成長しない主人公?制作統括に訊いた、アラフォー寅子の変化

2024.8.30 12:00

『虎に翼』第82回より、ある暴行事件を担当することになった寅子(伊藤沙莉)(C)NHK

(写真4枚)

連続テレビ小説『虎に翼」(NHK総合ほか)第22週「女房に惚れてお家繁盛?」が放送され、寅子(伊藤沙莉)と優未(毎田暖乃)が航一(岡田将生)の実家である星家との同居が始まった。

寅子が女学生時代の17歳のときから物語が始まった本作で、現在寅子は42歳。寅子の変化について、制作統括の尾崎裕和さんに訊いた。

■ 寅子は「達観しない」「丸くならない」

脚本家の吉田恵里香さんとともに、中年以降の寅子の人物造形についてどのようなことを心がけたのか聞くと、尾崎さんはこう語る。

「寅子は年齢を重ねても、達観しない。『寅子が寅子であるところ』は持ったままにしたいという話を、吉田さんとしました。年齢的に大人になっても、寅子らしい年の重ね方をさせたかったと言いますか。もちろん、いろんなことに対する視野は広がっているのだけれど、だからといって丸くなっていくとか、物分かりが良くなったりということにはさせたくない。そんなことを、中年以降の寅子のキャラクター作りにおいては意識しました」。

『虎に翼』第77回より、杉田(高橋克実)と睨み合う寅子(伊藤沙莉) (C)NHK

ドラマでは、寅子が裁判官になった後も「完璧な人間ではない」「不完全で矛盾を抱えたひとりの人間である」ということが、繰りかえし描かれている。

この意図について聞くと、尾崎さんは「『新潟編』では寅子が判事になって、例えば刑事事件では『被告人は罪を犯したのか、犯していないのか』を『判断する』立場になりました。そんななかで、いくら裁判官であっても完璧に人を裁くということはできないのだ、というところをしっかり描きたいと思いました」とコメント。

そして「ドラマにも登場しましたが、裁判官が3人いて、その三者が話し合って合議するというシステムがある。一人の判断では決めきれない部分があるということなんだと思います。裁判官の中にも『揺れ』がある。寅子も揺れながら、迷いながら、どうやって答えを出したらいいのかを探っていったということなのかな、と思います」。

娘の優未(右、竹澤咲子)と向き合う寅子(伊藤沙莉)(C)NHK

■「新潟編」で寅子は生まれ変わったのか?

「新潟編」に入る前、第15週の終わりで、優未を新潟に連れていくか否かの問題について、佐田家・猪爪家で「家族会議」を開いて、寅子は家族から盛大な「ダメ出し」を食らう。そして寅子は「生まれ変わるから、いっしょに新潟に来てください」と優未に頭を下げた。はたして寅子は新潟で「生まれ変わ」ったのだろうか。

「寅子が一家の中で働き手として重きをなしていくなかで生じてしまう『ズレ』を描きたいということを、初期の脚本打ち合わせで大きな話の流れを作っている段階から、吉田さんがおっしゃっていました。キャリアを重ねていくなかで寅子はある種、『名誉男性化』していく。なぜか『悪いおじさん』みたいな感じになってしまう寅子をしっかり描いたうえで、そこからの変化を描きたいという、当初の意図に沿って描いたかたちです」と語った。

優未(竹澤咲子)を見つめる寅子(伊藤沙莉)(C)NHK

さらに、こう続ける。「寅子は優未に『生まれ変わるから』と言いましたが、すべての人が納得するような寅子になることが、正しく『生まれ変わる』ということでもないんじゃないかな、と思っています。目覚ましい成長や変化ではないけれど、寅子と優未の親子の関係のなかで、少しずつ移り変わりが紡がれている。これが、寅子にとっての『良い変化』なのではないかと」。

物語は終盤。寅子の家族や友人との日常が引き続き描かれ、長きにわたる原爆裁判がついに判決の時を迎える。今後の寅子の変化にも注目したい。

取材・文/佐野華英

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