『枕草子』のイメージを覆す…悲劇の后・定子逝く【光る君へ】

2024.7.25 18:30

「彰子様とご一緒のときは、私のことはお考えになられませぬよう」と、天皇の立場をおしはかる定子(高畑充希)(C)NHK

(写真9枚)

吉高由里子主演で、日本最古の女流長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。7月21日放送の第28回「一帝二后」では、一条天皇の后・定子に思わぬ不幸が訪れることに。『枕草子』で描かれたイメージとは大きく異なった定子像を、改めて振りかえってみた(以下、ネタバレあり)。

■ 天皇は一帝二后を受け入れるが…第28回のあらすじ

一条天皇(塩野瑛久)の中宮・藤原定子(高畑充希)を皇后とし、藤原道長(柄本佑)の娘・彰子(見上愛)を中宮とする「一帝二后」を提案され、天皇は猛反発。しかし、なにがあっても「仰せのままに」しか言わない彰子に、天皇は母・詮子(吉田羊)の言いなりだった自分を重ねる。さらに、道長を慕う藤原行成(渡辺大知)の必死の説得もあって、一帝二后を最終的に受け入れることにした。

一条天皇(塩野瑛久)を説得する藤原行成(渡辺大知)(C)NHK

定子に気を使う天皇だったが、定子は「彰子様とご一緒のときは、私のことはお考えになられませぬよう」と、天皇の立場をおしはかる。やがて定子は、天皇の3人目の子どもを出産するが、そのまま亡くなってしまう。「清少納言」ことききょう(ファーストサマーウイカ)が見つけた、遺言のような歌を見た定子の兄・伊周(三浦翔平)は、自分たちのすべてを奪った道長への復讐を誓うのだった。

涙する清少納言(ファーストサマーウイカ)

■ ほがらかさと薄幸さ、絶妙なバランスで定子を演じた高畑充希

20日放送の『土スタ』(NHK)に登場した際、今後の見どころを聞かれ、「言えないことが多すぎる(笑)」と言葉をにごしていた、藤原定子役の高畑充希。実際の定子は、若くして亡くなっているので「あ、もしかして退場が近いのか・・・」と覚悟した人も多かっただろう。しかしこの週の最後に、不意打ちのように亡くなるとは思ってなかった人が多かったようで、SNSでは「来週だと思ってたけど、まさか今週だなんて」などの、悲鳴のような言葉が飛び交った。

行成(渡辺大知)に感謝する道長(柄本佑)(C)NHK

藤原行成が、推しの藤原道長に励まされ、一条天皇に進言したおかげで、サブタイの「一帝二后」が実現した第28回。非常に強引というか、屁理屈みたいな感じで実現した状況だけど、あの「前例にないこと絶対許さないマン」の実資すらスルー。これは単純に、道長の絶対的な権力ゆえかと思っていたら、『光る君へ』では、そのほかの事情も丁寧に説明していた。

一つは行成が述べていた通り、出家の身の定子には不可能な、国家的神事に参加できる后が必要だったこと。もう一つが、定子自体が徹底的に宮中でうとまれていたということだ。

定子(高畑充希)との子を抱く一条天皇(塩野瑛久)(C)NHK

『枕草子』を見ていると、美しく知的でユーモアもある定子は、誰からも愛された存在のように見えた。しかし『光る君へ』では、本人は確かに申し分のない女性であるものの、父親が強引、兄貴は傲慢、そして帝は過激な恋愛至上主義と、取り巻く人間の影響で、誰も彼もから白い目で見られる「悪女」にされてしまった・・・ということを強調してみせた。

さらに演じる高畑が、ほがらかさと薄幸さを絶妙なバランスで演じてみせたことが、「定子は全然悪くないのに」という理不尽さに、拍車をかけたように思う。

■ 次回予告で気になる描写…清少納言の今後の動きに注目

帝に一途に愛されることをありがたく感じつつも、それが自分の状況をますます悪化させる原因ということに、その賢さゆえに気がついていたはずの定子。だからこそ「私は家のために入内した身。彰子様と変わりませぬ」という、帝を突き放す発言が出たのだろう。

定子(高畑充希)からの歌に喜ぶ清少納言(ファーストサマーウイカ)(C)NHK

そして帝とは対象的に、よりその関係を深めたのが清少納言だった。自分と同じレベルでインテリな話ができて、しかもなんの見返りも求めない、純度100%の「推しの愛」だけで接してくる唯一の人間。清少納言が定子に出会えたのも幸運だろうが、定子もまた清少納言に出会えたことで、数少ない救済を得ることができたのではないか。

平安時代というものが、全然雅で安穏とした世ではなく、武士の世とは別のベクトルで厳しい時代だったという現実を突きつけてくる『光る君へ』だけど、定子はそのなかでも、もっとも従来のイメージと、とらえ方が大きく変わったキャラクターの一人だろう。

自分たちのすべてを奪った道長への復讐を誓う・伊周(三浦翔平)(C)NHK

清少納言と兄弟たちしかいないという臨終の場が、その「実は孤立していた」という哀愁を、より強くしていた。しかも間違いなく、子作りを急き立てることで彼女の早世の原因を作った兄は、道長にその責任をなすりつける始末・・・もう死んでからも、定子が気の毒で仕方がない。

定子はこれで退場するが、彼女の死と遺児たちは、天皇のみならず、今後の道長&彰子にも、少なからず影響を与えていくことになる。そして次回の予告を見る限り、どうやら清少納言は『枕草子』を、なんらかの形で道長の対抗手段に使うことを許すことになりそうだ。

推しへの愛が他人の憎しみに転化したときのパワーは凄まじいものがあるので、来週以降の彼女の動きも注目だ・・・という以前に、この定子の実像が暴かれてしまったことに、あの世で今ごろ「あー、せっかく私がキラキラ女子に仕立てたのに!!!」と、地団駄を踏んでいるかもしれない。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。7月28日放送の第29回「母として」では、娘の成長や父・藤原為時(岸谷五朗)の帰京などでまひろの環境が変化するところや、彰子に思わぬ役割が与えられるところが描かれる。

文/吉永美和子

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