吉田恵輔監督「野獣のような石原さとみを野に放ったのはオレ」

2024.5.17 21:00

映画『ミッシング』の吉田恵輔監督

(写真7枚)

◆「どれだけ人を苦しめるのか想像できない」

──劇中で沙織里が「世の中っていつからこんなに狂ってんだろう・・・」と呟きますが、ほんとそうですよね。監督のなかにも、そういうSNSで誹謗中傷する人たちへの怒りがあったわけですね。

怒りもありますが、仕方ないという思いもあります。こういう人たちがいることは。結局、想像力がないんですね。自分がした書き込みがどれだけ人を苦しめるのか想像できない。でも実は、人にはもともとそんなに想像力がないってこともわかっているんです。親友がふられたとき「わかるよ、辛いよな」って言いながらも一緒には泣けないじゃないですか(笑)。

どんなに仲がよくても、痛みを同じ分量で共有することはできないんです。大きな自然災害で何万人という人が亡くなったとき、そのすべての悲しみが受け止められたりしたら生きていけないですから。だから誹謗中傷する人に怒りは感じますが、そういう人たちがいることは仕方ないなとも思うんです。

「人はもともと、そんなに想像力がない」と吉田恵輔監督

──そんななか、映画の終盤には人の善意も少しだけ出てきます。悪意が蔓延するなか、なんだかとてもホッとする場面です。

あれは沙織里のおかげなんです。彼女は、あれだけ追いつめられているなかで、誰かの助けになりたいと手を差し伸べるんですね。それで自分の娘ではないけれど、同じように行方不明となった子どもが見つかったとき、自分のことのように喜ぶんです。自分が辛いのに、それでもなお誰かのためになにかをしたいと願う。その気持ちが巡り巡って、自分を助けることになるんです。

──あの展開は、いいアイデアというか、うまいなと思いました。

脚本を書いているときに、沙織里たち夫婦は「どうしたら救われるのか?」ってずっと考えたんです。自分の身に置き換えて、どうやったら自分は救われるだろうかと。でも、全然思いつかなくて。意地悪する手ならいくらでも思いつくのに(笑)。

それで、これはもう誰かが現れるとか奇跡が起こるとかでは無理だなって思ったんです。自分が変わるしかないな、と。追いつめられているのに、それでも人のことを思いやれる人間になったら、ちょっとだけ楽になれるかもって。そういう人間になら少しの善意が寄せられてもいいよなって。

娘を捜す母・沙織里(石原さとみ)と夫・豊(青木崇高) ©︎2024「missing」Film Partners

──狂った世の中であっても、そういうことがあると確かに救われた気になります。

生きていくしかないんですから、僕らは。こんな狂った世の中で。

──そのヒロインの沙織里を吉田映画初出演の石原さとみさんがまさに熱演しています。出演の経緯は彼女の方から出演したいという申し入れがあったのですよね。

ええ、僕の映画を観て「出たい」と。それが7年前で、そこからシナリオができるまでに3年かかって、映画にするのにさらに3年かかりました。

映画『ミッシング』

2024年5月17日(金)公開
監督・脚本:吉田恵輔
出演:石原さとみ、中村倫也、青木崇高、森優作、小野花梨、細川岳、ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画

  • LINE
  • お気に入り

関連記事関連記事

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

関連記事関連記事

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本