ドラマで話題「天王寺」アクセント問題、方言のプロはどう見る?

2024.7.2 07:00

天王寺(てんのうじ)のイントネーションが話題に(写真はOsaka Metro「天王寺駅」)写真提供:大阪市高速電気軌道

(写真2枚)

6月17日まで放送されていた月9ドラマ『366日』(フジテレビ)のとあるセリフに、大阪の地名「天王寺」が登場。そのアクセントがSNSで話題となり、関西人の視聴者から「アクセントがおかしい」などとツッコミが入る事態となった。

一方で、「関東人には何がヘンなのかさっぱりわからない」と困惑する声も。そこで、方言を研究する神戸女子大学文学部の橋本礼子教授に、詳しく解説してもらった。

■ まさかの「天王寺のイントネーション」がトレンド入り

X(旧ツイッター)で「天王寺」がトレンド入りするほど話題を呼んだのは、第10話(6月10日放送回)で主要人物・遥斗(眞栄田郷敦)の大阪への転勤が決まり、遥斗に思いを寄せる看護師・紗衣(夏子)がどこに住むのかを聞いたシーンだ。

「天王寺にある会社の寮に」「天王寺。あべのハルカスのそばですね」という何気ない会話シーンだが、このやり取りを受け、SNSでは「天↑王寺ちゃう天王↑寺↓やろ!!」「天王寺の発音が本能寺やん」などの声が殺到。ドラマ放送後には「天王寺のイントネーション」がトレンド入りするほど話題となっていた。

関西人は違和感、アクセントで見ると…

さっそく橋本教授になぜそのようなギャップが生まれたかを聞いてみると、「会話をしている2人は、いずれも近畿地方出身ではないようです。東京式アクセントで話をしているなら、地名の部分だけ方言のアクセントになることは無いでしょう」と指摘し、「東京式アクセントで実現可能なアクセントパターンを使い、『天王寺』という語形から推測し、似ていると考えた『浅草寺』や『祐天寺』などのアクセントを使っているだけだと思われます」と推測。

東京式アクセントと京阪式アクセントの違い

「東京式アクセント」とは、いわゆる「標準語」と呼ばれるもののアクセントのこと。発音時、1拍目が高い場合は2拍目が必ず低くなり、1拍目が低い場合は2拍目が必ず高くなるという規則がある。

対して、京都府中部・南部や大阪府などで使用される「京阪式アクセント」は、1拍目と2拍目のピッチの高さが変わらない場合がある。「天王寺」は京阪式アクセント特有のもので、東京式アクセントではこの言葉を忠実に表現できる同じアクセントパターンが無いのだとか。

■ ドラマのアクセント、実はリアルな表現だった?

SNS上では、そもそもなぜ「本能寺」などと同じ発音にならないのか、と疑問に思う声も上がっていたが、その地域での伝統的な地名のアクセントは、アクセントの規則からは予測しづらい型になることがあるそうだ。特には四天王寺の信仰もあり、地元でも「さん」「はん」付けをされるほど親しまれている場所なので、その土地特有のアクセントが定着しているのでは、と橋本教授は指摘する。

今回のように地名のアクセントがほかの地域の人から異なったアクセントで発音されるケースはよくあることなのだとか。たとえば、長野県の「ながの」や山口県の「やまぐち」が、地元の人と他の方言アクセントを使う人で違ったアクセントになる。

話題となったシーンを振りかえり、「会話ではほとんど東京式アクセントなのに、天王寺だけ京阪式アクセントにしたら、すごく違和感がありますよね。日本語で会話をしている際に『クリスマス』という言葉だけ本場のアクセントで発音するようなものです」と橋本教授。関西人からするとどうも気になるシーンだったものの、近畿圏出身ではない人たちの会話としては、自然なシーンだったようだ。

取材・文/つちだ四郎

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