パケ買い続出クッキー、京都の螺鈿職人「予定調和を壊す」挑戦

6時間前

「森永製菓」とコラボし、パッケージをデザインした京都の螺鈿職人・野村拓也さん

(写真8枚)

「いつものお菓子が高級仕様に」「フルコンプしてみた」「箱が素敵で開けるのもったいない」などとSNSで話題になり、パケ買いする人が続出している「森永製菓」のクッキー「ムーンライト」などのビスケットシリーズ。箱にデザインされた月や草花のキラキラ感が目を引き、これらを手がけた京都の若き螺鈿(らでん)職人・野村拓也さんに、伝統工芸✕洋菓子という意外なコラボの制作秘話を聞いた。

■ SNSでのモダンな螺鈿がきっかけに

10月初旬からの期間限定パッケージ。野村さんがX(旧ツイッター)で「嘘みたいな本当の話なんですが森永製菓さんのムーンライトシリーズのパッケージデザインをさせていただきました!」と投稿すると、8万以上のいいねがつく反響が。

野村さんは「いろんなスーパーで全種類探しました、栞にしたい、食べ終わった後も飾りたいなど、毎日うれしいお声ばかり届けていただいています。みなさんから愛されているお菓子だから反響も大きかったのでは」と、連日の購入者の声に喜びもひとしおだ。

野村さんは京都・嵯峨野に工房を構える1910年創業、「嵯峩螺鈿 野村」(京都市右京区)の職人で、スポーツメーカーでの勤務を経て家業に戻り、「若い世代にも伝統工芸の新たな可能性を分かりやすく伝えられたら」とSNSでの発信にも注力。モダンなデザインを取り入れたシルバーリングなどのアクセサリーが度々話題となっている。

「森永製菓」の人気ビスケットシリーズが、期間限定の螺鈿パッケージに(なくなり次第終了)

今回の企画は「森永製菓」の担当者がSNSで野村さんの螺鈿細工を知り、2年前から検討していたものの一度は流れ、再度打診があったそう。螺鈿は貝殻の内側にある真珠層を用いて、工芸品に図柄を可飾する技法。虹色、玉虫色と表現される角度によって表情を変える色合いが魅力で、今回は「月」など幻想的なモチーフの洋菓子シリーズとのコラボで、パッケージに「優美な世界」を施すことに。

■ 圧巻の12種で、実物の貝の輝きを再現

新作クッキー「ホワイトムーン」を含む12商品の多彩なデザインを担当し、「螺鈿風イラストではなく実際に作ってるんですか?」との驚きの声が多く寄せられたとか。「商品によってテーマがあったので、1からデザインしているものと、これまでの制作物から合うものも使ってもらい、2カ月ないくらいの納期で何とか完成しました」。

パッケージのための螺鈿細工の制作風景

箱の至る所にこだわりが見られ、例えば「チョコチップ」のメインビジュアル・薔薇は既に商品にあったものの、細やかさを出すために花弁を増やし、横からのアングルにして葉と茎も追加。背景の唐草はよく見ると2パターンあり、ツルの部分はパッケージに合うように、ハートっぽく可愛さを出すアレンジも。

「チョコチップクッキー」のメインビジュアルは薔薇。花弁を増やし、葉と茎もつけてそう

とはいえ、「貝の輝き方は肉眼で見るのが1番綺麗で、写真で同じ美しさを出すのはかなり難しい」との苦労があり、色サンプルとして、実際使っているカット前の大きな貝を先方へ送り、レタッチ担者者に色味を確認してもらって完成したという。

「素材は主に鮑貝を使っていますが、海亀の甲羅部分は他と印象が変わる夜光貝にしてみたり。ここまで実際に作った螺鈿をパッケージに落とし込んだお菓子は、なかったんじゃないかな」と振りかえる。

■ 伝統工芸の「予定調和を壊す」挑戦

改めて同企画について「森永製菓さんからも『以前から好きだった螺鈿の美しさを全国の方々にお伝えすることができ感無量』との言葉をいただきました。多くの方のご協力で、嘘みたいな企画とその高い仕上がりがみなさまの想像を超えるインパクトを出せたと思います」と感慨深げな野村さん。

螺鈿を知るきっかけの多様化、年齢層もより幅広く変化し続けているそうで、今年は人気VTuberが来店&紹介した影響で、螺鈿ネックレスを購入する男性客の割合が過去最大という傾向も。若き伝統工芸職人による「予定調和的なものを壊す、今回のような取り組みも今後どんどんチャレンジし続けたいです」との意欲に期待が高まる。

取材・文/塩屋薫

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