山田尚子監督「大切な感情が生まれる、作用を描きたかった」

2024.8.30 19:30

8月30日公開の映画『きみの色』の監督をつとめる山田尚子(大阪市内にて)

(写真8枚)

■ 山田監督が「嫌な感情」を描かない理由

──主要な登場人物3人がみんなやさしいというのもそうですが、実はこの映画には憎しみや裏切りといった人間の嫌な部分が出てきません。あるインタビューで、川村元気プロデューサーが、「山田監督が、今回は嫌な感情のない世界にすると言うのを聞いて驚いた」と述べていて、脚本家の吉田玲子さんも「山田監督は人間のダークな部分に踏み込まなくても映画は出来ると言っていた」と証言しています。この人間の嫌な部分に踏み込まないというのは、監督のポリシーなのでしょうか?

時間がもったいない気がするんです。悩みとか苦しみとか気まずい思いとか叱られたこととか、そういったことはみなさんすでに経験されているわけじゃないですか。だから、そういうものは描かなくても経験値で補填できるわけだし、わざわざ嫌な思いをフラッシュ・バックさせる必要もない。

それよりも、それをどう乗り越えたかを描く方が大事だと思うし、なにより、人が好きなものと出合ってなにか大切な感情が生まれた、その瞬間、「作用」ですよね。その動きの方がずっとロマンチックだと思っていて、私はそれが描きたいので、つらい、しんどいシーンに時間を割いている余裕はないんです。

映画『きみの色』のワンシーン ©2024「きみの色」製作委員会

■ 3人のほか、新垣結衣ややす子など多彩なキャスティング

──それが、監督の作品が愛されている理由の一つなのでしょうね。主役の3人の声は、オーディションで選ばれた鈴川紗由、高石あかり、木戸大聖さんがあてています。選ばれた理由は何だったのでしょう?

音の心地よさに尽きます。3人とも、持ってらっしゃる声のやさしさがそれぞれのキャラクターにぴったりで、うまくいったと思っています。

──少し脇のキャラクターに、新垣結衣さん、やす子さんが声の出演をなさってます。このキャスティングは監督の発案ですか?

いえ、これはもうプロデュース・サイドのおかげです。新垣さんに演じてもらった、トツ子が通うミッション・スクールのシスターは、一見おとなしいようだけれど、実は強い意志で自分のやりたいことをやってきた人で、新垣さんにはまっていましたし、トツ子の同級生を演じてもらったやす子さんは、音響スタッフが以前から声優として魅力があると言っていたので、実際に出演していただいて、なるほどなあと思いました。

トツ子が通う学校のシスター日吉子(新垣結衣)©2024「きみの色」製作委員会

──この作品が山田監督の原点帰りじゃないかという声があることについては始めにうかがいましたが、脚本の吉田さんや音楽監督の牛尾憲輔さんは山田監督の新しいスタートではないか、という考えを持っておられるようですが。

私からすると、「あ、そう思ってたんですかあ」っていう感じです。吉田さんはこれまでも、山田をなんとか外の世界に押し出したいというか、作品でご一緒する度に「山田さんが飛び立つ作品だと思います」みたいな言い方をしてくださるんです。ありがたいですけど、私自身は毎回無我夢中でやってるだけなので、よくわからないです。

──最後に、観てくださる人に一言あればお願いします。

リラックスして観てください、ですね。この作品からなにを感じられるかは、皆さんの人生だったり感性だったりによって返ってくるものだと思うので、ともかくリラックスして楽しんでいただければ一番だと思っています。

映画『きみの色』

2024年8月30日(金)公開
監督:山田尚子
出演:鈴川紗由、髙石あかり、木戸大聖/やす子、悠木碧、寿美菜子/戸田恵子/新垣結衣
配給:東宝
©2024「きみの色」製作委員会

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