子育てを間違えたから…? 幻のデビュー作焼失【光る君へ】

2024.8.9 21:00

原稿を失い、絶望するまひろ(吉高由里子)(C)NHK

(写真9枚)

平安時代の長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を、吉高由里子主演で描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。8月4日放送の第30回「つながる言の葉」では、のちに「和泉式部」と呼ばれることになるあかねとまひろの出会いが描かれる一方、まひろに降りかかった思わぬアクシデントに、視聴者が固まる場面もあった(以下、ネタバレあり)。

■ 執筆に没頭しすぎた結果…第30回のあらすじ

夫・藤原宣孝(佐々木蔵之介)の逝去から3年後。まひろは藤原公任(町田啓太)の妻・敏子(柳生みゆ)が開く、和歌を学ぶ会で指導をおこなうようになっていた。そこに妖艶な美女・あかね(和泉式部/泉里香)が『枕草子』を持ってくるが、皆はまひろが書く物語『カササギ語り』の方がおもしろいと言う。喜びを感じたまひろは、娘・賢子(福元愛悠)を父・為時(岸谷五朗)に任せきりで、執筆に没頭する。

執筆に没頭するまひろ(吉高由里子)と、寂しそうな賢子(福元愛悠)(C)NHK

しかし自分に学問を押し付け、ほとんど構ってくれない母に反発を感じた賢子は、まひろが目を離したすきに原稿に火をつけて、すべて燃やしてしまった。まひろに気を使った為時は、賢子を家から連れ出して執筆に打ち込めるようにするが、動揺したまひろの筆はすっかり止まってしまう。そこに突然現れたのは、百舌彦(本多力)だけを連れてお忍びでやってきた藤原道長(柄本佑)だった・・・。

まひろ(吉高由里子)に会いに来た道長(柄本佑)(C)NHK

■ キャスティングに拍手、泉里香演じるあかね

世界でも類を見ないほど、女流文学が大いに盛り上がった平安時代中期。そのワンツートップにいたのが、紫式部と清少納言というのは間違いないだろうが、それについで高い人気を誇っているのが、恋多き女・和泉式部だ。特に歌の才能はずば抜けていて、あの辛口の紫式部すら「素行は悪いけど歌はすごい」と認めている。赤裸々な感情(主に恋愛)をどストレートに歌った和歌は、現在の女性たちが読んでもグッと来るだろう。

泉里香演じるあかね(のちの和泉式部)(C)NHK

その和泉式部ことあかねを演じたのが、グラビアアイドルとしても活躍する泉里香とは、実に絶妙なキャスティングだった。大人の色気を感じる美貌とちょっとミステリアスな雰囲気に、「暑いんだからみんなも脱ぎましょうよ!」という天真爛漫さもあわせ持つ。さらには「好きな男に誤解されてるの~!」というのを、さほど親しくもないまひろにぶっちゃける無防備さもあり、これはもう見事に「魔性の女」要素を総動員したキャラクターである。

まひろ(吉高由里子)に悩みを打ち明けるあかね(泉里香)(C)NHK

SNSでも「でた! 平安ビッチだ!」「予想の3倍くらい紫式部日記でディスられそうなキャラクター」と、早くも想像通りというか、それ以上という評価を得た。ちょい堅物で融通の効かないまひろに、主に恋愛についていろんなサジェスチョンを与えてくれる存在となりそうだ。

ちなみに今回のあかね、シースルーの生絹(すずし)の下に袖のない襦袢のようなものを着ていたが、実はあれ、上半身裸のまま羽織るのが普通だったそうで・・・さすがに地上波では自主規制されたようだ。

■ 朝ドラ『虎に翼』ともなんだか重なる…子育ての難しさ

そして我らが主人公まひろだが、前回小説を書き始めた時は、すわ『源氏物語』か?! と視聴者が色めき立ったが、実際は『カササギ語り』という、このドラマオリジナルの物語だった。ただ「男と女が互いの性別を入れ替える」という話は、この少し後に成立したと言われる『とりかへばや物語』に通じる。後年のヒット小説を先取りした内容だったのに、バックアップを取っていない状態で消去されてしまったのが、つくづく(フィクションとはわかっていても)もったいない。

なかなかショッキングな映像だった… (C)NHK

そんな紫式部のデビュー作を、娘の賢子が燃やしてしまうというのは、なかなかショッキングな展開だった。自分が幼い頃、文字や漢詩をスルスルと覚えてしまったことから、娘も同じように育ててしまい、ストレスやプレッシャーを与えてしまうのは、ハイスペックな親だとやってしまいがちな失敗かもしれない。そういえば現在放送中の朝ドラ『虎に翼』の主人公・寅子(伊藤沙莉)も、似たようなことを娘にやってしまっていたので、こんなところで大河と朝ドラが重なるのがおもしろい。

原稿に火をつけた娘・賢子(福元愛悠)をしかるまひろ(吉高由里子)(C)NHK

ただ、自分が書いてきた作品が、ちょっとした過失で水泡に帰してしまうという、そのダメージたるや相当なもの。筆者も数時間かけて書いた原稿の保存をうっかり忘れて、やる気が一気に失せるという経験は幾度もしているが、まひろの場合、宣孝が亡くなった直後から3年間をかけてためてきた物語が全部消えたわけだから、この喪失感は共感をはるかに超えて、想像を絶するものがある。

まひろに叱られて泣く娘・賢子(福元愛悠)(C)NHK

■ 予告の「いずれの御時にか…」ついに来た!

ここで安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)からの「あなたを照らす光」という予言を受けて、道長がまひろに会いに来るのは、道長自身の救いになるだけでなく、まひろにとっても道長は、創作魂に再び火を付ける恩人となるのだろう。予告でまひろは「いずれの御時にか・・・」という『源氏物語』の書き出しをつぶやいたので、今度こそ時が来た! とドキドキするが、その一方で賢子と道長の初対面もあるようで・・・実は自分の娘だと気づいてしまうのか否か、こちらもドキドキが止まらなくなりそうだ。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。次週の8月11日は、パリ・オリンピックのため放送休止。8月18日放送の第31回「月の下で」では、まひろが道長からの願いと、周囲の才女たちからの影響を受けて、ついに新しい物語を記し始めるまでが描かれていく。

文/吉永美和子

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