ガイドブックに載らない奈良の魅力、老舗による新・観光案内所

2024.11.4 08:00

「奈良風土案内所」を手掛けた奈良在住のスタッフ

(写真6枚)

「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げ、産業観光の推進に取り組う奈良の老舗「中川政七商店」が、創業の地(奈良市元林院町)にある複合商業施設「鹿猿狐ビルヂング」内に、「奈良風土案内所」をオープンした。奈良産業観光のハブとなる場所を目指す。

■ 奈良在住だから分かる、マニアックな情報も

10月24日にオープンした「奈良風土案内所」

従来の観光案内所とは異なり、ここでは単なるスポット案内ではなく、「奈良、新発見!」をコンセプトに、奈良で暮らしている同社社員たちのフィルターを通じた「奈良の風土」を観光客らに紹介する。

注目は、10坪ほどのスペースの壁面に並ぶ約60枚の「風土案内カード」と可愛いイラストが描かれた「風土案内板」だ。「旬」「旨」「新」「技」「酒」の5つのテーマに分かれており、約100カ所のスポットがセレクトされた「風土案内カード」で、訪れた人に「奈良を楽しむための旅先のヒント」を提供する。

「風土案内カード」の一例

ユニークなのは、スポットのセレクトからカードの文章(コラム)執筆に至るまで、すべて同社のスタッフが独自でおこなっている点。セレクトには全社員から意見を募り、7名の奈良在住スタッフが実際に手掛けたという。そのため、カードには、ガイドブックには載らないような個人の行きつけの店も。

例えば、5つのテーマのひとつに「酒」があるが、これは奈良県が「日本清酒発祥の地」であり、世界的な大会で受賞歴があるバーテンダーのBarが複数あることから「Bar文化」が根付いていることに起因する。奈良ホテル「THE Bar」のカードには、「(おつまみの)レーズンバターは、生涯食べ続けたい逸品です」との熱い愛が込められたコラムが載っており、確かに訪れて食べてみたくなる。

風土案内カード裏面のコラム欄には、そのスポットを推薦したスタッフの似顔絵が描かれており、個人的なオススメ理由が記載されているのもおもしろい

担当者のひとりである佐藤菜摘さんは、「大通りを歩くだけではわからない、裏通りの店も紹介しています。社員の顔が見えた方が、まるでその土地の友人・知人に紹介された気分を味わえ、奈良に接点が無かった人も奈良への解像度が高まると思います」と説明する。

■ 楽しい! 自分だけのオリジナルガイドブック

さらに、「奈良独特の風土」を味わってもらうため、各スポットの歴史や文化といった背景を一緒に伝えることにも心を砕いたという。例えば、奈良県南部の温泉の紹介の場合は、修験道との関わりを一緒に紹介する予定とのこと。

壁面に並ぶ約60枚の「風土案内カード」と「風土案内板」「旬」「旨」「新」「技」「酒」の5つのテーマに分かれている

これらの気になるカードを集めて、キオスクのような「コミュニケーションスタンド」へ持って行くと、専用のバインダーが用意されているので、ローカルマップと一緒に綴じれば、自分だけのオリジナルガイドブックをつくることが可能だ(無料)。

「旬」のエリアのカードは、季節ごとに刷新されるので、訪れる度に最新の情報を得ることができる。現在は、奈良国立博物館で開催中の「正倉院展」の紹介など秋の企画だが、12月からは冬の企画に変わる。

可愛いイラストが描かれた「風土案内板」には、奈良の歴史や文化、産業などが紹介されている

社員として奈良で暮らしてから、奈良の魅力にどっぷりはまってしまった佐藤さんは、「奈良は、温故知新の言葉がよくはまります。古いのに進化している魅力があります」と力説。この「奈良風土案内所」がモデルケースになれば、今後は全国へと横展開していく可能性もあるそう。

その他にも、奈良の風土が育んだシーズンごとに変わる定番土産や食を紹介する物販コーナーが設けられ、麻織物の商いで創業した中川政七商店の約300年の歴史に触れる館内ガイドツアーも毎日2回開催される(無料)。

取材・文・写真/いずみゆか

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