父としても政治家としてもつらい…道長の失策【光る君へ】

2024.11.1 20:30

新しく即位した三条天皇(木村達成)(C)NHK

(写真5枚)

吉高由里子主演で『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。10月27日放送の第41回「揺らぎ」は、新しく即位した三条天皇と道長のバトルが、さっそく開幕。三条天皇の予想以上の交渉上手ぶりに、驚きの声が上がっていた。

■ 道長の作った秩序をかき乱す三条天皇…第41回あらすじ

三条天皇(木村達成)は、藤原道長(柄本佑)が関白就任を固辞したのと引き換えに、后・娍子(朝倉あき)を強引に女御にするなど、道長の作った秩序をかき乱しはじめる。そんな道長にまひろが、道理を超えて強い力を持とうとする理由を問うと「俺は常にお前との約束を胸に生きてきた。そのことはお前にだけは伝わってると思っておる」と答えた。一方、三条天皇に入内した道長の娘・妍子(倉沢杏菜)が、天皇の息子・敦明親王(阿佐辰美)に迫っていた現場を、敦明の母・娍子が目撃してしまう。

敦明親王(阿佐辰美)に迫る妍子(倉沢杏菜)(C)NHK

三条天皇は、空席となった蔵人頭に、道長と源明子(瀧内公美)の間に生まれた藤原顕信(百瀬朔)を据えることを提案した。しかし三条天皇に借りを作りたくないと考える道長は、それを断ってしまう。以前から、道長の嫡妻・源倫子(黒木華)の息子たちと比べて、自分たちはないがしろにされていると思っていた明子と顕信は不満を爆発させ、顕信は比叡山で出家。明子は「あなたが顕信を殺したのよ!」と、道長につかみかかるのだった。

■ 予想以上に高い政治力を発揮する三条天皇

思えば第23回で初登場したときから、おだやかな一条天皇(塩野瑛久)とは対象的に、野心満々なクセ者オーラに満ちみちていた三条天皇。第41回で本格的に帝位についたことで、その本性が一気に解き放たれた。しかしそれがただの「てっぺん取ったるで!」な闇雲な野心ではなく、自分の障害となりそうな叔父・道長の力を、あの手この手で巧みに削いでいくという、予想以上に高い政治力を発揮して、視聴者を驚かせた。

最初に「お?」と思わせたのは、女御2人制を道長に承諾させたやり方だ。「関白」という、天皇に代わって権力を行使することもできる重要なポストに、道長が今まで付きたがらなかったことを見越して、おそらくは断られるのを承知で道長に要望。そこで道長が断ったら、天皇の命令を拒否った弱みを盾にして、自分が一番実現したかった提案をゴリ押し。現在のビジネスでも使えそうな、高度な交渉術を見せつけた。

道長をかき乱す三条天皇(木村達成)(C)NHK

実は道長が関白就任を受けたとしても、天皇の方にメリットが。今の道長くんは、政を直接動かせる最高位の左大臣+関白と同等の権限を持つ内覧を兼任しているという無敵の状態。正式に関白になれば、天皇のアドバイザー的な立ち位置に絞られて、政には直接関われなくなるので、自分の手で「良い政」をおこないたい道長にとっては降格同然なのだ。このどっちに転んでも痛くはない案を出しつつも、本命の案の方を選ばざるを得ない方向に相手を誘導する。これだけでも舌を巻くが、三条天皇の攻撃はまだ終わらなかった。

■ 「顕信を蔵人頭に」を辞退した道長、まさかの展開に

倫子に対抗意識を燃やし、自分が生んだ息子たちの出世をたびたび道長にゴリ押ししてきた明子女王。長男の頼宗(上村海成)はまだのんびりとしているが、次男の顕信は母親の焦りと期待をそっくり受け継いだような性格に。これはちょっとやっかいだなと思われた矢先に、三条天皇から「顕信を蔵人頭に」という話が持ち上がるが、道長は辞退した。この理由については、顕信が17歳と実際に若すぎることに加え、早々に退位してほしい天皇と、自分の息子とのつながりを強めたくない、などの事情があったよう。

長男の頼宗(上村海成)、次男の顕信(百瀬朔)(C)NHK

しかしもし三条天皇が、顕信の性格を考慮してこの話を打診したとしたら・・・? 彼が蔵人頭になれば、道長も息子のためにあまり自分を無下にはできなくなる。もし断ったとしたら、顕信は激情にかられて道長を困らせる方向に走る可能性が高い。その結果、顕信は突然出家するという、天皇にとっては最高に効果的な行動に出た。勝手な出家=ほぼ自殺というこの時代の感覚は、一条天皇の后・藤原定子(高畑充希)の出家騒動で、『光る君へ』の視聴者は予習しているはず。

「あなたが顕信を殺したのよ!」と、道長につかみかかる明子(瀧内公美)(C)NHK

自分の政治判断が息子を「死」に追いやったのは、政治家としても親としても、両方の面でダメージを食らったはず。ここまで計算してこの話を道長に持ちかけたのだとしたら、三条天皇には感心するどころか、とんでもない策略家だとひれ伏すしかない。おそらくは東宮の身分に甘んじた20年以上の間、政治学をみっちりと学んで、本番に備えてきたのだろう。これがただただ野心的なだけの中身空っぽの人間なら、道長くんもまだやりやすかっただろうに・・・。

しかも道長にとっては、父・兼家(段田安則)の命を呪詛で奪った疑惑を持つ、明子様に恨まれるという災難まで降りかかった。ブチ切れた明子様が、道長を呪詛するなんて展開だけはどうか来ませんように! と祈るしかない。

さらに追い打ちをかけるように、三条天皇に入内した次女・妍子に密通未遂があったなんて聞いたら、もう道長くんのライフはゼロだろう。ここからいかにして大逆転が訪れるのか? そこにはやはり、まひろLOVEのパワーが大きな力となるのか? がんばれ道長くん、望月の歌を詠うまではあと少しだ!

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。11月3日放送の第42回「川辺の誓い」は、立后をめぐって道長と三条天皇がさらに対立を深めていき、道長に異変が訪れるところが描かれる。

文/吉永美和子

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