ってる男では」ということまで思い至ったかもしれない。

そしてお久しぶりの花山院だが、儼子が世をはかなむほど愛した妃・忯子(井上咲楽)の妹ということで、その面影を彼女に見出したのか、藤原斉信邸に通っていたのは事実。しかし花山院の立場を考えると、隆家の襲撃は単なる恋愛トラブルというより、そこに政治的な狙いがあったと思われかねない。もし現役議員が元総理大臣の襲撃事件を起こしたら、世間は恋愛沙汰よりも先に「政治テロ?」と考えてしまうものだろう。さらに花山院は「法皇」という、日本仏教界でもトップの地位にあるので、二重にやっちゃいかんことをやってしまったことになる。

『光る君へ』第19回より、自分をめがけて矢が放たれたことに驚きを隠せない花山院(本郷奏多)と付き添いの斉信(金田哲) (C)NHK
『光る君へ』第19回より、自分をめがけて矢が放たれたことに驚きを隠せない花山院(本郷奏多)と付き添いの斉信(金田哲) (C)NHK

登場したときからどうも言動が軽率な隆家が、冗談でうっかり射ちゃったことが、まさか社会の教科書に名を残すほどの事件になるとは、本当に歴史とは何で動くかわからない。甥たちへの敵意はさほど感じられなかった道長が、どういった思いから厳しい処分を決断するのか、来週は特に見逃せないだろう。また花山院は女遊びにうつつを抜かすだけでなく、現在も続く「西国三十三所巡礼」を定めたとされるなど(諸説あり)、文化・宗教的にもいろんな功績を残しているので、来週からはぜひ「実はすごい人」目線で見て差し上げてほしい。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。5月19日放送の第20回「望みの先に」では、まひろの一家が父・為時(岸谷五朗)の任官に湧く一方、藤原伊周と隆家兄弟が不祥事によって処分され、その影響が定子にも至るところが描かれる。

文/吉永美和子

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