虎に翼は「戦争」をどう描いたのか、制作統括が振りかえる

2024.6.1 08:15

疎開から帰ってきた寅子(伊藤沙莉)たち(C)NHK

(写真3枚)

放送の3分の1を終えた連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合ほか)が転換点をむかえた。今週放送された第9週「男は度胸、女は愛嬌?」41回で終戦をむかえたが、寅子(伊藤沙莉)は夫・優三(仲野太賀)と兄・直道(上川周作)を戦争でいっぺんに喪い、さらには父・直言(岡部たかし)までも病気で亡くす。

そんな折、寅子の目に飛び込んできたのは、新聞の「日本国憲法」の文字。これは、第1回の冒頭でも流れたシーンだ。敗戦から憲法改正という、日本社会にとっての「潮目」。その前段の戦争は、本作においてどんな意味を持つのか、制作統括・尾崎裕和さんに振り返ってもらった。

◾️物語のターニングポイント「日本国憲法公布」までの道のり

寅子が初めての高等試験司法科に挑んだ第6週26回で日中戦争が勃発。寅子と優三が結婚した第7週35回と、第8週36回の間に太平洋戦争が開戦。そして第9週41回で終戦をむかえる。『虎に翼』の「戦争編」は約2週間と、比較的スピーディーに過ぎていった。

この意図について、尾崎さんは「戦争のエピソードをあえて特別『短くしよう』というような議論はスタッフ間でしなかったのですが、『虎に翼』の物語では敗戦後、『日本国憲法』の公布が非常に重要なターニングポイントだと考えました。第1回の冒頭にも『寅子が日本国憲法を目にする』同じシーンがあるのですが、寅子にとっても『虎に翼』にとっても、『日本国憲法公布』が新たなスタート地点。戦争は、そこに向かっていく道のりでもありました。寅子のモデルである三淵嘉子さんも『私の人生はここ(日本国憲法公布)から変わった。読んで涙が出た』という主旨の発言を残しておられます」と語る。

マッチ作りのかたわら、新聞記事を見つめる寅子(伊藤沙莉)(C)NHK

また、朝ドラの終戦でたびたび目にする玉音放送のシーンが、本作にはなかった。このねらいについて尾崎さんは、「この物語を検討するなかで、寅子にとって重要なのはやはり日本国憲法公布を目の当たりにするところだと考えていたので、終戦日の風景として描かれることの多い玉音放送はなくてもよいのではないか、ということになりました。ただ、視聴者のみなさんから『玉音放送がない』というリアクションがくることは予想していました」と話した。

◾️寅子、花江、はる…残された人たちのドラマ

昭和以前から物語が始まる朝ドラにおいて避けては通れない「戦争の描写」は、各々の作品に、それぞれの特色と工夫が見られる。

『虎に翼』ではどんなことを心がけたのかとたずねると、尾崎さんは「戦争についてはいろんな描き方がありますが、本作では特に『この戦争は個々の人たちにとってどういうものだったのか』ということをしっかり描こうとしています。なので、『皆で玉音放送を聞く』シーンよりは、それぞれのところに報せが届く場面にフォーカスが当たっています」とコメント。

そして「優三を亡くした寅子、直道を亡くした花江(森田望智)、そして息子・直道に次いで夫・直言も病気で喪うはる(石田ゆり子)など、戦地に赴いたほうではなく『残された人たちのドラマ』を描いています」と振りかえった。

新たな決意を胸に刻む寅子(伊藤沙莉)(C)NHK

今週金曜日に放送された45回では、日本国憲法に鼓舞されて再び立ち上がり、裁判官として採用してほしいと直談判をしに司法省へ赴いた寅子。次週・第10週「女の知恵は鼻の先?」で、寅子と猪爪家はどのように再生していくのだろうか。行末を見守りたい。

取材・文/佐野華英

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