公任と顕光には痛恨?『紫式部日記』の完全再現【光る君へ】

2024.9.27 18:30

第36回より。まひろ(吉高由里子)に問う公任(町田啓太)(C)NHK

(写真6枚)

吉高由里子主演で『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。9月22日放送の第36回「待ち望まれた日」では、まひろが「紫式部」と呼ばれることになる重要なエピソードが描かれるとともに、ききょう(清少納言)との因縁の対決のはじまりを予感させる動きがあった。

■ 定子の産んだ内親王が早逝し…第36回あらすじ

藤原道長(柄本佑)の娘・彰子(見上愛)が、一条天皇(塩野瑛久)の子を懐妊。東宮の居貞親王(木村達成)や、道長の政敵・藤原伊周(三浦翔平)は、自分の子や甥の地位が危うくなるという焦燥感に駆られる。そんななか、天皇の皇后だった伊周の妹・定子(高畑充希)の産んだ内親王が早逝。定子の忠実な女房だったききょう(清少納言/ファーストサマーウイカ)が、伊周のもとに見舞いに訪れる。

藤式部(まひろ/吉高由里子)の物語について清少納言(ファーストサマーウイカ)に話す伊周(三浦翔平)(C)NHK

そこで伊周から、天皇が今は『枕草子』ではなく、まひろが書いた物語に夢中になっていると聞いたききょうは衝撃を受け、その物語を読みたいと申し出る。そして彰子の出産当日、伊周は彰子に呪詛を行うものの、彰子は無事に皇子を産んだ。一方、道長のもう一人の妻・源明子(瀧内公美)は「子ども同士を争わせない」という道長の思いを無視して、自分の娘も彰子のように入内させることを、兄・源俊賢(本田大輔)に宣言するのだった・・・。

■ 平安マニア狂喜、『紫式部日記』の再現あれこれ

紫式部が『源氏物語』と並行して記した『紫式部日記』は、この時代の様子を伝える重要な資料の一つ。執筆の動機としては『源氏物語』と同じように、道長からの依頼という説が実際に唱えられている。すぐれた小説家が紀行文やルポルタージュを書くという例は多いけど、この『紫式部日記』の出産&五十日の儀の様子も、お固い公式の漢文ではなく、状況や心情を生き生きと描写できるかな文字の特長を生かした記録となっている。

第36回より。出産の記録を取るよう道長から依頼されたまひろ(吉高由里子)(C)NHK

そしてこの36回では、『紫式部日記』に記された出来事のあれこれが忠実に再現されて、特に平安マニアを狂喜させることに。阿鼻叫喚の出産の現場や(実際は、あの場に立ち会う人々は残らず白装束だったそうだけど)、五十日の儀の席での公卿たちの醜態・・・藤原顕光(宮川一朗太)が女房たちに迫って調度品を壊したり、藤原実資(秋山竜次)が十二単の着物の枚数を数えていたのも、きちんと記載されている。

女房たちに迫る藤原顕光(宮川一朗太)(C)NHK

そのなかでももっとも有名なのが、藤原公任(町田啓太)が「若紫はいますか~?」と、紫式部の元に押しかけ、式部が「光る君がいない世界に、若紫がいるわけないし!」と突っぱねたというエピソード。

これは直接公任に伝えたというわけではないようだが、『光る君へ』では、かつて公任たちが影で自分の悪口を言っていたことへのリベンジと言わんばかりに、きっぱりと眼の前で言い切ったのが、まひろと帯同してきた視聴者としては、胸のすくような思いだった。

しかし顕光にせよ、公任にせよ、まさかたった1晩の無礼講での醜態を、1000年以上に渡って語り継がれることになるとは、まさに「殺してくれー!(もう死んでるけど)」という心境だろう。

十二単の着物の枚数を数える藤原実資(秋山竜次)(C)NHK

ちなみに実資が着物の数を数えていたのは、別にそういうセクハラというわけではなく、贅沢禁止令を守ってるかどうかのチェックだった。酒席ですら風紀委員キャラを押し通す実資を、式部は案外好意的に見ていたようだ。そして実資の日記『小右記』では、この時期から式部と思われる女房がしばしば登場しているので、今後2人の絡みが見られるかも?

■ そうきたか・・・! 紫式部の「清少納言」批評への兆し

そして『紫式部日記』といえばもう一つ有名なのが、同時代の女流歌人・作家たちを、キレッキレの物言いで批評した部分。なかでも清少納言は「めっちゃ偉そう」「知ったかぶり」「こんな人は将来ろくなことにならない」と、まったく良いところなしでおとしめまくっている。

しかし『光る君へ』の紫式部(まひろ)と清少納言(ききょう)の場合、2人は友情のような絆で結ばれていたし、『枕草子』誕生のきっかけを与えたのは紫式部という、大胆な設定まで付いてきた。

この友好関係が、どうしたら崩れるのか・・・? と思ったら、ついにその兆しが今回で見えてきた。一条天皇が、定子の光り輝く姿をとどめた『枕草子』ではなく、彰子の女房が書いた新しい物語に夢中になっており、その正体がよりによってまひろだと知ったことだ。この事実を伊周から聞いたときの、ファーストサマーウイカの驚きと怒りが混じったようななんとも言えない表情が、非常に素晴らしかった。

藤式部(まひろ/吉高由里子)の物語について伊周から聞く清少納言(ファーストサマーウイカ)(C)NHK

友だちだと思っていたまひろが、憎き藤原道長の娘に仕えている。これだけでも敵認定されるには十分だけど、自分が書いた文章より、まひろの書いた小説の方に天皇が夢中になっているというのも、作家としてのプライドを崩される事実だろう。しかも天皇が『枕草子』から遠ざかると、定子との思い出が上書きされて忘れられるという恐れもある。この二重三重の屈辱から、ききょうがまひろに対して攻撃的になってもおかしくはない。

清少納言が紫式部のことをどう思っていたのかは、それについて記されたものはないので、現代の私たちは想像の翼を広げるしかない。そうして翼を広げた脚本の大石静は、ききょう=清少納言に『源氏物語』をどう評価させるのか? そしてまひろは反撃として、日記に悪口を書いたのか? それは単なる報復なのか、あるいはなにか政治的な思惑が絡むのか・・・この2人の才女をめぐるミステリーの行方は、まぎれもなく今後の大きな見どころとなるだろう。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。9月29日放送の第37回「波紋」では、彰子がまひろの記した物語で豪華本を作ろうとする様子と、彰子が一条天皇の皇子を産んだことで、王位継承問題に波乱が起きるところが描かれる。

文/吉永美和子

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