兵庫の場末映画館が「聖地」になった理由、仕掛け人に訊いた

2024.8.17 20:00

7月6日に「塚口サンサン劇場」でおこなわれた『RRR』のマサラ上映の様子。真ん中で手を叩いているのが戸村さん

(写真9枚)

■ 周辺のお店も能動的に…「町に映画館がある」ことの意義

──さらに劇場だけでなく「地元も一緒に盛り上がる」というのも、著書に出てきた一つのキーワードでした。なかでもマサラ上映に使うクラッカーが、塚口周辺だけ異様に売上が高いということで、クラッカーの会社が動いたという話がおもしろかったです。

日本のクラッカーの9割のシェアを持っている「カネコ」さんの営業が、「阪神間だけで急にクラッカーが売れだした」って、うちを訪れました(笑)。本当にどこでなにがつながるかって、わかりませんよね。

逆にそれをネタにしたら、周辺の100均ショップがなにも言わなくても、クラッカーとか、紙吹雪を入れるための洗濯ネットとかをそろえてくれるようになりました。多分ちゃんと、見てるんでしょうね。

──「近々、サンサン劇場でマサラ上映があるから、クラッカーを補充しとこう」と。周辺のお店まで、能動的になってしまった。

でもそれって、ちゃんと買う人がいるからですよ。「文化祭おもしろかったなあ。でも儲からなかったなあ」じゃ、次は絶対にない。映画館だけが盛り上がってもしょうがないんです。

1人でも近隣のお店に食べに行ってもらったり、買い物をしてもらいたい。我々映画館が地元を盛り上げる、本当に微力ながらも一助になれば、「町に映画館がある」ことの意義が出てくると思うんで。商売として双方がそれなりに成り立つ関係を持たさないといけないというのは、すごく気をつけています。

地元密着のミニシアターらしく、周辺のお店の情報も充実

──まさに「町の映画館」として「なくなったら困る」場所になったのではないでしょうか。

「こういったことをみんなで共有できる、楽しめる場所がなきゃ」と思ってくれる人が、一人でも増えてくれたら、僕らが10数年やってきたことが正しかったんだろうと思いますし、これからも残していきたいな、と。映画館という場所に、そういった付加価値をつけることができたという、一つの証かなと思ったりします。

■ 「もっと世の中に寄り添うようなことができたら」

──「もうちょっとこういうことがしたい」と思っていることはありますか?

やっぱりコロナの3年間を経て「もっともっと世の中と身近にならなければ」と、すごく思いました。今までは世間がビックリするような、いかに奇抜なことができるか? を考えていたんですけど、世の中の人にとって「やっぱり映画館って大事だよね」という場所にならなきゃいけない。

そのためには、もっともっと多くの人の声を聞いて、いろいろ察して、いろいろ感じて。シンプルに「あ、これ観たい」と思わせるような番組編成を組まなきゃいけないし、もっと世の中に寄り添うようなことができたらと思います。

──最後に「町の◯◯」として、人が集まるような施設にするために、これは絶対必要だと思うことはありますか?

「町の」と付く以上は、町との密接感が大事。そのためには・・・本にも書いたんですけど、「人を集めるためには、まず人を集める」という、ちょっと禅問答のようなことが(笑)。

やっぱり人って、人が集まる場所にしか集まらないんですよ。そのためにサンサン劇場では、週末に試写会を定期的にやって、お客さんに「あれ? 今日はサンサンめっちゃ人おるな」と植え付けさせて、そこからイベントを打っていくということをやりました。それはなかなか、効果的だったと思います。

「日本一きれい」という自慢のトイレも話題

──なにかきっかけを作れば、呼び水になるということですね。

ジャンル次第で、いろいろあると思います。でもすべてにおいて言えるのは、やる側も「楽しい」というフィルターを通さなくちゃいけないということです。イヤイヤじゃなくてね。

意義とか大義とか堅苦しいことは置いといて、単純に「おもしろそう」「楽しそう」という気持ちが真っ先に来たうえで、じゃあみんなでなにができるのか? と考える。「楽しい」という純粋な、シンプルな気持ち。これが一番大事かな、と思ったりしますね。

『まちの映画館 踊るマサラシネマ』は8月9日より電子書籍でも配信スタート。

今年も「塚口サンサン劇場」では、スクリーンで花火大会の映像を鑑賞できる『長岡大花火 打ち上げ、開始でございます』 が、8月16日から1週間限定で上映される。

「塚口サンサン劇場」

住所:兵庫県尼崎市南塚口町2-1-1-103

  • LINE
  • お気に入り

関連記事関連記事

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

関連記事関連記事

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本