宇宙に還った安倍晴明、道長に遺した警告とは?【光る君へ】

2024.8.29 18:30

道長に「光が強ければ闇も濃くなります」という警告を伝える晴明(ユースケ・サンタマリア)(C)NHK

(写真6枚)

吉高由里子主演で『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。8月25日放送の第32回「誰がために書く」では、藤原道長を支えていた陰陽師・安倍晴明が逝去。その異色のキャラクターと、彼が道長に最後に送った言葉について考察する(以下、ネタバレあり)。

■ 伊周を内裏に戻したことで…第32回あらすじ

一条天皇(塩野瑛久)は藤原道長(柄本佑)を牽制するために、皇后・藤原定子(高畑充希)の兄・伊周(三浦翔平)を、内裏に呼び戻すことを画策する。その対応に悩む道長の元に、陰陽師・安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)危篤の知らせが。晴明は見舞いに訪れた道長に、光を手に入れることができたことを告げると同時に「光が強ければ闇も濃くなります」という警告を伝え、予言通りその日の宵に世を去った。

晴明(ユースケ・サンタマリア)の見舞いに訪れた道長(柄本佑)(C)NHK

天皇の望み通り、藤原伊周は陣定に参加できるようになった。しかしそれからほどなくして、内裏に出火騒ぎが起こり、三種の神器の一つ「八咫鏡」が焼失。東宮・居貞親王(木村達成)は、出火は伊周を内裏に戻した祟りであり「天が帝に玉座を降りろと言うておる」と道長に訴える。その一方伊周は一条天皇に、出火は自分に不満を持つ者の放火と断じ「信ずるに足る者は、私だけにございます」と言い聞かせるのだった。

■ これまでのイメージとは少し違った『光る君へ』の晴明

天皇の一声で『源氏物語』連載が確約される、それにともなってまひろが女房として内裏に出仕する、藤原伊周が政の表舞台に戻って来る・・・と、いろいろなターニングポイントが多かった第32回。そのなかでも特に大きかった変化が、この物語のトリックスターとなっていた、陰陽師・安倍晴明の逝去だろう。道長にとっては、牛車ではなく早馬で駆けつけるほど、いつの間にか大事な人物となっていた。

早馬で駆けつける道長(柄本佑)(C)NHK

以前のコラムにも書いたが、安倍晴明(せいめい)は人知を超えた能力を使って、都を脅かす魑魅魍魎を退治するヒーローというイメージが強かった。しかし実際は、星の動きを読んで天変地異などを予測したり、暦や時刻を管理するなど、いわば一国家公務員のような存在だったそう。

『光る君へ』の晴明(はるあきら)は、多少は呪術的なことも請け負うけれど、基本的に「偉い人の使い走り」であり、さらに損得勘定や政治的謀略にも長けているという、かなり人間的な面が強調されるキャラクターとなった。

■ ユースケ・サンタマリアが意識した晴明像とは?

この放送前日の『土スタ』に登場したユースケ・サンタマリアは、実際に人間臭さを意識した役作りをしたと語った(31日・昼2時50分までNHKプラスで視聴可能)。当初の大石静の脚本では、ややエキセントリックな人物として描かれていたが、「そういう自分が思い浮かばない」という役者としての直感で、胡散臭さと計り知れなさ、俗っぽさと神聖さを同居させた、これまでにない安倍晴明像を作り上げることに成功。

その甲斐あってSNSでも「面白いキャラクターになってたな、ユースケ安倍晴明」「最高の安倍晴明でした」などの声が上がっていた。

降り注ぐような星の幻影を見て世を去った晴明(ユースケ・サンタマリア)(C)NHK

生涯星を見つづけてきた人らしく、降り注ぐような星の幻影を見て世を去った晴明だが、道長の今後の人生の安泰を約束しつつも「光が強ければ闇も濃くなる」という、かなり意味深な言葉も遺していった。この「光」というのは、天皇の外祖父となり、まさに位人臣を極める道長の未来であり、その出世をまひろが『源氏物語』で後押しするということだろう。では「闇」とはなんのことだろう?

■ 晴明が道長に遺した「闇」、候補は伊周と…?

すごく短絡的に考えると、藤原伊周と居貞親王(のちの三条天皇)が有力候補。久々に表舞台に返り咲いた伊周は、裳着の儀のときに周りの人を押しのけるのをなんとも思わなかったり、天皇に「信頼できるのは自分だけ」といけしゃあしゃあと言い放ったりと、あの不遇の時期になにも学ばなかったのか? という相変わらずの傲慢さ。道長の独裁を危ぶむ天皇の思惑もあって、しばらく道長を悩ませる存在になるのは確かだ。

周りの人を押しのける藤原伊周(三浦翔平)(C)NHK

そしてもう一人、闇を背負っていそうなのが居貞親王。もともと玉座への野心があからさまな人だったが、内裏の出火にかこつけて、一条天皇を引きずり下ろしにかかっていて、その爛々とした眼つきがなかなかヤバかった(木村達成の演技力よ!)。ちなみに「内裏で火事なんて不吉だから退位した方がいいよ」という言葉、のちのち大きなブーメランとなる予感がするので、よかったら心に留めておいてもらいたい。

「天が帝に玉座を降りろと言うておる」と道長に訴える居貞親王(木村達成)(C)NHK

さらに来週の予告では「屋敷を焼き払いたてまつります」と恐喝する物騒な僧侶が出てきたり、将来的には外国から襲撃を食らう「刀伊の来寇」もあったりして、実は道長の治世は深刻なトラブルが少なくなかった。

そういった闇の出来事が起こるたびに、道長のなかでは晴明の言葉がよみがえるのだろうが、多分道長にとって一番ダメージを食らうのは、まひろと決別するような目に遭うことだと思うのだが・・・晴明さん、夢枕とかそういう手段でいいから、今後も頭を抱えることだらけの道長くんのメンターになっていただけないものだろうか。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。9月1日放送の第33回「式部誕生」では、「藤式部」の名前をもらって、道長の娘・彰子(見上愛)の後宮で働きはじめたまひろの戸惑いの日々と、伊周が不穏な動きを見せるところを描いていく。

文/吉永美和子

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