リアルで呪詛返しに? 伊周役の三浦翔平の怪演【光る君へ】

13時間前

半狂乱となる伊周(三浦翔平)(C)NHK

(写真8枚)

吉高由里子主演で、日本最古の女流長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。10月6日放送の第38回「まぶしき闇」では、藤原道長と藤原伊周が、両方とも「闇」と言える状態に突入。特にすっかり「呪詛キャラ」が定着した伊周の怪演に、視聴者の目が集中した。

■ 嫡男・頼通に言い聞かせる道長…第38回あらすじ

中宮・彰子(見上愛)が産んだ敦成親王の寝所から呪符が見つかり、藤原伊周(三浦翔平)の縁者たちの仕業であることが発覚。呪詛に直接関わった人々は官位を剥奪され、伊周も参内を禁じられた。藤原道長(柄本佑)は嫡男・頼通(渡邊圭祐)を呼び出し、「我らがなすことは、敦成様に御即位いただくこと。家の繁栄のためではないぞ。なすべきは揺るぎなき力をもって、民のためによき政をおこなうことだ」と言い聞かせる。

嫡男・頼通(渡邊圭祐)に言い聞かせる道長(柄本佑)(C)NHK

彰子は再び一条天皇(塩野瑛久)の子を懐妊し、土御門邸に宿下がりした。そこに伊周が訪れ、甥の敦康親王(渡邉櫂)を天皇から遠ざけることを止めるよう、道長に直訴する。逆に道長が、参内を許されても内裏に来ない理由を問うと、伊周は「なにもかもお前のせいだ!」と絶叫。道長が伊周に「今後お前が政に関わることはない」と冷たく告げ、伊周が半狂乱で呪符をばらまくその一部始終を、まひろは目撃してしまうのだった・・・。

■ 実は脚本に記されていなかった!? 人形に食らいつく伊周

この第38回は、藤原伊周役の三浦翔平がトークショーで「呪詛祭りです」と予告していたように、「呪詛チカ」こと伊周のオンステージと言えるものだった。

家にこもって呪詛にいそしみ、弟・隆家(竜星涼)にドン引きされる伊周。人形(ひとがた)にスペアリブのように食らいつく伊周。敦康に「子どもは見ちゃいけません!」と言いたくなるほど、生ける屍となった伊周。そしてついに道長に積年の恨みをぶつけて、強制退場させられる伊周・・・もう「人を呪ったらこうなりますよ」という、映像教材にしたくなるほどのクオリティだ。

呪詛する伊周 (C)NHK

ちなみにこの呪詛事件、当時の調書が現存(!)しているので、一体なにが起こったのかは詳しくわかっているものの、肝心の「首謀者は誰なのか」については、やっぱり道長の悪だくみ説が根強くささやかれている。ただ、「本当になにもかも道長のせいなの?」という疑問と、伊周の評判は当時からかんばしくなかったという事実を踏まえて、もう「こいつしかいないだろう」と思われるぐらいの黒幕にしてしまおう! と、目一杯振り切ったのが、この呪詛チカキャラだったのだろう。

ただ呪詛のシーンについて、現代人の私たちは半分冗談のような気持ちで見ていたが、呪いや祈りが本当に効力を持つと信じられた平安時代の感覚では、実際に手をかけたのにも等しい重罪。そう考えると、花山天皇(本郷奏多)の后の子どもを呪詛して、母子ともども死に至らしめた道長の父・兼家(段田安則)と安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)は、本当に「生きるか死ぬか」ぐらいの危ない橋を渡っていたのだなあと、今さら実感する。

実は脚本に書かれていなかったという演出 (C)NHK

そしてこの人形を食べるという三浦翔平の演技、実は脚本には記されておらず、今回の演出の黛りんたろう氏から出たアイディアだったと、清少納言役のファーストサマーウイカが「X」で明かしている。その大胆な演出に対して、最大出力の形相で応えた三浦翔平の演技は、おそらくは彼の俳優人生に残る名演と称えられるだろう。実はこの回の演出について、Lmaga.jpではとあるキャストに裏話を聞いている。近々公開する予定なので、楽しみにしてほしい。

■ 「良い政」を免罪符に、矛盾の塊になりつつある道長

そんな真っ黒クロスケな伊周だけど、その呪いがちょっとでも効いたかのように、暗い影が大きくなってきたのが道長くんだ。これまでは自分が権力を握ることには無頓着で、ただ「良い政がしたい」ためだけに天皇に一番近い地位に付いていたが、ついに「自分たちにとって一番都合の良い天皇」をまつり上げることを考えはじめた。そのために頼通に「これは家のためではなく、世間のためだから」と思想を共有しようとするけど、そのたたずまいが、道長があれほど軽蔑した兼家と重なって見えた視聴者も少なくなかった。

伊周に「今後お前が政に関わることはない」と冷たく告げる道長(柄本佑)(C)NHK

ただこの考えに対して、ちょっと道長くんを擁護すると、確かに叔父と甥という関係のため、完全なコントロールは不可能だった一条天皇に、しばしば悩まされていた現場を私たちは見てきた。天皇が女にうつつを抜かしたために、大災害に備えることができなかったときの道長の無念を思うと、「1から10まで言うことを聞いてくれる人をトップにしたい」と考えるのは、無理もないことなのだ。ただ問題は、そういう道長の政が本当に正しいのか? ということなのだが。

「良い政」を免罪符に、すべてを自分の思い通りにしようとするという、矛盾の塊になりつつある道長。こうなってしまった彼に忌憚なく意見できるのは、創作という作業を通して、現代と未来を見据えることができる「作家」の目を持ち、しかも彼に「良い政をせねばならない」という呪いをかけた張本人であるまひろだけだろう。今回のラストのまひろの表情には、本来のんびり屋の道長を修羅の道に引きずり込んだ、後悔みたいなものが現れているように思えた。

伊周が半狂乱で呪符をばらまくその一部始終を目撃するまひろ(吉高由里子)(C)NHK

そして摂政・関白の地位に狂おしいほどこだわり抜いた前時代の遺物として、来週には退場するであろう伊周。しかしまもなく、貴族社会がゆるやかな下り坂に入っていくことを考えると、その最後の輝きと言える時代に世を去っていくのは、彼にとっては幸いなのかもしれない。この呪詛のシーンを撮影している頃は、本当に唱えたらヤバい呪文もあって「体調を崩した」と語っていた三浦。今はもう、お祓いに行っていることを願おう。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。10月13日放送の第39回「とだえぬ絆」では、道長が敦成親王を天皇にする野望を加速させていく様子と、まひろの一家に思わぬ悲劇が降りかかるところを描いていく。

文/吉永美和子

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