京都・二条城で「江戸時代」にタイムスリップ、特別入室を開催

2024.7.28 08:00

大名が将軍との謁見する前に、老中が取り次ぎをしたとされる「式台の間」に特別入室できる

(写真7枚)

徳川幕府最後の将軍 ・徳川慶喜(1837~1913)が朝廷に政権を返すと「大政奉還」の表明をした場所として知られる、世界遺産の「元離宮二条城」(京都市中京区)で、国宝・二の丸御殿「式台(しきだい)の間」の特別入室が開催されている。

■ 普段は観ることが難しい、貴重な機会

「二の丸御殿」といえば、江戸時代初期の狩野派の絵師・狩野探幽が描いた松の障壁画が見事な「大広間」が大政奉還表明の場所として歴史の表舞台に登場するので、ご存じの方も多いことだろう。今回特別入室できる「式台の間」は、はっきりとした文献史料は残っていないとのことだが、裏に「老中の間」があり、来殿者(大名)が将軍との謁見を前に老中と挨拶をし、将軍への取次ぎがおこなわれたとされる部屋だ。

通常「二の丸御殿」はどの間も廊下からの観覧になるが、なかに入ることで、将軍との拝謁を前にさぞや緊張していたであろう、当時の大名の気分を味わうことができる。さらには、廊下側からは普段観ることが難しい四隅の腰障子や松図をじっくりと堪能できる貴重な機会だ。

廊下側から見た二の丸御殿の式台の間

「二の丸御殿」の障壁画は、1626年(寛永3年)、後水尾天皇の行幸(ぎょうこう)のために大改築された際、幕府御用絵師で狩野派棟梁の狩野探幽が一門の総力を挙げて制作したもの。この寛永期の障壁画を含む約3600面の障壁画が現存し、1982年(昭和57年)にそのうち1016面が、国の重要文化財に指定されている。

明治維新後の二条城がどうなったかというと、京都府庁や陸軍施設として使用された後、1871年(明治17年)に宮内省が管轄する「二条離宮」になった。それに伴い、翌年から翌々年にかけて大規模修理がおこなわれている。「式台の間」の腰障子は、江戸期のオリジナルは失われ、明治期の離宮時代(明治17年~昭和14年)に別の場所から持って来て(出所は不明)、嵌め込まれたものだという。

通常の廊下からの観覧では見えにくかった「式台の間」の四隅

■ 時代の息づかいが伝わる…障壁画の痕跡

ちなみに現在の「式台の間」の障壁画は模写であるため寛永期の障壁画の原画(重要文化財)や明治期のリフォームされた腰障子の『花鳥図』は、「二条城障壁画 展示収蔵館」(京都市中京区)で観ることができる。

「二条城障壁画 展示収蔵館」重要文化財 二の丸御殿障壁画 原画公開「障壁画再生~式台の間~」では、離宮時代の式台の間の雰囲気が味わえる

寛永期に描かれた原画の松図は、狩野派の誰が描いたものなのだろうか?元離宮二条城事務所の学芸員は、「狩野探幽と狩野山楽説の2説ありますが、どちらも決定打に欠けます」と説明する。

さらに、松葉や水辺の鮮やかな色については、明治期の大修理の際に補彩されたものだという。当時の新聞や日記から、日数も人工も足りなかったことが分かっており、職業絵師だけでなく、宮内省の絵心がある職員をも動員して、人海戦術で短期間に修理したため、画面によって補筆の線の特徴が異なるのも見逃せない。

明治期にリフォームされた腰障子『花鳥図』も図のつながりに不自然な箇所があり、元々引手があった痕跡もある。不自然さを和らげるために描き足すなど手を加えている箇所の紙の継ぎ方に規則性がなく、「元はひと続きだった絵を再構成することによって、二の丸御殿でバラバラに再利用されたと考えられます」と学芸員。

これらの痕跡から、主が変わり、新たな時代を迎えて皇室の離宮として生まれ変わる瞬間、急ピッチで大修理がおこなわれた当時の息づかいがリアルに伝わってくる。特別入室では二条城だった江戸期を、原画公開では、皇室の離宮だった明治から昭和期に思いを馳せてみてはいかがだろうか?

『世界遺産 二条城 夏の特別事業』の国宝・二の丸御殿「式台の間」特別入室は8月26日まで。重要文化財 二の丸御殿障壁画 原画公開「障壁画再生~式台の間~」は、「二条城障壁画 展示収蔵館」にて9月15日まで。ほかにも、通常非公開の香雲亭での特別朝食(完全予約制/4200円)が9月30日まで実施中。入城と二の丸御殿観覧は一般1300円ほか、詳しくは公式サイトにて。

取材・文・写真/いずみゆか

『世界遺産 二条城 夏の特別事業』

実施期間:2024年7月15日(月・祝)~9月30日(月)
●国宝・二の丸御殿「式台の間」特別入室
実施期間:2024年7月24日(水)~8月26日(月)
●二条城障壁画 展示収蔵館 重要文化財 二の丸御殿障壁画 原画公開「障壁画再生~式台の間~」
 実施期間:2024年7月18日(木)~9月15日(日)9:00~16:30
●清流園・香雲亭での朝御前(完全予約制)
 実施期間:2024年7月15日(月・祝)~9月30日(月)9:15~10:15

 受付時間:8:45~16:00(17時に閉城)
 二の丸御殿観覧不可日:7月・8月の火曜日(料金は一般800円ほか)

  • LINE
  • お気に入り

関連記事関連記事

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

関連記事関連記事

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本