ソウルメイト関係の完成で…「宇治十帖」が爆誕【光る君へ】

6時間前

『光る君へ』第42回より、川のほとりで話をするまひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)(C)NHK

(写真5枚)

平安時代の長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を、吉高由里子主演で描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。11月3日放送の第42回「川辺の誓い」は、人生の終えんの予感にさいなまれたまひろと道長が宇治川を前に語り合うことで、作家として、政治家として再び歩みだすことに。「愛」という言葉を使わずに愛を誓い合う2人の姿が、大きな感動を呼ぶ回となった。

■ 弱り切った道長にまひろは…第42回あらすじ

『源氏物語』を、光る君の死を暗示する「雲隠」の帖まで書き終えたまひろは自宅に戻り、主人の彰子(見上愛)に乞われても出仕しようとはせず、無為の日々を過ごしていた。そこに藤原道長(柄本佑)の従者・百舌彦(本多力)が突如来訪。道長の体調がすぐれないことを知らされたまひろは、見舞いのために道長がいる宇治へ向かう。まひろは大きな川が流れる宇治の風景に感銘を受け、川辺の散策に道長を誘う。

『光る君へ』第42回より、道長(柄本佑)の従者・百舌彦(本多力)が突如来訪 (C)NHK

川のほとりで、他人も自分も信じられないと言うほど弱りきった道長に、まひろは道長の重荷となっていた、自分との約束を忘れるよう告げる。しかし道長は「お前との約束を忘れれば、俺の命は終わる」と拒否し、さらにまひろに「俺より先に死んではならぬ」と願った。自分の役目をすべて終えたように思っていたが、道長が生きていれば、自分も生きられると気づいたまひろは、再び文机に向かう。そうして書き出したのは、光る君が亡くなったあとの世界の話・・・のちに「宇治十帖」と呼ばれる物語だった。

■ 2人の関係が完成形に到達…名シーンの構成に拍手

『光る君へ』がはじまった当初、吉高由里子はまひろと道長の「ソウルメイト」の関係について、「会えなくても、(恋が)実らなくても、生きてくれていたらいいと思える」「同じ時代に一緒に生きているということが生きがい」と語っていた。

そういった思いを直接語ることはほとんどなかったが、この第42回では「生きていてくれたらいい」どころか「一緒に死んでも構わないけど、できれば同じ世界で生きていたい」という、さらにステップアップした激情が語られた。視聴者に「さぶまひ」と親しまれた2人の関係の、完成形に到達したと言える回だろう。

『光る君へ』第42回より、見舞いのために道長(柄本佑)がいる宇治へ向かったまひろ(吉高由里子)(C)NHK

この頃の2人は、だいたい40代半ば。現在ならまだまだ働き盛りだけど、平安時代では平均寿命に近づいた年齢だから、実質的な晩年だ。まひろは『源氏物語』を完結させ、側に仕えた彰子もたくましく独り立ちし、一人娘・賢子(南沙良)も人に恋するほど大きくなった。一方の道長は、自分の権力に陰りが見えて、もはや誰にも望まれてないのでは? と弱気になっている状況。このまま引退したって、なんらおかしくない立場の2人なのだ。

しかし2人が川べりを歩きながら「このまま死んじゃってもいいか」という弱音をもらしていくうちに、いつの間にか「いや、やっぱり生きようぜ!」という心境になっていく。なにかの大きなきっかけで息を吹き返すのではなく、長い付き合いならではの自然な会話のラリーを交わすうちに、死の願望の裏に隠れていた生の渇望がむくむくと湧き上がってくるという、その構成と見せ方がまさに熟練の域だった。脚本・大石静の練られた会話と、吉高&柄本の絶妙な演技のやり取りがあってこそ、成立した名場面だろう。

■「宇治十帖」は言葉が「湧き出て」きた? 誕生の瞬間

さらにこの回で注目なのは「『源氏物語』宇治十帖がなぜ生まれたのか?」に、一つの回答のようなものを提示したことだ。光る君の子ども&孫世代の男女たちが、どこか神秘的な空気を感じさせる宇治の土地を舞台に、エロスとタナトスと仏教思想が交錯した人間模様を紡いでいく「宇治十帖」は、それ以前の物語とはタッチや雰囲気が異なることから、別人が書いた説(賢子の名前を上げる人も)も根強い。

『光る君へ』第42回より、再び文机に向かったまひろ(吉高由里子)(C)NHK

しかし『光る君へ』では、まがうことなく紫式部本人が書いたということに。一旦はすべて終わったと考えていたけど、道長がきっかけで訪れた宇治の美しい風景、改めて生きる意味を考えた道長との語らい、そして「たとえこの世で結ばれなくても、強く相手を慕う」という思い。それらが劇的に重なって、まひろは一度は置いた筆を再び手に取った。第31回の『源氏物語』誕生のときは、まひろの上に大量の言葉が「降りて」きたが、今回は直前の場面でインサートされた泉のように、言葉が「湧き出て」きたのだろう。

■「相手を生かすために精一杯生きる」2人の巻き返し

そしてまひろの「道長様が生きておられれば、私も生きられます」という言葉に、思わず涙した道長くん(柄本の表情筋をじっくり捉えた映像が絶品!)。今までもまひろのとの会話で、たびたびパワーチャージしていたけど、この最高に生きるモチベーションとなる言葉は、強力なカンフル剤となったはず。SNSでも「二人の恋と人生が成就した」「先に死ぬなとか、あなたがいれば生きられるとか、究極の愛だな」「今までで一番泣いたかもしれん」など、2人が長い間積み上げてきた至高の関係性に涙したという声も上がっていた。

『光る君へ』第42回より、まひろと宇治を散歩し、涙を流す道長(柄本佑)(C)NHK

ここからまひろは、より「人とはなんでございましょうか」を探求した新しい物語を記し、道長は「もう長くはない」と言い放った清少納言(ファーストサマーウイカ)を笑い飛ばすかのように、三条天皇(木村達成)を帝位からおろし奉ることにまい進する。姥桜が満開の花を咲かせるかのような巻き返しを、ここから見せていく2人。その原動力がどちらも「相手を生かすために、精一杯生きる」というのが、ただただ胸熱でしかない。さぶまひ、どうか最終回までこの尊い関係を貫いて!!!!

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。11月10日放送の第43回「輝きののちに」では、道長が三条天皇の譲位に向けて本格的に動いていく姿と、まひろの娘・賢子と若武者・双寿丸(伊藤健太郎)の関係に大きな変化が訪れるところが描かれる。

文/吉永美和子

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