紫式部の「清少納言dis」が生まれた悲しい瞬間【光る君へ】
平安時代の長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を、吉高由里子主演で描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。10月27日放送の第41回「揺らぎ」は、清少納言が彰子のサロンに「カチコミ」に行く姿に、SNSが大盛りあがり。そして双寿丸を通して、まひろがなんだかんだで道長大好きということがバレるという、意外な展開も見られた。
■ 清少納言が歌会に突然やってきて…第41回あらすじ
まひろが仕える藤原彰子(見上愛)が、藤壺で歌会を開いていたところ、清少納言(ファーストサマーウイカ)が敦康親王(片岡千之助)の使いとしてやって来る。そこで彰子が敦康の様子を尋ねると「このようにお楽しそうにお過ごしなこととは」などの非難の言葉を次々に投げかけて去っていった。まひろは日記に、清少納言の変化を責めるような文章を記す。さらに敦康が、御簾を超えて彰子と面会したことが藤原道長(柄本佑)に伝わり、道長は敦康を内裏から遠ざけようとする。
一方まひろの家には、娘・賢子(南沙良)を助けた若武者・双寿丸(伊藤健太郎)が再び来訪。双寿丸は、自分は読み書きはできないが、それぞれが得意な役割を担って力を合わせて戦うことができるし、そのために仲間を作るのは楽しいと話す。それを聞いたまひろは、道長の意のままになりたくないと言う彰子に「仲間をお持ちになったらいかがでございましょう?」と助言。彰子はさっそく頼通(渡邊圭祐)ら弟たちを集め、父のより良き政のために手を携えることを呼びかけるのだった。
■ 事実を知らないのは仕方ないけど…清少納言の態度に複雑な心境
文学オタク同士として親交を深め、藤原定子(高畑充希)が出家する衝撃の現場に同時に居合わせ、そして2人の交わした会話から『枕草子』が生まれた。まさに最高のシスターフッドと言える関係となっていた、「清少納言」ことききょうとまひろ。この後まひろが「紫式部日記」で、清少納言をケチョンケチョンにけなす文章を書くだなんて、全然想像つかないんだけど? と思っていたら、ついにこの41回で、2人の友情の崩壊の瞬間が来てしまった。
はじまりは、清少納言が彰子から敦康親王の様子を聞かれて、嫌味たっぷりの返事をしたこと。彰子が父親に反抗するほど、敦康のことを深く思っているのを視聴者の私たちは見ているが、そんな内情が耳にも入らない場所にいるききょうからすれば、「義理の息子を追い出して、実の子を東宮にした悪女」に見えるはず。というのはわかるが、彰子の真心を知っている視聴者やまひろから見たら、ききょうの怒りは筋違いとしか思えないだろう。
SNSでも「中宮に喧嘩売った!」「彰子的には定子様も敦康も大事な人だし清少納言に対しても純粋な尊敬だけど、強火担清少納言的には屈辱の相手だもんなぁ」「事情を知らないのは仕方ないけど、中宮様は敦康親王さまをずっと母の愛で守ってきた人よ・・・あんまりだよなあ」「敦康親王のために彰子様が道長くんにあれだけ反抗したことをもしまひろから聞いたら、憤死するんじゃね(自分の態度に)」と、ききょうをいさめる言葉が一斉に上がった。
そしてまひろがついに、清少納言の悪口を日記に記すことに。それは単なるライバル意識ではなく、自分が慈しみながら育てた女主人を一方的に攻撃し、自分にも冷たい視線を送ったかつての友人への絶望からの罵倒だった。しかしまひろの性格を考えると「清少納言」は嫌いになっても、「ききょう様」は嫌いになれないのではないだろうか。このあと2人が相まみえる機会があるかどうかは謎だが、友情が復活してくれることを願いたい。
SNSでも「自分だけが辛いと思いこみ、当たり散らす定子の女房『清少納言』を、まひろは悲しく見限っていく」「もう藤式部と清少納言なんだね・・・一緒にお菓子を食べて文学談義したりふたりで変装して覗き見してた時代のまひろ・ききょうには戻れないんだ」「清少納言の悪口案件どういう流れで・・・って思ってたけど、どうしてあんなこと言ったの? あんなに素敵な人だったのに?! ききょうさんのバカバカバカ! ってノリで、変な話逆に安心した」など、複雑な胸の内を語る声があふれた。
■ 双寿丸の言葉をヒントに…彰子・まひろコンビの起こした新風
そんな重い展開が多かった41回のなかで、唯一ホッとさせてくれたのが、すっかり賢子に餌付けられたワンコ状態となっている双寿丸。私たち視聴者は彼を散楽師・直秀(毎熊克哉)と重ねていたが、まひろにとっては幼い頃「三郎」と名乗って、身分を隠して仲良くしていた道長がダブったよう。混乱して「足で字を書くの?」「実は高貴な生まれではない?」とトンチンカンな質問する様は、双寿丸じゃなくてもとまどうに違いない。
SNSも「※実体験に基づく質問です」「双寿丸、直秀ではなく藤原三郎道長2号として認知される」「まひろに染みこんだ三郎の影響がすごい(笑)。ベストセラー作家なのに奇人変人に見られてる」「あー、道長から失われつつある三郎性を娘の彼氏に見出してるのか」「結局やっぱりまひろにとって一番大事で心の中にいつもいる男は道長くんなんだなあ」と、まひろの気持ちに改めて気づいたというコメントが。
そして双寿丸の言葉をヒントに、女だから政に関われないのなら、弟たちを仲間にして、間接的に政に関わろう! と彰子に助言を与えるという流れにも、「仲間ー! 双寿丸からのヒントー!」「仕入れた知識を早速アウトプット」「新しい考えに触れてそれを受け入れて、柔軟に取り入れていくのはまひろの強み」「彰子さまと道長の対立を手助けするのがまひろなの、道長くんへの皮肉すぎてくすくすしちゃう」などの、ワクワクするような言葉が並んだ。
今も歴史に名を残すような政のトップにいる人間ではなく、おそらくはなんの記録も残らないような一人の若者が何気なく語った言葉が、文学者の並外れた直感によって、時流を動かすきっかけとなる。政の中枢にいる道長くんサイドの話がきな臭くなってきただけに、この彰子・まひろコンビの起こした新風は非常に爽やかで痛快に写った。
しかしこの動きが道長にとっては、本当に父の政を支えることになるのか? 逆に足を引っ張ってしまうのか? もし後者となった場合、その黒幕がまひろだと知ったら、道長くんはどんな顔をするのだろう・・・。
◇
『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。11月3日放送の第42回「川辺の誓い」は、立后をめぐって道長と三条天皇(木村達成)がさらに対立を深めていき、道長に異変が訪れるところが描かれる。
文/吉永美和子
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