一条天皇の愛が暴走、定子が許されぬ理由とは?【光る君へ】

2024.6.20 20:05

職御曹司で定子(高畑充希)と会う一条天皇(塩野瑛久)(C)NHK

(写真6枚)

平安時代の長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を、吉高由里子主演で描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。6月16日放送の第24回『忘れえぬ人』では、一条天皇と中宮・藤原定子の復縁が大きな騒動に発展。そこには現代人にはなかなかピンとこない、宗教も絡んだ複雑な事情があった(以下、ネタバレあり)。

■ 定子に会い、政がおろそかになる一条天皇

一条天皇(塩野瑛久)の母で、藤原道長(柄本佑)の姉・詮子(吉田羊)が病に伏せ、自分が失脚させた藤原伊周(三浦翔平)の幻影を恐れるようになっていた。天皇は平癒祈願のための大赦をおこなうことになり、伊周とその弟・隆家(竜星涼)を速やかに呼び戻すよう命じる。そして道長は、伊周と隆家の追放は、結局は藤原斉信(金田哲)の計略だったことに気づき、「人はそこまでして、上を目指すものなのか」と悔やんだ。

伊周とその弟・隆家を速やかに呼び戻すよう道長に命じる一条天皇(塩野瑛久)(C)NHK

天皇はさらに、出家した中宮・定子(高畑充希)を内裏に呼び戻そうとするが、道長に固く止められ、職御曹司に入らせることに。しかし天皇はそこに入り浸るようになると、政もおろそかになり、藤原実資(秋山竜次)ら貴族も反発する。一方、まひろの父である越前守・藤原為時(岸谷五朗)から、宋(中国)人に交易を迫られているとの文が届くが、道長は越前を足がかりに宋が攻めてくることを懸念し、このまま時を稼ぐよう為時に命じるのだった。

■ 純愛を貫く一条天皇、何が悪いの? 改めて整理

まひろがいる越前は、親戚のおじさんからの不意打ちプロポーズ&国際ロマンス詐欺未遂と、いろいろとにぎやかだったが(くわしくは別コラムで!)、元カレの道長君がいる都はというと、そっちはそっちで政治体制が揺らぎかねない異常事態の真っただ中だった。ただ「天皇が定子への純愛を貫くことの、なにが政治的にいけないの?」という声もありそうなので、今回は素人解説で恐縮ながらも、その辺りを改めて整理しておきたいと思う。

定子(高畑充希)のもとへ向かう一条天皇(塩野瑛久)(C)NHK

中宮・定子が内裏に戻ると、なぜ実資をはじめとする貴族たちが「不可解」と言い出すのか? 第一に、天皇の承諾なく出家するという、当時としては罪人同然の行為をした后を、独断で内裏に呼び戻そうとすることだ。言ってみれば、突然全部の仕事をうっちゃらかして雲隠れした重役を、社長が何事もなかったように元の地位に呼び戻すようなものだから、これはもう現場の人間は黙っちゃいないだろう。

敵しかいない状況の定子(高畑充希)(C)NHK

また、神に国家安泰を祈る場でもある内裏と、そのトップである天皇が、出家して仏に仕える人・・・すなわち異教徒を后とし、聖域である内裏に入れるというのも、これまたタブー極まりないこと。神道と仏教の行事とか習慣がいろいろ混じっちゃってる現代日本人には、この辺りが一番「不可解」だと思うけど、平安時代はその線引きがかなり厳格なのだった。極端な例だけど、神社のお祓いをほかの宗教の信者が取り仕切るなんてことになったら、さすがに「いやいやそれは」ってなるような感覚に近いのかもしれない。

しかも定子の場合、父・藤原道隆(井浦新)が強引に中宮にしたということで、もともと貴族たちの印象が良くなかったというのも、さらに風当たりが強くなった原因だろう。それを妨げる大きな盾となっていた、父と母はもういない。ようやく恩赦で許されたばかりの兄弟は、味方となる公卿がほぼゼロで、後見としては大変心もとない。定子の周りは、文字通り敵しかいないような状況なのだ。

職御曹司で一条天皇(塩野瑛久)と会う定子(高畑充希)(C)NHK

唯一の救いは、天皇が周りを敵に回してでも献身的に愛してくれること。しかし天皇が政は政、プライベートの愛情は愛情できっぱり分けていれば、まだマシだった。内裏と職御曹司の距離が近すぎる(というか隣の建物)ということもあり、公私の境界線がなあなあになって、道長も含めた公卿たちの不興を買ってしまっては、それに比例して定子への不満も積もっていく。天皇にとっては、子作りも政治的義務の一つとはいえ、定子のためにもあまり波風を立て過ぎずにおくべきだった。

■ 定子が光源氏の母?『源氏物語』と重なる状況

ただこの境遇、『源氏物語』の光源氏の母・桐壺の更衣と、明らかにオーバーラップしている。桐壺帝の寵愛が深すぎたがゆえに、周囲から激しいイジメにあって衰弱し、光る君を産んだあとに亡くなってしまう薄幸の后。また桐壺帝の方も、更衣に入れ込みすぎていることを、周囲に良く思われてないという描写がある。今は政治の中枢とは程遠い場所にいるまひろが、どういうきっかけで2人をモデル(まだ推測だけど)に『源氏物語』を書くことになるのか、ここが重要なポイントになってきそうだ。

まひろの結婚を聞き…どうする道長!? (C)NHK

さて来週からは、まひろが都に戻ってきて、また道長と接近しそうな状況となってきた。しかしその前に、どうやらまひろが藤原宣孝(佐々木蔵之介)の妾となることが、道長にも知らされることになりそうで・・・この不安に関しては、視聴者は同情するというより「道長の顔を早く見たいゆえ、この一週間は五秒で過ぎてくれ」「のたうち回れ! 身悶えろ道長!!」と、なぜか道長君の苦悩を見たいというドSな意見が多数だった。ただ筆者も割とそっち寄りなので(笑)、柄本佑の目が泳ぐ演技が今から楽しみである。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。6月23日放送の第25回『決意』では、藤原宣孝と結婚するためにまひろが都に戻って来るところと、政に目を向けなくなった一条天皇に対して、藤原道長がある決断をくだす姿が描かれる。

文/吉永美和子

  • LINE
  • お気に入り

関連記事関連記事

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

関連記事関連記事

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本