高杉真宙が作り上げた「最高の弟」惟規を振り返る【光る君へ】

4時間前

為時(岸谷五朗)に見守られながら息を引き取る惟規(高杉真宙)(C)NHK

(写真7枚)

平安時代の長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を、吉高由里子主演で描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。10月13日放送の第39回「とだえぬ絆」では、明るいムードでドラマを盛り上げたまひろの弟・藤原惟規が突然の退場。「紫式部」を作ったもう一人のキーパーソンとも言える惟規について、あらためて振り返ってみる。

■ 従五位下に出世した惟規だったが…第39回あらすじ

まひろの娘・賢子(南沙良)が裳着を迎えることになり、藤原道長(柄本佑)よりお祝いの品が届けられたが、そこでまひろの弟・藤原惟規(高杉真宙)が、賢子の本当の父が道長であることを、父・為時(岸谷五朗)にバラしてしまう。その頃惟規は従五位下に出世し、為時も越後守に任命された。2人はそろって道長の元にお礼の挨拶に赴き、惟規は「姉を末永くよろしくお願いいたします」と、道長にひそかに念を押した。

「姉を末永くよろしくお願いいたします」と、道長(柄本佑)に念を押す惟規(高杉真宙)(C)NHK

賢子の裳着の儀を終えたあと、惟規はかつてまひろが裳着を迎えた頃、為時との仲が険悪だった思い出を語り、今はギクシャクしている賢子との仲も、きっとうまくいくと励ました。惟規は越後に向かう為時に同行するが、その道中で急な病に倒れ、越後で為時に見守られながら息を引き取る。まひろは「都に帰りたい」という意味の惟規の辞世の句を見て涙し、賢子はそんな母にそっと胸を貸すのだった・・・。

■ 初登場は第2回、さまざまな場面でまひろをサポート

紫式部の弟・藤原惟規は、あまりにも偉大な姉の影に完全に隠れてしまっているが、「勅撰和歌集」に歌が選ばれるほど、和歌の才能に秀でた人物だった。また遺された逸話の数々から、姉と違って良くも悪くも軽やかな人物だったことがうかがえる。そんな惟規を『光る君へ』で演じたのが、くしくも主人公と同じ名前の高杉真宙(たかすぎ・まひろ)。実はこのコラムでは、惟規についてあまり深く言及したことがなかったのだが、この機会にそのキャラクターと、物語で果たした役割を振り返っておきたい。

まひろ(吉高由里子)と話をする惟規(高杉真宙)(C)NHK

高杉が本役で『光る君へ』に初登場したのは、第2回とかなり早い段階。この頃は今週の39回で惟規が振り返っていたように、まひろと為時が母・ちやは(国仲涼子)の死をめぐって冷戦状態の頃。このギッスギスの雰囲気を、家のなかを無邪気に駆け回る子犬のような空気感でなごませてくれた。当時は視聴者からも「アホの子」扱いされていたが、今週の惟規の口ぶりからすると、姉と父の両方からツッコまれることで2人の間をつなぐよう、考えて作り上げたキャラクターだったのかもしれない。

その後もまひろの下手な似顔絵を元に道長を探そうとするとか(しかも知らないうちにニアミスするという奇跡)、白居易の『新楽府』を紹介するとか、いろんな形でまひろをサポート。しかし一番の助けになったのは、第35回のなかで描かれ、今回の紀行でも紹介されていた、禁を破って斎院の女房に会いに行ったエピソードかもしれない。このときに惟規は「禁じられた恋ほど燃える」というようなことを言っていた記憶がある。

第35回より。弟・藤原惟規(高杉真宙)の話を聞くまひろ(吉高由里子)(C)NHK

そしてこの第35回のときに執筆中だった「若紫」の帖から少しあとに、光る君が兄・朱雀帝に入内する予定だった政敵の姫・朧月夜と、まさに「禁じられた恋」を展開する「賢木」が執筆されるのだ。ドラマでは特に言及はなかったが、このときの惟規くんの状況と口ぶりが、この「賢木」の光る君と重なるように思えた。自分の周りに起こった印象的な出来事だけでなく、自分の黒歴史すら物語に落とし込むまひろなら、おそらくネタに採用したのではないだろうか。

そのエピソードを聞かされたとき、まひろが「そんな罰当たりなことをしたら早死にする」と忠告していたが、言霊というのは恐ろしいもので、惟規は父の越後行きに付き添っている最中に、わずか30代半ばで世を去ることになってしまった。くわしい死因までは史実には残っていないが、彼が「みやこには恋しき人のあまたあればなほこのたびはいかむとぞ思ふ」という辞世の句を遺したものの、最後の「ふ」が書けなくて、為時が書き足したという逸話が実際に伝えられている。

惟規の辞世の句。最後の「ふ」は為時が書き足したという逸話が実際に伝えられている (C)NHK

■ 善意だけを塗り固めたような惟規、演じた高杉に称賛の声多数

そして現在のまひろの家庭環境は、賢子が絶賛反抗中という、かつてのまひろと為時の関係がペーストされたような状態。ここでも助けの手を差し伸べたのは惟規だ。まひろとの最後の会話で、為時のときのように、賢子ともきっとうまくいくと言ってまひろの心を解きほぐした。そこまではわかる。しかしまさかみずからの死をもって、まひろの人間的な面を賢子に見せることで、2人の絆をつなぎとめるだなんて、とんでもないきっかけを作ってくれたもんだ惟規は! というか脚本の大石静は!!

賢子(南沙良)の胸で号泣するまひろ(吉高由里子)(C)NHK

SNSでも「光る君への癒やしがあああああ」「このドラマの良心であり2024年最高の弟」「バカバカ史実のバカ」などの惜しむ声でタイムラインが埋まる事態に。物事を深く暗く考え込む、コミュ障気味の姉をフォローするかのように、道化となって姉を明るく励ましつづけた藤原惟規。もし彼が変わり者の姉を否定するような人物だったら、まひろはさらに自己肯定感の低い人間になって、才能を開花させることができなかったかもしれない。

惟規(高杉真宙)の死に号泣するいと(信川清順)(C)NHK

収録後のインタビューで高杉は、惟規について「人に愛されて生きていたキャラクターだった」と語っていた。周りの人からの愛をめいっぱい吸収し、それを「愛ってなに?」と思い悩むまひろに対して、模範解答のように注ぎ込む役割を果たした惟規。そんな善意だけを塗り固めたような、まひろとは対極的なところで浮世離れした人物を見事に体現した高杉には、改めて惜しみない拍手を送りたいし、次はダークな役を大河で見てみたいとも思っている。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。10月20日放送の第40回「君を置きて」では、一条天皇(塩野瑛久)が体調を崩したために、次期王位をめぐる動きが活発化していくところと、中宮・彰子(見上愛)と道長の対立が描かれる。

文/吉永美和子

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