藤原家の血は争えないか…道長の不穏な変化に騒然【光る君へ】
吉高由里子主演で『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。9月29日放送の第37回「波紋」では、無欲に思えた藤原道長が、思わぬ本音をまひろにバラしてしまうことに。今後の道長の予想される動きと、タイトル通り視聴者に「波紋」を呼んでいるライバル・藤原伊周の動向を追ってみた。
■ 後宮に盗人が押し入る事件が発生し…第37回あらすじ
藤原道長(柄本佑)の娘・彰子(見上愛)が、一条天皇(塩野瑛久)の皇子・敦成親王を産んだことで、次の東宮の行方がわからなくなった。第一皇子・敦康親王(渡邉櫂)の伯父・藤原伊周(三浦翔平)は、表面上は敦康の地位が揺らぐことはないと言いながら、道長の呪詛を繰り返す。その頃後宮に、盗人が押し入る事件が発生。まひろが真っ先に駆けつけ、衣を剥ぎ取られた女房たちを発見し、すぐに彰子を守る行動を取る。
それを聞いた道長はまひろに礼を述べるが、そのとき「敦成親王様は次の東宮となられるお方」と、口を滑らせてしまう。やがて伊周が、道長と同じ位に出世。天皇に「私は第一の皇子の後見。左大臣様(道長)は第二の皇子のご後見」と挨拶し、道長を牽制した。そしてまひろのもとには「清少納言」ことききょう(ファーストサマーウイカ)が訪れ、「光る君の物語を読みました」と伝えるのだった・・・。
■ 父と同じ道を…? ついに「悪道長」の影が
以前、藤原道長役の柄本佑にインタビューをしたとき、「周囲から『いつ道長は悪くなるの?』とたびたび聞かれる」と苦笑していた。たしかに根っこは純粋でのんびり屋で、政に向かう姿勢も、まひろの影響で「自分より他人のことが大事」というのがポリシーな柄本道長。これまでも、自己本位な悪行と言われてきた数々のおこないを「実はまったく狙ってなかった」「他人のアイディアだった」で神回避してきた道長くんだけど、この37回で、ついに言い逃れのできない「悪道長」の影が差しこんできた。
それはまひろだけの前とはいえ「敦成が次の東宮」と言ってしまったこと。天皇の第一皇子で、しかも皇后という最高位だった定子(高畑充希)から生まれた敦康が東宮になるのは、プロ野球にたとえたら「生まれたときから即位マジックが点灯している」ぐらいの既定路線。道長くんに本当に出世欲がなかったら、それを無理からひっくり返そうとするはずはないのだけど、自分が外祖父となる可能性が少しでも生じたせいか、「めざせ摂政」レースに参戦する気になったよう。
その理由までは語られなかったけど、いまだに「まひろ大好き」感情を抑えきれないピュアな道長くんだったら、単なる孫可愛さという動機もありそうな気がする。しかしもしかしたら、出世欲のモンスターだった父・兼家(段田安則)の「政とは家の存続」という言葉が、遅効性の毒のように効いてくるときが来たのか・・・あれほど父親のやり方を嫌悪していた道長が、父と同じ道を歩んでいることに気づいたとき、道長自身は、そしてまひろはどのように反応するのだろうか?
■ 伊周の突然の出世は、一条天皇の差し金なのか?
しかし道長が、敦成を東宮にする野望を抱いたのは、敦康のバックが心許ないというのも大きな理由だろう。彼の外祖父となる藤原道隆(井浦新)はすでに亡く、その後継の伊周も、つい先日亡くなった花山天皇(本郷奏多)に謀反を起こした罪で、出世レースから脱落している。だが今回伊周が、道長と同じ位についたことで、少しはその権威が復活した。ちなみにこの直前まで、伊周が自分の役職を「儀同三司」と自称していたのが、伊周の母・高階貴子(板谷由夏)が、「小倉百人一首」で「儀同三司母」名義となっている理由だ。
伊周の巻き返しともいえる出世は、道長にとってかなり痛手のはずだが、ドラマの中ではこの昇進は道長も納得のうえと、藤原道綱(上地雄輔)と藤原実資(秋山竜次)の会話を通じて明かされた。実資は「上に立つ者のゆとり」と言っていたが、これは道長の考えというよりも、一条天皇の差し金ではないかという気がする。天皇としては、やはり定子が遺した子どもを後継者にすることが、最大の供養兼愛の証になると考えているはず。そのためには、敦康の外戚を道長に負けないぐらいの地位に上げておく必要があるのだ。
そしてバランサー気質の道長であれば、ここで天皇の提案を突っぱねて、敦成を東宮候補にする狙いをむき出しにするのは、体裁が悪いと判断することだろう。この辺りにも道長くんの政のセンスの高さが垣間見えるが、まさか伊周の道長への呪詛が、道長を蹴落とすのではなく、自分が出世するという方向に働いたのではないか・・・という案も、いつまで経っても効かない伊周の呪詛に付き合ってきた、一部の視聴者からは上がっていた。
SNSも、呪詛のシーンで「伊周の呪詛、もう趣味ぐらいに解釈したらいい?」「呪詛に効果がないことがわかってきたので、お馴染みの呪詛シーンも爪楊枝を作っているようにしか見えない」「継続する能力については素晴らしいと思うよ、頑張って」「伊周が呪詛すると何か全然関係ないとこで事件が起こるのウケるな 。呪詛が方向音痴すぎる」「こういうのは専門職に頼んだ方がいい」と、今回も盛り上がっていたことを特筆しておきたい。
■ 次回、ききょうの「源氏物語」評にヒヤヒヤ…
そして前回に続いて、今回も清少納言がまひろの元に、どうやらケンカを売りに来たらしい・・・という「こんないい所で!」というシーンでジ・エンド。最初は久々の再会で顔を輝かせたまひろが、ききょうの冷たいオーラにシオシオになっていくのが、なんとも切なかった。
思えばききょうがまひろに敵意を向ける原因を作ったのが、伊周だったということを考えると、やっぱり呪詛の方向が違うところに向いているのかもしれない。とにもかくにも平安文学キャットファイトがどうなるか、冷や冷やしながら待とう。
◇
『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。10月6日放送の第38回「まぶしき闇」では、ききょうが『源氏物語』の感想をまひろに直接ぶつける姿と、藤原伊周がおこなっていた呪詛が表沙汰になるところが描かれる。
文/吉永美和子
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