平安時代としては異例…彰子、魂の告白の背景【光る君へ】

6時間前

まひろ(吉高由里子)の話を聞く彰子(見上愛)(C)NHK

(写真7枚)

吉高由里子主演で『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。9月15日放送の第35回「中宮の涙」では、まひろの書いた『源氏物語』と、まひろがかけた言葉によって、彰子と一条天皇の関係が大きく動くことに。平安時代としては異例の告白に至った、その背景について考えてみた。

■ 彰子の好意を知った天皇は…第35回あらすじ

まひろの書いた新しい物語は、光る君が幼い少女・若紫をなかば誘拐したり、帝の后と不義密通を犯したりなどの衝撃的な展開で、女房たちの間では賛否が分かれた。しかし中宮・藤原彰子(見上愛)は、若紫を自分の身の上と重ねたとまひろに明かし、若紫がこのあと、光る君の妻になってほしいと懇願。その言葉でまひろは、彰子が心から一条天皇(塩野瑛久)を慕っていることに気づく。

夜の藤壺を訪れ、彰子(見上愛)を抱きしめる一条天皇(塩野瑛久)(C)NHK

まひろは、その思いを天皇に伝えるよう彰子を説得。彰子はたまたま藤壺を訪れた天皇に「お上、お慕いしております!」と涙ながらに告白した。はじめて彰子の好意を知った天皇は、入内から7年が経ってようやく夜の藤壺を訪れ、2人は結ばれる。彰子の父・道長(柄本佑)とまひろは、月を眺めながら安堵し合うのだったが、その親しげな様子を1人の女房が目撃していた・・・。

■ 『源氏物語』の賛否ある巻、女房たちの反応にホッ

『源氏物語』は順調に巻を重ね、一条天皇の会話から「夕顔」まで到達していることが判明。「なんで夕顔は死ななければならなかったのか?」という天皇の質問には、SNSでも「そう、それは私も聞きたい!」という声が結構上がっていた。確かに当時の物語の世界では、主人公の相手役という重要なキャラが理不尽に死んでいくという展開は、かなりショッキングだったはずで、この天皇の反応だけでも、まひろが書いたものが非常に特殊だったことがうかがえる。

まひろ(吉高由里子)に質問する一条天皇(塩野瑛久)(C)NHK

さらにそこにセンセーショナルな話題をぶち込んだのが「若紫」だ。光る君が10歳にも満たない幼子を、父親に無断で連れて帰るとか(愛情の薄い父の元に行っても幸せになる確率は低い、という理由があるにしても)、天皇の后に手を出して懐妊させてしまうとか、たとえ顔が良くても許しがたい行為のオンパレード。現代でも頭を抱える人が多い巻だけど、平安時代の女房たちもおおむねそんな反応だったことに、なんだかホッとした。

しかしそんな読者のリアクションをリアルに見せられて、直接質問攻めにあうというのは、作家にとってはなかなかの針のムシロ。基本引っ込み思案のまひろの性格であれば、そういうのは耐えられないのでは・・・と思いきや、その表情を見る限りは、さほど落ち込んでいる感じではなかった。確かにどんなジャンルでも、革新的な作品ほど激しい賛否両論が出るのは世の常なので、この女房たちの感想は、むしろまひろには想定内のことだったのかもしれない。

『源氏物語』について話す女房たち (C)NHK

■ 歌で気持ちを伝えるのが常套だった時代の、彰子の告白

しかしこの物語で若紫に自分を重ねた彰子が、それによって天皇への思慕をまひろに見透かされ、自分の殻を破って「お慕いしています!」という火の玉ストレートな告白をするとことになるとは・・・これは道長にとってもまひろにとっても『源氏物語』の思わぬ副産物だったのではないだろうか。この彰子の涙、涙の告白には、SNSで「投球モーションなしで超豪速球を投げこんだようなもの」「あんまりまっすぐでこちらがもらい泣きしそう」など、大絶賛の言葉がノンストップ状態となっていた。

「お上、お慕いしております!」と涙ながらに告白する彰子(見上愛)(C)NHK

ただこの時代、物語前半のまひろと道長のように、気になる男女は歌で気持ちを伝え合うのが常套だった。すでに形の上では夫婦になっている者同士なので、その辺の感覚は結婚前の男女とは違うのかもしれないけど、直接思いを伝えるというのは、今よりももっともっと大胆というか、失礼に近いギリギリの行為だったはず。ただインテリの人間ほど、自分の常識外の所から攻められたらあっさり崩れるものなので、一条天皇もそっちのタイプだったのかも・・・。

彰子の告白に驚く一条天皇(塩野瑛久)(C)NHK

■ まひろはやはり「光」だった…MVPは安倍晴明では

とはいえやっぱりファインプレーだったのは、彰子が心のなかではいろんなことを考えている少女だと看破したうえで、「中宮様らしい中宮様とはどのようなお方ですか?=自分で自分の限界を決めつけてんじゃねえよ!」という最高のアドバイスを送ったまひろだろう。もし道長がまひろに、物語の執筆と後宮への出仕を勧めなかったら、『源氏物語』は生まれなかっただけでなく、彰子も本当の自分を表現できないまま、藤壺で幸薄い人生を送ることになっていたかもしれない。

月を見上げるまひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)(C)NHK

そう考えると、道長に「今あなたの心のなかに浮かんでいる人こそが、あなたを照らす光」と予言した故・安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)、結局今回の本当のMVPは彼だったかもしれない。しかしそうなると、もう一つ晴明が送った「光が強ければ闇も深くなる」という警告も、現実になるかもしれないということで・・・まずは今回のラストで、まひろと道長に不穏な視線を送っていた女房が、その導火線にならないことを願っておきたい。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。9月22日放送の第36回「待ち望まれた日」では、中宮・彰子が一条天皇の子を宿したことで、まひろが道長から一つの使命を受けることと、清少納言(ファーストサマーウイカ)が道長の政敵・藤原伊周(三浦翔平)にある訴えを持ちかけるところが描かれる。

文/吉永美和子

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