安彦良和「遠回りしたことで足跡ができた」、稀代の描き手の原点

2024.6.10 18:15

『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイナー兼アニメーションディレクターとしても知られ、マンガ家としても活躍する安彦良和氏(6月7日・神戸市内)

(写真7枚)

2024年は、『機動戦士ガンダム』放映45周年のメモリアルイヤー。同作のキャラクターデザイナー兼アニメーションディレクターで、マンガ家の安彦良和(やすひこ・よしかず)氏も喜寿(77歳)を迎えることから、その画業の全貌に迫る大規模回顧展『描く人、安彦良和』が「兵庫県立美術館」(兵庫県神戸市)で開催されている。

■ 大学を除籍になるも…人生を救った漫画

兵庫県立美術館の『描く人、安彦良和』

過去にも安彦氏の個展は開催されているが、今までとは異なり特に注目したいのが、少年期や青年期に描いた絵やマンガなどの貴重な資料の数々だ。6章仕立て約1400点の展示作品を通じて、少年期から現在までの足跡をたどるため、かつてない試みの内容になっている。

北海道紋別郡遠軽町に開拓民の3世として生まれた安彦氏。同展の開催にあたり、担当の小林公(ただし)学芸員は、北海道の実家まで赴き、物置きから中学時代の4冊のノート『重点整理帳』を発見したという。

6月7日の開会式の記者会見で「勉強したくないから、イラストを描いて誤魔化していたんです」と明かした安彦氏だが、初公開されたこのノートを見ると、我流でマンガを描き始めたとは思えないほど、当時から高い画力を持っていたことが分かる。

中学生まではマンガ家になりたいと思っていたものの、その後は教師になろうと弘前大学へ進学。しかし、学生運動に身を投じたことで、なんと大学を除籍になってしまう。その後の人生を救ってくれたのが高校時代に描いたマンガ作品『遥かなるタホ河の流れ』だ。上京して、実技評価で同作を提出したことから、虫プロダクションのアニメーターに合格し、現在へと繋がった。ある意味、起点となった作品なので見逃せない。

安彦氏は、「非常に遠回りをして、なんだ俺は、子どもの頃の夢を叶えたんじゃないか。遠回りしたことで長い足跡ができて、今回に繋がり、非常に幸せなことだと思っています」とほほ笑む。

■ 安彦氏が大切にした「小さき者の視点」

同展のために安彦氏の北海道遠軽町の実家の物置きから発見された中学時代の『重点整理帳』

カリスマ・アニメーターとしての地位を築いた『機動戦士ガンダム』や他の安彦作品にも通底しているのは、「小さき者の視点」だ。否応なしに戦争に巻き込まれていく等身大の若者として描かれたガンダムの主人公・アムロからも分かるように、心の葛藤や人間同士の感情のぶつかり合いを描くことで、小さき者の視点を大切にしている。

処女作ともいえる『遥かなるタホ河の流れ』でも「なぜ戦争をしなきゃいけないのかしら・・・」という台詞があり、高校生の時点ですでに、生涯に渡るテーマを見出していたことに驚かされる。

人間技とは思えない画力で注目を集めることが多いが、少年期や青年期からの人生を振りかえりながら、多岐に渡る作品すべてを取り上げるという壮大なボリュームで、人生を通して見つめ続けた作品に共通するテーマに迫った試みが同展の特徴だ。

少年期、青年期の作品について、安彦氏は、「この手のものは、なかなか目にする機会が無いと思います。悪戦苦闘して、アニメやマンガが世に出てきているんだなと知っていただけたら」と語っている。

『描く人、安彦良和』は、「兵庫県立美術館」にて9月1までの開催。料金は一般1900円ほか、詳しくは公式サイトにて。

取材・文・写真/いずみゆか

『描く人、安彦良和』

会場:兵庫県立美術館 企画展示室
会期:2024年6月8日(土)~9月1日(日)
休館日:月曜日(ただし、7月15日(月・祝)と8月12日(月・振休)は開館
※7月16日(火)と8月13日(火)は休館
開館時間:午前10時~午後6時(入場は閉館の30分前まで)

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