道長は「気づかない」人? 撮影も終盤、柄本佑にインタビュー
『源氏物語』の作者として知られる、平安時代の女流作家・紫式部(ドラマの名前はまひろ)の生涯を、吉高由里子主演で描く大河ドラマ『光る君へ』。柄本佑は、時の最高権力者にして、まひろと人知れず深い関係をはぐくむソウルメイト・藤原道長役で出演中だ。
政治家としては非凡なセンスを発揮しながらも、まひろが絡んだ途端に人間臭さがむき出しになるというキャラクターが絶賛されている。撮影もいよいよ終盤に差し掛かった頃に、再び柄本に話を聞くことができた。
■ 柄本が思う道長「ものを見る目は長けているけど…」
──この取材の前におこなわれたトークショーで、道長のことを「プロデューサー気質の人だと気づいた」とおっしゃっていました。撮影がはじまった当初、「演じながら道長のキャラを探りたい」とコメントしていましたが、これが一つの答といえるのでしょうか?
そうかもしれないですね。本人はプレイヤーでいたいから(天皇の補佐が仕事の)関白にならずにいるけれど、まひろと作家/編集者みたいな関係になったように、非常にプロデューサー目線なところがあるんじゃないかな。
たとえば第34回で、興福寺の僧侶たちが(内裏に)押し寄せてきたじゃないですか? あのとき道長が「これはまだ解決しないだろう」と予感したように、非常に今の時代と、これから来るものに敏感な人だったんじゃないかという気がします。
──そう言われると確かに、全体を見渡して先々のことを考えて動くという、プロデューサーの立ち位置が向いてそうですよね。
政治ってもともとそういうセンスが必要ではあるけれど、「ものを見る目」は非常に長けているんです。やっぱりすべての物事を俯瞰して、距離を取って・・・それにはシニカルな目線も入っている気がする。だからとっても地頭(じあたま)がいい人という気がしますね。本人はのんびりして「嫌だ嫌だ」と言いながらやってるけど(笑)。
──ただ第36回で、まひろの歌にすかさず返歌をしたときのように、妙なところで空気が読めなかったりしますよね。
そうそう、さっき言ったような部分はすごく長けているんだけど、ほかのところが非常にしどけないというか、天然ですね。特にまひろに対しては、台本に注釈があるんですよ。「まひろのことになると、周りの目が気にならなくなる」みたいな感じのことが(笑)。
今後も「ちょっと人の目を気にしろよ」みたいなことが出てきますし、本当に感覚がにぶいところと、鋭いところの差が激しい。でも才人というものは、常にそうだと思います。
■ 藤式部(まひろ)への返歌のシーン、立ち去った倫子にどんな感情が?
──道長と藤式部の歌のやり取りは、一般的には彼の頭の回転の早さを伝えるエピソードと思われてきましたが、まさか道長のど天然さを知らしめるためのものに変わるとは思いませんでした。
そうですよね、そっちの問題になるんだって。でもあそこは、できあがった映像を見ると、その場から立ち去った倫子(黒木華)さんを見て、ちょっと「あ、まずかったかな?」という風になってたじゃないですか?
でもお芝居的には、道長はまるっきり(倫子の気持ちに)気がついてないという風にしていたんです。「え、なんでなんでなんで?」って思いながら追っかけるという、ちょっと振り切ったものに。でも編集段階で「これはやり過ぎかな?」と思われたのか、オンエアでは「あ、これはヤバい」という空気が出てました。
──まひろとの間にできた賢子の件といい「この人、真実がわかってるの? わかってないの?」というのが読めなくて、視聴者の間でも意見が真っ二つにわかれるという、その塩梅が道長のおもしろいところです。
こっちも「これ、気づいてんの?」って、わからない場面が多々あるんですよ。そこでチーフ演出の中島(由貴)さんに相談したら、スパッと「道長、気づかないよ。彼はもともと気づかない人だよ」って言われるんです(笑)。
ただそれで「じゃあ、全然気づいてない風にやろう」と思って演じても、さっきも言ったように編集でニュアンスが変わったりもするので。だから視聴者の方には、どんな見方をしていただいても、どんな解釈が生まれてもいいと思っています。
■ 敦成親王を東宮にしたいワケには、まひろとの約束が?
──今(取材時点)道長は、娘の彰子(見上愛)が産んだ敦成親王を東宮にしようとしています。これが父・兼家(段田安則)のように権力への欲が生まれたのか、それともいまだに無欲なのかが、これもまた簡単には読めない感じです。
道長としては、やっぱり定子(高畑充希)が産んだ敦康親王(片岡千之助)よりも、孫の敦成が天皇になる方が、政を上手く回しやすいんですよ。まひろと約束した「良い政をする」ための、レールを敷きやすい。
第38回では(息子の)頼通(渡邊圭祐)に「政は家のためではない。民のためだ」と説くシーンがあるので、兼家さんとははっきりとゴールは違うはず。でもはたから見ると、まったく同じことをしているという結果になっているんです。
──「娘が産んだ皇子を強引に東宮にする」という点は、なんら変わりがないですからね。
そして道長は、そのことにあまり気づいてないんじゃないか? って、僕は思うんですよ。道長さんぐらいの人だったら、そこを繊細に感じて、もっと苦悩するんじゃないかと思うんですけど、そういうことは(台本に)描かれてないので。
だからこの(撮影の)時期は、自分自身がやりながら、ちょっともどかしさを感じていたように思います。言っていることとやっていることのギャップに「なんでかなあ?」と。今となってはそういうところを、だいぶ飛び越えちゃってますけどね(笑)。
■ 伊周のバキバキ演出「三浦翔平さんもノリノリでした(笑)」
──ライバルの伊周が退場したら、さらに風通しが良くなりますからね。それにしても第38回の伊周のインパクトは、本当にすごかったです。
あの演出は黛(りんたろう)さんで、超絶良かったんですけど、バキバキに臭かったですよね(笑)。あの回は黛さんが伊周さんのことを楽しみすぎて「こういう風にしようと思ってるんですよ!」って、おもしろいぐらい興奮していて。それに対して三浦(翔平)さんも、とってもノリノリでした。
でも演じる方としては、監督がそれぐらい興奮していると乗ってくるんですよ。別に「ああして、こうして」と言わなくても、その空気に役者がポンと乗っかると、勝手にそういう風になる。そういう瞬間に立ち会うと、演出みたいなことって、やっぱり言葉だけではないんだなあと思いました。結局はやっぱり、人と人なんだよなと。そういうことを改めて感じたけど、あの時の黛さんの様子があまりにも印象的で、こちらも見ていてテンションがとても高くなりましたね。
──そして『光る君へ』も、そろそろクランクアップが見えてきたかと思います。1年半の撮影中「大河ドラマがあるから」と我慢していて、終わったらやりたいことってありますか?
大河があるからやれなかったというわけじゃないですけど、長編の監督映画を撮りたいです。そのときはまた、よろしくお願いします(笑)。
でも今は「終わるなあ」というより、ビックリしてるという感じです、どちらかというと。去年撮影がはじまった頃はまだのんびりしてたけど、オンエアがはじまった途端「もう終わるの?!」って。まだはじまって、ちょっとしか経ってない気分ですもん。大河ドラマをやっている人の体感って、こんな感じなんだなあと、なんだか不思議な気持ちです。
取材・文/吉永美和子
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