「源氏物語」で1本化した、まひろと道長の道【光る君へ】

2024.8.23 07:00

月を見るまひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)(C)NHK

(写真7枚)

吉高由里子主演で女流長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。8月18日放送の第31回「月の下で」では、藤原道長が『源氏物語』誕生の、最大のキーマンになるという展開に。ここからまひろ&道長の関係も大きく変化する、その予兆を感じさせる回となった。

■ 覚悟の元で物語を差し出したまひろは…第31回あらすじ

藤原道長(柄本佑)は、安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)と藤原公任(町田啓太)の助言にしたがい、まひろに「『枕草子』を超える読み物」の執筆を依頼する。その頃の道長は、嫡妻・倫子(黒木華)とは、一条天皇(塩野瑛久)の中宮となった娘・彰子(見上愛)をめぐってすれ違い。もう一人の妻・明子(瀧内公美)の方も、息子たちの位についてあれこれ言われるのをうとましく思い、どちらの家にも帰らない日々が続いていた。

妻・明子(瀧内公美)と話す道長(柄本佑)(C)NHK

まひろは一度は物語を書き上げるが、道長から「天皇に献上するための物語」という真の目的を聞き、改めて別の物語を「これで駄目なら、この仕事はここまででございます」という覚悟の元で差し出した。その内容が、天皇の機嫌をそこねかねないことを危ぶむ道長だったが、そこで初めてまひろの娘・賢子(福元愛悠)と対面。自分との間にできた娘と知らずに膝に乗せる道長を見て、まひろは目を泳がせてしまうのだった・・・。

まひろの娘・賢子(福元愛悠)と対面する道長(柄本佑)(C)NHK

■ あかねやききょうとの出会いもプラスに

『源氏物語』は、作品自体は現代まで連綿と受け継がれてきたものの、それが執筆された時期や動機などは『紫式部日記』にも記されていないため、謎に包まれている。連載開始時期一つ取っても、越前滞在時~宮仕え開始後まで意見が分かれているし、そもそも第1帖の「桐壷」から書きはじめたのかどうか? すら明確ではないのだ。ただその分、脚本の大石静にとっては、フィクションの自由度が高くてむしろありがたかったのかもしれない。

そしてこの第31回で、ついに『源氏物語』が爆誕したわけだが、大石が提示した執筆の動機は、ズバリ「道長のプロデュース」という、(あくまでも筆者は)あまり聞いたことがなかった説だった。『源氏物語』が、越前和紙の提供などの道長のバックアップがあって、連載が継続できたというのは確かだが、まさか執筆自体を依頼して、アイデアまで提供することになるとは、まひろと道長がソウルメイトという設定の『光る君へ』ならではだろう。

「これぞ文学大河だ!」と話題になった演出 (C)NHK

さらに、あらゆる感情をどストレートに歌い上げるあかね(和泉式部/泉里香)と、美しいもの・好きなものだけに全集中したききょう(清少納言/ファーストサマーウイカ)という、好対照な表現者に直接出会えたことも、まひろにとってはプラスだったと言える。

母や友人の殺害から国際ロマンス詐欺まで、さまざまな人間の暗部に触れ、その不条理についてウジウジと考えてきた自分だからこそ描ける世界があることを、あかねとききょうというハイレベルの比較対象があったからこそ、気づくことができたはずだ。

■『源氏物語』の重大なコンセプトをまひろに与えた道長

光る君の父・桐壺帝については、数世代前の天皇がモデルという説が有力。そのため一条天皇がモデル・・・というより、一条天皇と皇后・定子(高畑充希)の影の部分(つまり、清少納言が書かなかったもの)を、そのまま物語に落とし込んだというのは意外な発想だった。

まひろの原稿をチェックする道長(柄本佑)(C)NHK

もしそれがビンゴだとすると、天皇が神聖視されていた当時、今上天皇のスキャンダルを物語にするだなんて、不敬に近いほど大胆な行為のはず。それはもう、道長くんならずとも「こんなのあり?」という心境になるってものだろう。

しかしまひろが、前代未聞の物語を生み出すことができたのは、天皇やその周囲の人間の人となりを間近で、しかも客観的な視点で観察し続けてきた、藤原道長という心強いアドバイザーがいたからではないか。

一条天皇についてまひろ(吉高由里子)に話す道長(柄本佑)(C)NHK

実際道長がまひろに語る天皇の姿は、あがめ奉る存在というより、かわいい甥の思い出を語る叔父に近いように思えた。道長は「紙」という物理的なサポートだけでなく、創作面でも「高貴な人たちも私たちと同じ人間で、彼らを通じて『人間』を描く」という『源氏物語』の重大なコンセプトを、まひろに与えるという役割を果たしたわけだ。

今までまひろと道長の関係は、道長が月を見ることでまひろの存在を意識していたことを打ち明けていたように、まひろが道長の政治的ポリシーに大きな影響を与え、精神的な支柱になってきたという印象だった。

しかしこの31回では、道長がさまざまな手を尽くしてまひろを「紫式部」にトランスフォームさせていくという、ある意味立場が逆転する感じに。今回は『源氏物語』誕生というイベントに加えて、まひろと道長の関係も大きな転機を迎えたという点でも、重要なターニングポイントだったと言える。

覚醒したまひろ(吉高由里子)はもう誰も止められない (C)NHK

これまではまひろサイドと道長サイドで、違う物語が平行線で進んでいる感じだった『光る君へ』だけど、『源氏物語』作者&プロデューサーという公の関係性ができたことで、2人の世界線はあざなえる縄のように、ほぼ1本化していくことになるだろう。

その新章突入が楽しみな反面、ことごとく道長と微妙な関係となった妻たちに、まひろのことがバレたときにどうなるか・・・次週予告では、すでに倫子が疑惑の目を向けるようなので、勝手にヒヤヒヤしながら一週間を過ごすことになりそうだ。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。8月25日放送の第32回「誰がために書く」では、まひろの書いた物語に一条天皇が興味を示し、まひろが彰子の女房として、宮廷に出仕することになるまでを描く。

文/吉永美和子

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