おむすび、序盤3週まで粘り強く「日常」を描き続けた理由とは
連続テレビ小説『おむすび』(NHK総合ほか)第3週「夢って何なん?」が放送され、結(橋本環奈)の周りの人々の青春と「未来への夢」が描かれた。
ハギャレン(博多ギャル連合)メンバーのルーリー(みりちゃむ)は社長、リサポン(田村芽実)は「ギャルの歴史の本」を出すこと、スズリン(岡本夏美)はネイリスト、タマッチ(谷藤海咲)はダンサーと、それぞれ夢を持っている。
風見(松本怜生)には「書道の自由さと楽しさを伝える書道家」という夢があり、四ツ木(佐野勇斗)はメジャーリーガーの夢に向かって目標をひとつひとつクリアし、一直線に進んできた。もちろん彼らの「夢」は唐突に降って湧いた話ではなく、放送開始から3週間、布石となるそれぞれの来し方が物語のなかで描かれていた。
一方結は、6歳のときに被災した阪神・淡路大震災と、姉・歩(仲里依紗)との関係性、父・聖人(北村有起哉)への気遣いから自分の心に蓋をして、夢を持つことができないでいる。結の、人知れず胸に抱いている思いが、説明台詞に頼らない静かなシーンから深く伝わってきた。この15回で粘り強く描かれた「日常の積み重ね」は、今後の展開にとってきっと大きな役割を持つのだろう。
今週金曜日(18日)に放送された第15回のラストシーンでは、これまで姿のないまま存在感を放っていた結の姉で「元カリスマギャル」の歩が米田家に帰ってきた。「うちとお姉ちゃん」とタイトルされた次週、第4週では、結と歩の関係性が明かされ、「糸島編」最初のクライマックスである『糸島フェスティバル』で結とハギャレンメンバーが踊るパラパラが披露される。大きな転換期となりそうな第4週を前に、制作統括の宇佐川隆史さんに話を聞いた。
◾️ 第4・5週は物語の大きなターニングポイントに
「主人公が栄養士を志す物語」とあらかじめアナウンスされている本作。しかし宇佐川さんによると、これまでの展開について「結が栄養士になるための『逆算』で作ってはいないんです。震災も、糸島での暮らしも含め、彼女が生きていくなかで経験するいろんな出来事のなかに、のちに栄養士に結びつく瞬間があります」という。
今後の展開について宇佐川さんは、「第4週、そして続く第5週は物語の大きなターニングポイントになってきます。ギャルが大嫌いだった結が、ハギャレンのメンバーと心を通わせ、パラパラを踊る。結が周りの人たちと関わりながら殻を破って一歩踏み出し、自分の力で動き出す。『不寛容』から『寛容』へと変化した結の成長、そして姉・歩との対峙の先に、これまでとは違った新たな展開が待っています」と語る。
■ 第3週までは結が「1歩目」を踏み出すまでを見守るストローク
第3週までじっくりと腰を据えて描いてきた「日常」について、宇佐川さんは「展開がスローペースだと感じる方の声も拝見いたしました。『おむすび』は結の『心の旅』を描いています。これまでの3週は、結が『旅の1歩目』を踏み出すまでを見守るストロークでした。結が心に抱えながらも、無意識のうちに封印している過去の記憶や傷というのは、決して簡単なものではない。それを慎重に、丁寧に、結にとっては大切な日常として描いてまいりました」と作劇の意図を説明した。
また第3週までの脚本と結を演じる橋本環奈について、「心の傷や痛みって、本人以外の他者からは計り知れないものなのだと思います。だから、第三者が『わかったふり』をしてはいけない。脚本家の根本ノンジさんが描かれた物語のなかには、そういった事柄がいろいろと散りばめられています。そして結本人にとっても『無意識下』である傷や痛みという、とてもデリケートな問題を、橋本環奈さんは深く理解したうえで表現してくださいました。お二方には改めて感謝しておりますし、本当にすごいなと思っております」と語り、2人をねぎらった。
第4週以降の見どころについては、「第1話冒頭の、結が高校入学の日にした『ネクタイを緩めるしぐさ』、結の『美味しいもん食べるとちょっとは悲しいこと忘れられるけん』という口ぐせ、米田家の『過去』と『呪い』など。ここからさまざまな回収と、さらなる展開が始まります」とのこと。
■ 半年間の「連続テレビ小説」だからこそできる物語を
最後に宇佐川さんは、「第1~3週でじっくり結の心情を描くなかで蒔いた種が、姉・歩の帰還を描く第4週を機に一気に花開き、変化していきます。結が自ら積極的に動きはじめるにしたがって、展開のスピードも上がってくると思います。ここから見ていただいても十分に楽しめますが、第1週からご覧になっていた方は、より豊かな『おむすび』の世界を感じていただけると思います。『連続テレビ小説』だからこそできる、半年間を活かした物語を、チーム全員で届けたいと思っております。ぜひこれからも結の物語を楽しんでいただけましたら幸いです」とメッセージを残した。
突如帰ってきた歩に、結はどう向き合うのか。糸島フェスティバルでのパラパラは成功するのか──。第4週では、結と歩、そして父・聖人(北村有起哉)の秘めた思いが徐々に明かされ、続く第5週では、米田家の人々の心に今も傷を残す震災を描き、その後も、「歩の過去や真相、栄養士の道へと、盛りだくさんの内容」で続いていくという。今後ますます温まっていく『おむすび』。この後の展開からも目が離せない。
取材・文/佐野華英
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