吉田恵輔監督「野獣のような石原さとみを野に放ったのはオレ」

2024.5.17 21:00

映画『ミッシング』の吉田恵輔監督

(写真7枚)

◆「テイクごとに違う演技をしてくる」

──現場での石原さんはどうでしたか?

なんていうか、これまで接したことのないタイプの役者さんでした。演技の仕方から役への取り組み方まで。独特すぎて、ちょっと形容しがたいんですけど、あえて言えば、現場で一度、自分のなかの石原さとみを失くして、催眠術によって役を入れる感じというのかな。そうなると、もうこちらでもコントロールできない。

──劇中で何箇所か、これはもう芝居を超えてるなっていう演技がありました。

青木崇高さん演じる夫・豊と一緒に、ある連絡を受けて警察に駆けつけるところとか。石原さん自身がある意味パニックになっていて、パニックになる役と重なっているんです。ですから、あそこなどは石原さとみという役者のドキュメンタリーみたいなものです。

娘を捜す母・沙織里(石原さとみ)と夫・豊(青木崇高) ©︎2024「missing」Film Partners

──資料には、「この映画に石原さとみさんを起用するのは一種の賭け」だと監督が言ってたと書いてあるのですが、賭けは勝ちでしたね。

勝ちましたね。ただ、この映画の石原さとみを作り上げたのは自分だとは言えないので(笑)、勝ったのは石原さんで、僕は勝ったとは言えないですね。でも、この野獣のような石原さとみを野に放ったのは俺だぞと、それは言いたいですね(笑)。

──野獣のような石原さとみを受け止めるという役どころでは、夫役の青木崇高さんがいいですね。

テイクごとに違う演技をしてくる石原さんの芝居をすべて受け止めてくれましたね。青木さん自身も、そういう石原さんとのやりとりを楽しんでいるところはあったと思います。ただ、疲れたでしょうけど(笑)。

──沙織里の弟役、森優作さんの比重も重いです。

今回のキャスティングで一番最初に考えたのは森くんでした。まして、石原さんがヒロインをやってくれるとなったら、もう絶対森くんだなって思いました。彼のいい意味での素人っぽさが、石原さんの「華」をうまい具合に吸い取ってくれて、あの2人の姉弟感がいいんです。

娘を捜す母・沙織里(石原さとみ)と沙織里の弟・圭吾(森優作) ©︎2024「missing」Film Partners

──出演者でもうひとり訊いておかなくてはいけないのが、テレビ局の記者で、沙織里に向き合い、沙織里も頼りにする人物を演じた中村倫也さんです。

中村さんはものすごく淡々としてました。感情を見せないんですよ。こちらがなにか言っても「あ、了解です」っていう感じ。基本的に石原・青木グループに入ってこない。その距離の取り方も、演じているテレビ記者の砂田っぽいんですよ。だから役柄の関係性がそのまま俳優陣の関係性になっていました。

──最後に、監督がいま、この映画を観てくれた人がこういうことを感じてくれたらいいな、と思うものがあれば教えてください。

さきほども言ったように、人間には想像力が足りないと思うんですが、ないならないなりに考えてほしいということかな。そうすれば、これまで考えなしにやっていたことが少しは減ると思うので。そうなったら、今よりは少しやさしい世界になるんじゃないかな。

※吉田監督の吉は「つちよし」が正式表記です。

◆映画『ミッシング』(2024年5月17日公開)
娘が失踪して3カ月。その帰りを待ち続けるも、世間の関心が薄れていくことに焦る母・沙織里(石原さとみ)。その温度差から夫・豊(青木崇高)とは喧嘩が絶えず、唯一取材を続けてくれる地元テレビ局の記者・砂田(中村倫也)を頼る日々だった。そんななか、失踪時に沙織里が推しのアイドルのライブに行っていたことが知られると、「育児放棄の母」と誹謗中傷の標的になってしまう。欺瞞や好奇の目に晒され続けた沙織里の言動は次第に過剰になり、いつしかメディアが求める「悲劇の母」を自ら演じてしまうほど、心を失っていく・・・。

映画『ミッシング』

2024年5月17日(金)公開
監督・脚本:吉田恵輔
出演:石原さとみ、中村倫也、青木崇高、森優作、小野花梨、細川岳、ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画

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