光る君へ制作統括・内田氏、視聴者の反応「予想を超えた喜び」
■ 紫式部の人物像はわからないからこそ、重層的に描ける
──ここにきて改めて「紫式部はこんな人だったのか」と発見したことはありますか?
『源氏物語』をちょいちょい読み直しているんですが、本当に現代にも通じる真理とか真実みたいなものが、物語の形で描かれていて。『源氏物語』のなかでも「物語には、そういう役割がある」って書いてあるんですよ。そういう視点を1000年前の女性が持っていたのが、すごいことだなあと思います。
──まさしく先駆者ですね。
紫式部(の人物像)はわからないことが多いんですが、わからないからこそ・・・たとえば政治のことに悩む道長がいたら、式部はこう言ったんじゃないか? 彰子にはこうふるまったんじゃないか? その反面一人になったときは、こう考えたんじゃないか? みたいに、非常に重層的な人格で描ける人なんです。清少納言も、ファーストサマーウイカさんがすごく魅力的にやってくださったんですけど、層の厚い人物という点では、紫式部が一番なのかなと思います。
──視聴者の反応で、印象に残ってることはありますか?
一条天皇(塩野瑛久)が「『源氏物語』の続きを書いてほしい」というようなことを言ってきたときに、視聴者の方が「連載決定―!」って(笑)。道長が『源氏物語』の執筆に、強い力を持っていたのではないか・・・というので「いわば作家と編集者だね」と私どもは言っていたのですが、視聴者の方々も同じように取っておられたのが、非常に印象に残っています。
──大量の紙を用意したり、物語の構想に一役買ったりと、道長の貢献は大きかったですよね。その「道長編集者説」から逆算して、まひろのソウルメイトという設定にしたのでしょうか?
ソウルメイトにした理由の一つとして、彼が紫式部を「紫式部」たりえたことに、大きな役割を持っていたというのは、確かにありましたね。それがなくてもソウルメイトにしたかもしれませんけども、今思うと、やっぱりドラマのからくりとしては大きなことだったと思います。道長がいたことで、貴族が「貴族」の枠組みの中で出世争いをするしかないという、あの時代のシビアなところもちゃんと出ているのではないかと。
──たしかに「平安時代は本当は平安じゃなかった」と、認識を改めさせられました。今後、期待して見てほしいところはありますか?
まひろと彰子との関係ですね。先生と生徒のような間柄だったのが、彰子が大人になるにしたがって、友情・・・というと、まひろの立場ではおそれ多いですけど、それに近い思いを抱いていけるのかな? と。彰子を励ましたり導くだけではなく、悩みを共有するというようなシーンも出てきます。
■『源氏物語』のすごさ「誰1人自分のことを幸せだと思っていない」
──清少納言と定子(高畑充希)の関係とは、また違うものですか?
『光る君へ』の清少納言は、本当に定子に心酔して、彼女のためだけに生きた人物として描きましたけど、まひろは生まれついての作家だから、相手に親しみは持っても、どこか客観視するような面を忘れないと思います。一つのことに、自分の全人生をかけられない。だからこそ生きる難しさや大変さ、ややこしさを抱えて生きているのが、まひろかなあと。
でも今を生きている人も、みんなそうじゃないかと思うんです。やはり『源氏物語』のすごいところって、登場人物がすごく裕福で愛されていても、誰一人自分のことを「幸せだ」とは、まったく思ってないことなんですね。
──「本当の幸せはここにはないんじゃないか」という、漠然とした不安ですよね。それは確かに、多くの人が多少なりとも感じていることだと思います。
なんか本当に、現在の自分たちをそこに見るようなところが一番すごいのかなと、私は思ったりするので。まひろ自身もそれを体現して、終盤はやっていくことになります。
今後の展開では、ちょうど武士の時代の萌芽が、かすかに出てきます。『光る君へ』は恋愛面が注目されていますけど、大石先生は当初から「時代のうねりもなるべく描きたい」とおっしゃっていて、まひろという作家が生きている間に、そのきざしを感じておきたいなと。その辺りが、終盤では描かれていくはずです。
──道長との関係だけでなく、まひろが時代の予兆をどうとらえるかも見どころということですね。最後に内田さんが、個人的に好きな登場人物はいらっしゃいますか?
実は私、(藤原)道綱が好きです。史実では、ちょっと能力が足りないみたいな書き方がされてるんですけど、上地(雄輔)さんが演じると、このなかで心から人のことを心配しているのは、道綱だけじゃないか? と思ったりします(笑)。上地さんご自身も、私が信頼を置いている俳優さんのお1人なんですよ。
道長だったり、(藤原)実資(秋山竜次)だったり、ご自身が相対するのはどういう方かなあ? というのを考えながらお芝居をされているので、すごく魅力を感じています。
【内田ゆき】
広島県出身。平成7年NHK入局。岡山局勤務を経て、平成11年に制作局ドラマ番組部に異動。以後一貫してドラマ制作に携わる。プロデューサーとしては、連続テレビ小説『カーネーション』『ごちそうさん』などを担当。制作統括としては、ドラマ10『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』、土曜時代ドラマ『アシガール』、連続テレビ小説『スカーレット』、土曜ドラマ『六畳間のピアノマン』『わげもん~長崎通訳異聞~』などを手掛ける。
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