「紫の上」はまひろ?『源氏物語』の思わぬ裏話【光る君へ】

2024.9.12 18:30

雀を見つめるまひろ(吉高由里子)(C)NHK

(写真7枚)

平安時代の長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を、吉高由里子主演で描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。9月8日放送の第34回「目覚め」では、まひろの書いた『源氏物語』が貴族の間で浸透。これを読んだ道長の娘・彰子のリアクションや、光る君にもっとも愛された「紫の上」の意外な誕生秘話が描かれていった。

■ 天皇に「なぜ書いたのか」と聞かれ…第34回のあらすじ

まひろが一条天皇(塩野瑛久)のために書いた物語は、天皇に大いに気に入られたものの、天皇と中宮・彰子(見上愛)との仲は一向に近づく気配がなかった。さらにまひろの房を訪ねてきた彰子には、この物語のおもしろさがわからないと言われ、天皇がどこに惹かれているのかを問われてしまう。しかし天皇の希望で作られたまひろの物語の写本は、たちまち貴族たちの間に広まって評判となった。

まひろの房を訪れた一条天皇(塩野瑛久)(C)NHK

まひろの房を訪れた天皇に「なぜこの物語を書いたのか」を問われたまひろは、彰子の父・藤原道長(柄本佑)から、天皇のことをあれこれ聞いて書きはじめたことを打ち明けた。それを聞いた天皇は「そなたの物語は、朕にまっすぐ語りかけてくる」と、この物語に惹かれた理由を語り、続きを知りたがる。そしてまひろは「あの人(道長)と一緒に生きたら、どんな人生だったろう」と想像し、『若紫』の帖を記しはじめた・・・。

■ 中宮・彰子様が「ダメ出し」した理由は?

まひろの書いた『源氏物語(仮←当時はタイトルがないので)』が、貴族たちの間でベストセラーになるところが、女房に扮した声優・西村ちなみ(代表作:おじゃる丸)の朗読まで付けて描かれた34回。最初のファンである帝も、作者直撃取材&ネタバレ催促をするほどにどハマリし、これは順風満帆・・・と思われたけど、思わぬところでダメ出しが入った。いわば直接の上司といえる彰子様だ。しかし彼女が「この物語も、光る君の行動も全然理解できない」というのは、読解力が低いのではなく、彼女がまだ精神的には子どもというのが大きいだろう。

まひろが書いた物語について尋ねる彰子(見上愛)(C)NHK

雅な雰囲気と、光る君の美貌と才知でつい目をくらまされてしまうけど、『源氏物語』の・・・特に冒頭は「雨夜の品定め」で世の中にいろんな女性がいることを知った光る君が、気になった女性と手当たり次第関係していく姿がひたすら描かれる。

しかも葵の上という嫡妻がいるにも関わらず、だ。ただこれは、当時の恋愛事情を飲み込んでいる大人であれば、多かれ少なかれ共感したり、あるいは経験していること。だからこそまひろが「どなたのお顔を思い浮かべられても、それはお読みになる方次第」と言い切るのだ。

しかし箱入り娘のまま13歳で入内し、家族以外の男性を知らないも同然の彰子から見たら、光る君の行動原理がまったく理解不能というのは察しが付く。特に今回貴族たちが読んでいた『空蝉』の帖は、光る君が人妻に執拗に迫ったうえに、彼女が寝所から消えてしまったら、その場にいた適当な女性と・・・という、現代人の観点では「なんでやねん!」ともれなくツッコミが入ると思われるほど、光る君のおイタが過ぎる話なのだから。

「殿御は皆かわいいものでございます」と彰子(見上愛)に話すまひろ(吉高由里子)(C)NHK

■ 源俊賢の「父を思い出した」エピソード、実は…

ただこの物語によって、彰子は男性・・・ないしは人間という存在について、おそらく生まれて初めて疑問を感じることになっただろう。そのタイミングで、父・道長が明るく笑う姿を初めて見る&まひろの「殿御は皆かわいいものでございます」発言を聞いたことで、ずっと硬い蕾のように大人に心を閉ざしていた彰子が、ここから少しずつ花開いていくようになるのも納得がいく。とりわけ、多分好意を持っているはずだけど、畏れ多さもあってなにも言えなかった天皇への接し方も、ここから変化していくのだろう。

「父を思い出した」とまひろに話す道長の義兄・源俊賢(本田大輔)(C)NHK

ちなみに、彰子の心を動かすことになった、中年男性たちの「雨夜の品定め」(昼だけど)の会話のとき、道長の義兄・源俊賢(本田大輔)が、光る君について「父を思い出した」とまひろに話していた。実際俊賢の父・高明は、光る君のモデルと言われている人物の一人。その逸話をこういう形でさり気なく出して来るのが、にくい脚本だ。

■ まひろの経験は反映される? 次週も盛りだくさんな予感

そしてまひろは、第1話の道長と自分の出会いが描かれた檜扇を見て、「もし道長の妾となっていたら、どんな人生だったのか」を想像。そこから「紫の上」が初登場し、藤壺と光る君が不義の子を成すという怒涛の帖『若紫』が誕生することになる。第1話の2人の出会いを、視聴者は「『若紫』のようだ」と盛り上がっていたが、まさか紫の上がまひろの「もしも・・・」の姿そのものだったとは、そこまでは考えていなかった。

物語を書くまひろ(吉高由里子)(C)NHK

そう考えると、光る君に心から愛されるけど、一方で彼がほかの女の元にも通って子をなすことに戸惑い、身分的に正妻にはなれないことに打ちのめされるという紫の上の姿は、確かにまひろが道長の妾になっていたら、そういう苦労を背負っていたであろうことが想像できる。

となると同じ帖のなかにある、藤壺の不義の子の懐妊も、まひろの経験が反映されるということだろうか? 次週は彰子が天皇に大胆な告白をするようなので、どうしてもそっちの方に気持ちが持っていかれてしまうだろうが、これを読んだときの編集者・道長の反応も、まぎれもなく注目だろう。

なお、NHKのドキュメンタリー番組『100カメ』では、9月12日放送回で『光る君へ』の現場を取り上げる。俳優たちの素顔に触れるだけでなく、今回登場した「曲水の宴」の設営の様子もじっくり見せてくれるようなので、是非チェックしておきたい。時間は夜7時30分~8時15分。

9月12日放送の『100カメ』、「曲水の宴」の設営の様子(C)NHK

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。9月15日放送の第35回「中宮の涙」では、金峯神社まで御岳詣(みたけもうで)に参った道長に危機が訪れるところと、まひろの書いた物語によって、天皇と彰子の関係が大きく変わっていく様が描かれる。

文/吉永美和子

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